見出し画像

「1日で絶対に漫画が仕上がるマンガ教室」の先生をやっている雑感

企業やショップなどに頼まれてマンガの作り方講師として出向くことがこれまでも度々あって、近年は自発的にマンガ教室を開くこともあります。

ちょっと珍しい仕事をしていると存外に聞かれるのが「儲かるの?」という話。「儲かるかどうか」って、つまり相手がリスクを取って取り組んだ事業のデータを(断片でも)よこせっていうことなんですよね。よく聞かれますが釈然としません。「じゃあ分かったから、話すから、ここのところ暑くてとても喉が渇くので、ジュース1本ごちそうしてください」という気持ちで自動販売機の高めのペットボトルのジュース(160円)の額面で回答を書きます。

「儲かるかどうか」の部分だけ有料公開にしておきます。

出版関係者からは「本当にみんな仕上がってるの?仕掛けは?」と聞かれ、一般企業の方からは「なんで一般企業にマンガの講師として呼ばれるの?」と聞かれ、マンガを描きたい人からは「下手な絵を見られて登校拒否を起こしたことまであるけどこんな僕でも大丈夫?」と不安がられることも増えたので、そうした疑問には無料で答えておきます。

基本的には1日完結で、〈1コマも描き上げたことがない人〉の漫画キャリアを、個人の場合は3時間半〜4時間、法人の広報担当とかメディア関係者向けだと6〜8時間で、〈1本描いたことがある人〉に変えてもらう、という方針でやっています。これには生徒さんの「仕上げよう!」という尽力が不可欠で、頑なにペンを持たない人は無理です。「本人に描く気があれば」という注釈が避けられないのは当然です。

「1日で」にこだわってる理由って実はそんなに深くなくて、「法人からは1日しか呼ばれないし、1回完結を求められるから、それに合わせた」っていうシンプルなもの。
法人さん的には何度も呼んでコスト(授業料+社員が受講している時間)を払い続けなくて済みますし、私としても頻繁に行くのは大変なので、駆け抜けるような指導方針は、お互いWIN-WINだったので、私も本気でそこに特化した授業を開発したというわけです。
で、「1日でできるよ〜」が売りになって、休みの少ない勤め仕事の人や、家事や育児で休憩時間が限られてる人、継続の習い事は経済的に難しい学生さんとかも気軽に受けてくれるようになった、ってだけ。


さて、「漫画は誰にでも描けるのか」という質問をよく受けます。

「身体的にペンを扱うのが難しくなければ誰にでも描けます(ペンは無理でもパソコンが操作できれば素材を駆使して作れます)よ」とも言えるし、「いや、これは特殊技能ですから限られた人だけでしょう」とも言い切れます。
“誰でも描ける”の前者は、〈マンガ描ける人〉ってニュアンス。コマが割ってあって、絵と文字があって、人物がセリフを喋って、みたいな体裁の、「情報伝達ツールとしての漫画」です。ちょっとしたエッセイとか、説明マンガ、広告マンガ、そこそこのレポートマンガとかですね。
“特殊技能”の後者は、〈作家〉ってニュアンス。グッとくるストーリーとか、他の追随を許さないキャラクター表現とか、すごい感情描写とか、めっちゃ売れるとか、ものすごい印象的なエッセイとか、才能商売みたいな、「エンタメ業界の漫画」のほうですね。

後者は自分で勝手に漫画家になる(し、強烈な個性が求められる段階で、私が教えられることってそもそもあまりない)から、私が教えているのは前者・「情報伝達ツールとしての漫画」の生徒さんたち…の中でも初心者・入門者・未経験者・挫折者です。

もう、全然描けない人。絵を1枚しっかり描いたことすらない人。棒人間しか描けない人とか、日常的に「マンガを描こう」なんて思わない、でも、自分の趣味やペットや家族や恋愛のエッセイをSNSに流してみたいとか、日頃感じていることをわかりやすく説明したいとか、仕事に使いたいとか憧れや展望はあるような。

このタイプの人が必要としているマンガの技能は一般的に「才能」と呼ばれるものが(マンガ市場の最前線を目指さないなら)要らないタイプのマンガです。
「数時間の根気と紙とペンとスマホでもあれば、明日にはもうSNSにあなたのマンガがアップされていることでしょう」って感じで。そんなにハードル高くないんですね。


マンガっていうのは便利で、説明や広告にも使えます。
必ずしも絵を描く必要はなくて、「どういうセオリーで構成すればいいか」を理解すれば、写真をはめ込むことでマンガとして成立させることもできます。
案外、マンガを作ったことがない人が定義するほど、〈マンガ〉という枠組みは厳しくないのです。

