アルコール依存症とCBDオイル

僕らオーソモレキュラーを実践する治療家にとって、「アルコール依存症にはナイアシン」と相場が決まっている。
ホッファーがナイアシンアミドを使ったRCT(無作為化比較試験)で有効性を示しているし、なぜ飲酒欲求を抑えるのか、その機序もある程度明らかになっている。
https://www.researchgate.net/profile/Jonathan_Prousky/publication/269929064_The_Treatment_of_Alcoholism_with_Vitamin_B_3/links/549977600cf22a8313961daa/The-Treatment-of-Alcoholism-with-Vitamin-B-3.pdf

でも個人的な印象としては、アルコール依存症者に対するナイアシン単体投与で飲酒欲求がしっかり治まるのは、せいぜい3割程度じゃないかな。残り7割の人に対しては、何だかパッとしないんだよね。
【症例】40代女性
付き添いで来られた旦那さんが語る。「昔から酒はよく飲むほうなんですが、最近飲み方が尋常じゃないんです。僕や子供の前では全然飲みませんが、焼酎の瓶をこっそり隠し持っていて、それをストレートで一気に飲んだりします。
酔い方もおかしいです。以前はビール10杯飲んでも平気でケロっとしてたんですが、最近は何だか目の焦点があってないような印象です。子供が話しかけても、いまいち会話がかみ合わなかったり。
何かヤバいなと思いながらも、様子を見ていました。でもきのう、決定打がありました。それで確信しました。もうこれは"病気"だと。実はきのう、飲酒運転したんです。いや、事故ったわけではありません。塾帰りの子供を迎えに行くときに、酒を飲んだ状態で車を運転したんですね。警察の厄介になったわけではありませんが、そうなってからでは遅いんです。それで何とかしないとと思って、ここに連れて来ました」
本人の言葉も聞いてみよう。
「炊事、洗濯、掃除とか、家事は全部できています。食事もとれていますし、便通も普通です。特に下痢ではありません。夫はちょっと騒ぎすぎです。確かに、お酒が飲みたい気持ちは強いです。でも毎日飲んでいるわけではありません。ただ、一口飲むと止まらなくなります。このあたりは自分でもおかしいと思います。
睡眠はとれていますが、深夜に中途覚醒があります。不穏な感じに襲われて、ドキドキと動悸がします。動悸は日中に起こることもあります。
生理は順調ですが、生理周期に伴う気分変動はあります。でもこれは今に始まったことではなくて昔からのことです」

本人の病識はあまり強くない。「確かにちょっと病的なところがあることは認めるけど、だからといって私から酒を取り上げないでくれ」といった気持ちだろう。
実はこれぐらいの、中程度の症状に対してどのような治療方針で行くか、けっこう悩ましいところである。
底つき体験、という言葉がある。「酒ですべてを失った。健康はもちろん、仕事、家庭、友人、金。すべて、アルコールのせいでなくしてしまった」という"人生のどん底"にまで落ちた人を、AA(Alcoholic Anonymous;病的飲酒に悩む人たちの相談の場)でたくさん見てきた。ここまで落ちた人なら方針は決めやすい。とにかく絶対断酒である。本人もその必要性を分かっているから、同意も得やすい。医者が言えば、抗酒薬でも何でも飲むだろう。
しかしこの人は、底つき体験の全然手前である。なんというか、まだ"余裕"で、切迫感もない。
個人的には、僕自身も酒を嗜むこともあって、節酒の色気を残してあげたい思いがある。断酒となれば、ずっと断酒である。正月やパーティー、記念日などはもちろん、我が子の結婚式など祝杯を挙げるのがむしろマナーであるような状況においても、飲まないのが基本である。きついだろうなと思う。できれば、人生のスパイスとして、酒の余地を残してあげたい。断酒ではなく、上手なお酒(節酒)で行けるなら、その道を模索したい。

