弁護士の思考法

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『最強の交渉術~かけひきで絶対負けない実戦テクニック72』(橋下徹著)。
冒頭から順番に読んでいく必要はない。適当にぱっと開いて、目についたところを拾い読みするだけでもおもしろい。
明らかに、著者の経験がにじみ出ている。どこかネット上に落ちている心理学とかハウツーの寄せ集めではない。著者の体温を感じるような実践的ノウハウが詰まっていて、「こんなに種明かししても大丈夫なの?」と思う。でも大丈夫なんでしょうね。今は橋下先生、弁護士というかコメンテーターですから(笑)
弁護士というのは、裁判官を前にして大演説を打ち被告を守る、みたいなイメージがあるが、そういう派手な仕事ばかりではないようだ。著者の仕事はもっと泥臭い。
「法律でそう決まっています」と言って、「うーん、そうか。じゃ仕方ないな」という会話が成立するのは、相手が同業者か、あるいは相手の頭がいい場合に限られる。実際の現場では「いや、法律がどうとか知らんがな」で終わりである。司法試験で問われるのは法律の知識であって、生身の人間を相手にする交渉能力ではない。だから、普通の弁護士は、話の通じない人間を嫌がるものだ。しかしこの著者は、誰もやりたがらないような示談交渉を好んで引き受ける。複雑な事情で長年こじれている案件や、激しい感情的対立がある案件など、難易度の高い交渉の場にズカズカと切り込んでいく。百戦錬磨のヤクザが相手でも物おじしない。依頼者が30万円を要求している案件でも、いけると踏めば50万円引っ張ってきたりする。必ずしもクリーンなやり方ばかりではない。法律的にギリギリのことをしたり、レトリックでうまく相手を丸め込んだりもする。味方につければこんなに頼もしい人はいないが、敵に回せば厄介だろう。
結局、人間力ということなんだと思う。著者としては、自分のテクニックを公開したところで、「どうせ誰も真似できない」と高をくくっているんじゃないかな。実際、僕も読み物としておもしろかったけれど、明日からの診療とか対人関係に生かせるかというと、無理だと思う(笑)
テレビ業界は常に有用な人材を探しているものである。「おもしろい弁護士がいる」という噂を聞きつけた番組スタッフが、橋下徹を『行列のできる法律相談所』に抜擢した。彼はここでもスマートだった。“正統派”の見解を語る北村弁護士に嚙みついたり、とぼけたところのある丸山弁護士に絡んで行く。このやりとり全体を紳助が茶化してオチをつける。彼はトリックスターとしての自分の役割をよく理解していた。番組は30%を超える高視聴率を記録し、同時に橋下徹は全国区の知名度を得て、政界にも進出した。その後の活躍は僕が説明するまでもないだろう。


さて、今回は法律の話である。今僕は、ある事柄で弁護士に相談している。
note記事を有料化しようと思い、note社に『定期購読マガジン』を申請したところ、不可解な理由で拒否されてしまった。以前の記事で触れたように、その後ある事情から有料化を思いとどまった。
https://note.com/nakamuraclinic/n/n075758aed776
つまり、僕としては、当初は有料化するつもりで、その旨で申請したけれども、今は有料化するつもりはない。しかし、note社は僕の記事の有料化を「認めない」という。
「しない」ことと「できない」ことは違う。なぜ「できない」のか。納得のいく回答が欲しい。
さらに、僕の記事は検索しても上位に表示されないようになっている。グーグルがやっているのかと思っていたら、意外にもnote社が自主的にやっていた。
https://note.com/nakamuraclinic/n/n203d782ba33f

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「クリエイターの創作をサポートする」と標榜してるくせに、検閲めいたことをやってる。このあたりについても説明を求めたい。

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弁護士
「プラットフォーマーの責任、特に私的な検閲というのは、かなり先進的な問題で、議論がまだ成熟していないところもあります」

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車がロボットになるという設定は、当時斬新だったと思うんですね。
「それはトランスフォーマーですね。ふざけているなら帰っていただいて結構ですよ。

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プラットフォームには大きく2通り、マッチング型(オークションサイトなど)と非マッチング型(SNSなど)があります。
前者の訴訟として、2008年ヤフーオークションで詐欺にあった被害者がオークションサイトを訴えた例があります。後者は、2ちゃんねる上での誹謗中傷に関する訴訟が有名です。
いずれのケースも、「プラットフォーマーがきちんと取り締まれ。詐欺師、誹謗中傷者を放置するな」ということを求めているわけです。
しかしこの理屈を進めれば、「デマを放置するな」という文脈で逆用される恐れがあります。「ワクチンを打って死亡するだと?こんなデマは即刻削除しろ」そういう具合に、特定の思想や表現がプラットフォームから締め出される形になるわけです。
プラットフォーマーは、あくまで「場」を提供しているだけで何の責任もないのか、あるいはそうではないのか。法律的にかなり難しい議論です。
ワクチン関係の動画がYouTubeですぐ削除されることは、皆さんすでにご存知でしょう。しかしこの明確な私的検閲について、裁判所が違法だと判断した例は、まだ世界でもほとんどないはずです

そもそも検閲というのは、憲法学的な定義で言えば、公権力(政府や行政機関)が行うもので、これについては厳格に禁止されていますが、私企業がこれをした場合、「検閲」には該当しません。
しかし現代社会において、プラットフォーマーが完全に私的な企業で何をやるのも自由、ということでいいのかどうか。よくないとして、どのように責任を理論づけるか。このあたりの問題はいまだ法律的に未整備です」

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なるほど、確かに。YouTubeの露骨な検閲でさえ違法とされないのなら、note社の検索順位の操作とか、あのうっとうしい警告表示ぐらいは、仕方ない感じですかね。
定期マガジン購読についてはどうでしょう?