企業でマンガの講習をするのも、べつにストーリーを作って社員をプロ作家にするプロジェクトがあるわけではなくて(ごく稀に「福利厚生として社員に趣味クラスを提供している」という企業もあるけど、基本的には)「自社で広告マンガの企画をして絵だけ外注したい」とか「自社サービスの説明書をマンガで作りたい」というニーズに応えている形です。

考えてみれば当然ですよね。
広告系を引き受けてくれる漫画家を探し出して、自社サービスについて素人の漫画家に0から説明して、うまくいかない箇所があれば改めて情報を提供して改稿してもらって、なんて大変です。
社内で内容を詰めて、相談して、確定して、全部定まった段階で、作画だけ外部のイラストレーターなり作画だけやってくれる漫画家なりを捕まえるのが合理的です。
「食べたいものを詳細に伝えて、料理人にレシピを考えさせて、理想のものが出来上がるまで何度も作らせる」のは大掛かりですが、「食べたいものを考えて、レシピを自分で何度も考えて、納得したら、料理人を呼んできて美味しく調理してもらう」のだったら、お金と時間のかかるターンがコンパクトに済みますし。

最初、私も「一体なんでこんなマンガと関係ない会社が私をマンガの講師に呼んだんだ?電子書籍事業でも始めるのかな?ヒマなのかな?社長がマンガ好きなのかな?」って意味わからなかったんですが、フタを開けたらそういうことでした。なるほどね。

ちなみに個人の生徒さんで一番多い受講理由は「ヒマだったから」です。マンガ描きたい人ばっかりが来るのかと思ってたわ…。
次に多いのが「うちの子供の可愛さを伝えたいから」。次いで、配偶者やペットの愛らしさを伝えたいとか、趣味の日記マンガを描きたいとか、闘病記とか、社会的なメッセージとか。

そんなわけで意外なところにこそマンガ教室の需要が集中していて結構驚いた次第です。

「伝達ツールとしてのマンガ」を持ってると、結構便利です。
記念日に1年間のハイライトを冊子にして贈ったり、分かりにくい説明をマンガでしてあげたり、レポートやメモをマンガ形式でまとめてあげたり、親の手で描いた子供の成長記マンガを子供に見せたりすると結構はしゃいでくれるとか、いろいろ使いどころがあるんですね。
絵は上手くないから素敵な挿絵は描けないけど、文章だけじゃあ味気ない、という時に大活躍します。
あとは、(それに合わせて経費を割いてくれる会社、超ホワイトっていうかホワイト通り越してパールとかじゃんって思って腰抜けたけど)マジで業務上必要なマニュアルとかちゃんと読まない人にどうにかして注意事項や進行方法を理解させるために有用なんだとか…。
注文方法がややこしいECサイトとか商品説明が難しいサービスの説明とかでも結構役立ててもらってて、こういう用途だと1回マンガを作り上げた時の瞬発力と方法論があれば結構どうにかなるので(担当者さんも会社の経費で会社休んで何度も何度もマンガ教室通ったりはできないでしょうし、ストーリー作りの講座とか挟まってたら無駄になっちゃうし)、漫画家志望者よりも企業や商店からの要請が多いのはこういう理由なのだねー、と納得しています。
長期講座だったり、ストーリー漫画の講座だったら客層がガラッと変わりますが、私はたまにしか創作漫画の講座は持ちません。そこまで大掛かりな講座をやる時間があるなら、私は自分のストーリー漫画描きたいんで。

ところで、「よくわからないけどnoteで推されてたからフォローしちゃった…」という人は私が何屋さんだか分からないと思うんですが、私の普段のマンガの作風はこういう感じ……です。

でも、教える私のストーリーの空気感とか絵柄を真似る必要はないわけですね。私の後継になる弟子を探してるわけじゃないからべつに。

「マンガが作れるか」っていうのはつまり、1本で何を伝えたいかそのために1ページごとにどんな情報を割り振ればいいか、更に1コマ1コマに何を詰めれば伝えたい項目を満たせるか、という采配の技術みたいなもんです。
(更にそのあと「読みやすい」とか「読みにくい」の問題はあるけど、)まずはこの1本・1ページ・1コマの単位に分別をつけて取り扱えれば、最低限マンガみたいなものは作れるようになります。

