ロン、ツモ、こうちゃん




『世界一効く抗うつ薬?それはね、四つ足で、尻尾をぶんぶん振り回して、無条件の愛をくれる生き物だよ』

コロナ前はひとり暮らしだった。仕事して、家に帰ってテキトーに食事して、休日にはどこかに遊びに行って。それで何ら不足はない。特に幸せではないが、不幸でもない。自由気ままの独身貴族だ。
やがて、ある女性が僕の人生に現れて、同棲するようになった。素敵な人だったけれども、40過ぎと高齢で子宮筋腫だ何だと体が悪く、子供は望めない。これからずっと夫婦二人きりというのは、お互い何か息がつまるようだ。子供がいれば注いだであろう、有り余るエネルギーと愛情を注ぐ対象が欲しい。

そこに、ロンが来た。
https://note.com/nakamuraclinic/n/n56a8113d655c
2020年2月生まれだから、コロナ禍の記憶はこの子とともにある。緊急事態宣言が出て、街から人が消えた。

マスコミによるインフォデミックが成し遂げた、ひとつの象徴的な風景

本来なら道行く人でにぎわう繁華街が閑散としていた。何の病気も流行っていない。流行っているのは、インフルエンザ以下の感染症だけ。しかしマスコミがわめきたてることで、街から人々が一掃された。
人々が自粛して家に引きこもっているときに、僕らはこれ幸いとあちこちに出かけた。いつも渋滞する高速道路が奇跡のようにすいていた。家族連れやランナーがせわしなく行き交う公園が、人っ子一人いなかった。おかげで、どこに行くにも快適だった。誰もいない公園で、ロンをリードなしで遊ばせることもできた。
コロナの本質をいち早く見抜いていたおかげで、僕らはコロナ禍の自由を誰よりも満喫することができた。情報格差により生じた一瞬の空白地帯。もうあんな時代は戻ってこないだろうなぁ。

ロンが大きくなってきて、子犬の面影が消えてきた頃、妻が「もう一匹欲しい」と言い始めた。
「2匹って大変だよ。世話も手間もだけどエサ代とか訓練所に預ける費用とか全部2倍だし」とやんわり否定すると、
「いや、犬同士で遊んでくれるから、2倍どころか、2分の1になる負担もあるよ。それにロンに弟がいたほうがいいと思う。それに、あなた、ロンが死んだら、って思うと耐えられる?私たちの心の健康のためにも、犬は2匹いたほうがいい」
なるほど。しかし2匹目を飼うとしても、さすがに大型犬はやめておこう。ビーグル犬なんてどう?

でも結局2匹目もゴールデンだっていう(笑)
https://note.com/nakamuraclinic/n/n5b100614e94c
妻は子供の代償を求めていた。小さく、か弱く、可愛いものが欲しかった。最初はロンがそれを満たしていたけれども、残念ながら、大きくなって、か弱くなくなってしまった(可愛いのは相変わらずだけど)。そこで、次なる「か弱きもの」として、ツモが来た。
しかし、やがてこの子も大きくなるだろう。そのときどうする?「犬のブリーダーやろうかな」と、冗談とも本気ともつかないことを妻が言い始めたとき、妊娠が発覚した。
https://note.com/nakamuraclinic/n/nc36036a9e179

そして、こうちゃんが来た。

僕の日常は、まず、朝は、ロンに起こされるかツモに起こされるかこうちゃんに起こされるか、その順列組み合わせから始まります(笑)
深夜家に帰ると、寝ていたロンとツモがすぐに目を覚まし、僕にとびついて熱烈に帰宅を歓迎してくれる。布団に入ると、ロンとツモが僕の横をとろうとしてポジション争いを展開し、たいてい年長者のロンが僕の横に陣取り、僕の顔をこれでもかこれでもかというくらいに舐めまわしてくれます(笑)
でもみなさん、ご存知ですか?犬を飼ってる人にとっては常識だと思うけど、犬に顔をなめられても全然くさくないんですよ。人の口の中は弱酸性で細菌が発生しやすいけど、犬はアルカリ性で虫歯菌とかが繁殖しにくい。だからそんなに匂わない。仮に人からこれだけ激しくなめられたら、もう、何かの変態プレーかっていうぐらいにえげつないにおいだと思います(笑)