「note社の利用規約を参照すると、規約7条が関係します。

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中村先生のブログが利用規約に違反しているかと言われると、明確に違反しているとは言えないと思います。規約9条で例示された禁止事項に該当しないからです。

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ただ、note側は公的見解とは異なる見解であることを理由に、利用者に誤解を抱かせるデマ情報として第20号の「不適切なもの」に当たると主張したいのかもしれません。

いずれにしても、note社は、独自に「不適切」だと判断すれば、定期購読マガジン登録させないことを、利用規約上、できます
しかし問題はここからです。
そのような濫用的な処分をプラットフォーマー側がした場合、クリエイターはどこに、どのような根拠で不服申し立てすればいいのか。
定期購読マガジン登録がされれば得られたはずの利益が失われた、としてnote社に損害賠償請求することも考えられますが、裁判所は逸失利益のような仮定的な損害を認めることには消極的ですし、恐らくプラットフォーマーの裁量を広く認めることが予想されます

「デマ情報に注意」といったプロパガンダが毎日テレビやSNSを通じて拡散されています。NHKも同様のスタンスです。裁判官もこうしたメディアの影響を受けずにはいられません。

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こうした文脈から見れば、note社が「公的見解と相違する情報を発信するクリエイターを利するべきでない」と判断したとしても、それが著しく社会通念に反する濫用的措置かと言われると、そうは言えないと判断される可能性があります。というか、「不確かな情報を拡散させないようにすることは、プラットフォーマーの責務である」みたいな判断を裁判所がすることは、十分あり得ると思います。

民事上の問題とは別に、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に該当するようにも思いますが、公取委が情報統制を問題視して動くかと言えば、残念ですが現時点では否定的だと思います。

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プラットフォーマーが不正確な医療・健康情報を規制するとして、さて、その情報が正確が否かを誰がどのように判定するのか。また、「不正確な情報だ」としてプラットフォーマーが情報統制した場合、表現の自由をゆがめてしまうという逆の問題にどうすべきか。このあたりの議論はまだ深まっていません」

ワクチンで多くの人が死ぬとか、癌になるとか不妊になるとか、僕の言論は「デマ」ということになっていますけど、これは時間の経過によって変化する気もします。今後、接種者の死亡や癌の増加は隠しきれなくなって、問題化すると思う。そうなれば、世論が沸騰して、「一体こんな危険なワクチンを政府は、マスコミは、なぜ推奨したんだ?」という話になって、僕の情報発信をデマ扱いして規制していた側が不利になる。そういう流れになるかもしれません。
あるいは、ならないかもしれません。「死者数の増加は、ワクチンではなく、コロナ死」「癌や不妊もコロナ後遺症のせい」みたいな形で、絶対にワクチンのせいだとは認めないかもしれない。
どうなるのであれ、僕としては、社会の変化を悠長に待つつもりはないです。
僕は、今、不愉快なんです。
以前はあっさり通っていた「定期購読マガジン」の申請が、今やるとなぜか通らない。納得できない。その理由が知りたい。それだけなんです
本当なら、もっとシンプルに、弁護士とか介さずに、いきなりnote社の社長のところに行って、事情の説明を求めたい。もちろん門前払いでしょう。だから、弁護士先生のお世話になるしかない。でも個人的には、法律的に勝てる算段をつけてから質問状を送る、みたいな、そこまできっちり理論武装しなくても、という感じがしています。
とにかく相手から一定の返答を引き出したい。それも、木で鼻をくくったようなものではなく、ちゃんと人間を感じられる返答が欲しい。

「質問状を送ると、note社は顧問弁護士に相談します。するとその弁護士は、先ほど私が話したのと同じように考えると思います。つまり、『定期購読マガジンの申請を不許可にしても、裁判所が損害賠償義務を認めるとは考え難い。提訴されるリスクも小さい。だから、“申請不許可の理由については回答しかねます”という定型文で何ら問題ない』弁護士はそういうアドバイスをすると予想されます。
中村先生。弁護士資格が刀のようなものだとすると、先生が刀を持ち出しても、応じてnote社も刀を持ってきます。刀があるというだけでは、相手はひるまないんです。戦った場合に負けない確信があると判断すれば、弁護士からの通知だからといって、誠実な回答は期待できないと思います」

いいことなのか悪いことなのか、僕は納得してしまった。仮に戦っても、結果はおおよそ見え透いている。弁護士先生の読みの正確さを、認めないわけにはいかない。
将来弁護士業務がAIに置き換わる、と言われても意味が分からなかったが、今ならその意味が分かる気がする。弁護士として優秀であればあるほど、コンピューターのような正確さで結果を透視できるようになる。
しかし見ようによっては「戦わずして負けた」ようなもので、どう悔しがったらいいのか、よく分からない。戦う前から結果が見えたことで、「エネルギーの節約になった」と喜ぶべきだろうか。
ひとつ救いなのは、この弁護士先生がとても人間的なことだ。僕は、人間に諭されて、刀をさやに納めた。ここが大事だと思う。諭してきたのがAIだったなら、果たして僕は納得しただろうか。


【参考】
「プラットフォーム規制に関する近時の議論」
https://in-law.jp/bn/2019/platform_mori.pdf


最後に告知です。
4月17日、もうすぐですが、東京有楽町でCBDオイルのセミナーがあり、僕も演者として参加します。興味のある方はお越しください。

JCCMセミナ-