だから、まずはナイアシンである。
実際、ナイアシンによって病的な飲酒欲求が消失し、"いい感じ"で飲めるようになる人も少なくない。
しかしこの人はダメだった。1か月後の受診時。本人が語る。「ナイアシンのホットフラッシュがひどく出ました。一応頑張って飲んでます。飲酒欲求はどうかなぁ。飲む回数は減ったかも。でも一回飲むと、堰を切ったようにたくさん飲むところは変わらないですね。あと、酒のせいか何なのか、ときどき片頭痛があります。それと、上の血圧はそうでもないんですけど、下の血圧がちょっと高いと会社の健診で言われました」

ナイアシン単体がダメだったとしても、二の矢、三の矢がある。「なぜ最初からその二の矢三の矢も一緒に出さなかったのか?」と思われるかもしれない。そう、そうしていれば、確かに治療成功率は上がるだろう。しかし患者の経済状況は様々である(「そんなにたくさん買わなきゃいけないの?」)。また、あまり多くの種類のサプリを出すと嫌がる患者もいる(「そんなにたくさん飲まなきゃいけないの?」)。だから、「安価なサプリを、必要かつ最小限の量で」というのが原則だ。
ただ、この人の場合、明らかにマグネシウムを出しておくべきだった。前回受診時からヒントは出ていた。不安感、動悸、生理周期に伴う気分変動。さらに今回の片頭痛、高血圧である。もう、「マグネシウム待ち」といった感じの症状の羅列である。(ついでに言うとビタミンB1も出しておくべきだった。B1不足によるウェルニッケ脳症ぽい症状もあったので)。

また、マグネシウムはアルコール依存症にも効く。これにははっきりエビデンスがある。
『マグネシウム欠乏とアルコール摂取量~その機序、臨床的重要性、癌発生との関連』
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7836619/
『アルコール依存症におけるマグネシウム欠乏~骨粗鬆症と心血管系疾患への影響』
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7847587/
『アルコール依存症におけるマグネシウム治療』
https://substanceabusepolicy.biomedcentral.com/articles/10.1186/1747-597X-3-1

そもそも、マグネシウムはアルコールに限らず、ベンゾ系睡眠薬やコカインなど依存症全般に効く。「addictionの治療と来ればマグネシウム」だ。

マグネシウムだけ加えて経過観察、ということでもよかったんだけど、ここで一気に治してやろうと思って、ダメを押しすことにした。CBDオイルも併せて勧めたのである。
CBDオイルのアルコール依存症に対する有効性にもエビデンスがある。
『アルコール使用障害に対するカンナビジオールの治療的展望』
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6554654/
医療用大麻で飲酒量が減った、という研究もある。
https://europepmc.org/article/med/33068830
大麻を吸い始めたことで、酒飲み約1000人のうち、44%は飲酒回数が減り、34%は飲酒量が減り、8%は一切飲まなくなった、という研究。

ただ、CBDオイルを勧めにくいのは、値段のせいだ。ちょっとお高いんだよね。でも効く人にはごく微量で劇的に効く。この人には、うちで扱ってる商品のうち一番安い3%10mlのを勧めた。普通3%といえば子供やペット(犬や猫)に使う濃度だけど、マグネシウムも併用することだし、コスパを考えるとこれで充分だと思った。

本日再診。
「飲酒欲求ははっきり減っています。ただ、正月くらいはと思って、ちょっとだけ飲みました(笑)焼酎を少しだけ。でもちゃんとブレーキがききます。以前のように押しとどめられないような飲酒欲求では全然ありません。妙な動悸や頭痛もなくなりました」

これは個人的な経験則だけど、「ナイアシン、マグネシウム、CBDオイル」の三種類を併用したアルコール依存症の治療成功率は、僕の中で100%です。まぁ何をもって「治療成功」とするか、定義がないから僕の主観だけど(笑)。
たとえばこの人の治療に際して、僕は断酒まで求めるのは酷だと思った。上手なお酒(節酒)でやれるんじゃないかと。で、現状、特に問題なくやれている。以前のように、こっそり酒を飲んでいるのを夫に見とがめられたり、飲酒運転したりしていない。
何より、初めてうちに来たときと表情が全然違う。すごく明るくなった。この人はきっと、もう大丈夫だと思うんだよね。