休日は、ロンツモとこうちゃんに捧げている。山や海に散歩に行って、思いっきり走らせる。ボールを投げると、2匹で争って猛ダッシュする。見事ボールを捕まえた勝者が僕のところに持って来て、「また投げてくれ」と言わんばかりに僕にボールを見せる。この「持って来い」ゲームを飽きずに何度も繰り返す。
そんなふうに、ロンと3年を、ツモと1年を過ごしてきた。
犬と目が合う。彼らに言葉はない。でも、彼らの言っていることが分かる。いや、より正確には、「言葉はない。それゆえに、深く分かり合える」。こういう感覚が、こういう関係性がこの世に存在するということを、僕はこれまで知らなかった。

https://news.yahoo.co.jp/articles/61b9ee7c414c5e86ce17be38af4167c7731d0998?page=1

犬を飼うことによる健康効果を特集した記事があった。ざっとまとめると、
・犬と交流するとオキシトシン(愛情ホルモン)が増加→飼い主の「心の健康度」(安心、信頼)が増加痛みの閾値の上昇(痛みを感じにくくなる)。
・犬を飼っている人は、そうではない人と比べて、フレイル(身体機能衰弱)の発生リスクが2割低下する。
・一人暮らしで犬を飼っている人は、そうではない人と比べて、心血管疾患で死亡するリスクが36%低下する。

実は犬を飼う前から、こういう健康効果があることはすでに知っていた。たとえば過去記事でも
https://clnakamura.com/blog/6207/
https://clnakamura.com/blog/5498/
https://clnakamura.com/blog/5502/
https://note.com/nakamuraclinic/n/n64c489042a12
犬関連のことはけっこう書いてきた。
でも実際に飼いだして初めて、体感として理解できた。

たとえば、散歩したり「持って来い」をやったりして犬と丸一日一緒に過ごした休日の夜。こうちゃんはすでに布団で寝ていて、妻は寝る準備。僕は布団の上に横たわるロンツモをなでている。ふと、胸元に感情のかたまりがこみあげてくる。あたたかいような、なぜか涙が出そうになるような感情のかたまりが。
「あのさ、ちょっと言っていい?」と言葉にしてみる。「俺、今、めちゃめちゃ幸せやねんけど」
妻は笑って、でもすぐに興ざめなことを言う。「だから平日も仕事終わったらすぐに帰って来てって言ってるやんか。深夜3時4時までブログ書いてるとか本当にやめて」
言われると不愉快なことを分かって、言ってくる。でも、それは妻の照れ隠しなんだ。
一人暮らしをしていたときは、自分を特に不幸だとも思っていなかった。でも今なら分かる。それは、幸せを知らなかっただけなんだ。
幸せとは何か?
今なら明確に答えられる。ロンツモがいて、こうちゃんがいて、妻よ、あなたがいること。あなたが僕に幸せを教えてくれました。



今年の正月


1年前







犬にまつわる言葉

「『天使には翼がある』って言われてるけどさ、これ、正しくは『天使は四つ足である』だからね」

「犬が飼い主をじっと見ることってあるでしょ。そのとき、犬の脳内では、私たち人間が恋愛してるときと同じ物質が分泌されてるんだよ」

科学的には、忠誠心というよりは恋心ということか。

「魂のなかには動物を愛することで初めて目を覚ます箇所がある」

「人間が犬の心を持っていれば、世界はどれほど美しいことか」


「動物の目を見つめるとき、私はそこに動物を見ない。ただ、生き物としての存在感を、そして友情を、さらには魂を感じる」

「犬が人間より優れているところ?それはね、『知っていても言わない』ところだよ」

「世界が狂気に満ち満ちて、人間に失望してしまったとき、私はうちの犬を見ます。ひと目見るだけで、善なるものは存在するのだなと思えるんです」

「お金がなくても何がなくても、犬がそばにいる、ただそれだけで世界一豊かになれますよ」