そもそも「未経験者が上手い絵でバズるマンガを1日で描ける」とかは言ってないですから、1日で絵がうまくなるとかもないです。
1日で筋肉がついて、明日ボディービルダーとかモデルみたいになってるとか絶対ないのと同じですね。今日ブヨブヨだったお腹や二の腕は明日もブヨブヨですよ。続けていれば3ヶ月後は変わっているかもね、来年の今頃は引き締まってるんじゃない?ってだけで。
画力は時間をかけて向上させないと難しいと思います。ここは嘘つけません。
ストーリーテリングやセリフづくりも、長期的に培った言語センスが輝くまで磨けるかとか、作文の応用力とか、ネタの引き出しとか、一朝一夕の問題じゃないので、天才ストーリーテラーが1日にして生まれることもないです。

ただ、最低限のマンガを構成するのに必要な基礎知識と時間感覚は1日である程度掴めるし、何作描いても応用の効くセオリーを踏まえた授業開発をしたので、短期集中系の講座でも「マンガとして成立させ、構造が分かり、応用してまた作れる」という部分だけは鍛えてあげられます。

ですから冒頭で触れた、たとえば「下手な絵を見られて登校拒否を起こしたことまであるけどこんな僕でも大丈夫?」も、下手な絵を見られること(が嫌だ)にウェイトがあるなら、練習を積まないと絵は下手なままなので、そこのコンプレックスはほぼ解消されないと思います。そんなムシのいい話があったら、私だって漫画を始めて14年、漫画家始めて12年だからそろそろ全コマ絵がレオナルドダヴィンチみたいな感じに育っていたいもんですよ。絵は何度も何度も意識的に描く訓練を繰り返さなきゃ無理です。
(下手な絵しか描けない僕でも)マンガは仕上げられる?なら、「はい、マンガ仕上がりますよ」です。

あと、これは副産物的な「私がマンガを多くの人に教える意義」なんですが、“体験する”って、やっぱりすごいんですよね。

描き切った人の中には「これまで、漫画家は楽な商売だ、と言い切っていた自分が恥ずかしい。買っている雑誌の作家が休載するとSNSに“あいつは遅筆だからダメだ”とか“利き手以外のケガで休むなよ、座ってるだけだろ”とか書いてたけど二度としないと誓った」なんていう人も居ました(笑)
漫画家という仕事を「座ってるだけで稼げる楽してるヤツら」と言い捨てずに優しく扱ってくれる人が増えるのは、単純に嬉しいですね。(たくさんの労働問題を抱えた業界なので、業務内容を軽んじない、我々がどんなことをしているか理解している人が多いというのは、非常に心強いことです。少なくともこの感覚を持った生徒さんが他者に絵やマンガを発注することになった場合、それを全くしたことがない人よりは人道的な配慮をしてくれることでしょう。)

また何か思いついたり思い出したら追記するかもしれませんが、今のところ、みなさんにお話しできるのはこのくらいです。
「正直、マンガ教室儲かるの?」については、この記事の末尾に添えておくので、スクロールして下まで行ってください。

■初心者のマンガ制作に関するブログ
■個人の方向けのマンガ教室

個人の場合はSkypeでお願いしています。ビデオ通話のできる環境と、かなり流暢な日本語技能とニュース番組程度のスピードの言葉を聴き取れる聴力があれば自宅で簡単に受講できます。

不便をお掛けする以外の手段が用意できず申し訳ありませんが、マンガ教室を生業にしているわけではなく「休暇を使って気まぐれに」程度の開催なので、「自由の揃った人だけが簡単に受講できる」という制限があります。

5割以上を筆談で進行する場合や、日本語技能がネイティブレベルではない場合、育児中で頻繁にお子様のお世話のための中断が必要な方、ご自身の大切な情報などマンガ化したい内容の相談を他の参加者に聞かれたくない闘病中の方やセクシャルマイノリティの方などの場合、通常の教室の受講料より高額になってしまいますが、通常の倍〜数倍の時間を要し、事前の準備もご要望に応じて必要になるため、マンツーマンまたはグループで貸切の講座をお申し込み頂いています。

■法人・メディアグループ向け

これまで大阪と東京で開催していましたが、2016年からは原則として、法人か、メディア関係者のグループに呼ばれた時だけ出張対面、個人の方はオンラインに分けています。
(法人・メディア関係者グループは元より大阪・東京という私の行動圏にほぼ集中しているのに対して)個人で遠方の方は受講のためだけに他県からの高額な旅費を払って大阪と東京に来てくれる・海外の方は受講そのものを諦めるという状態が続いていたので、個人は自宅でオンライン教室という形にしました。

法人・メディア関係者の個人グループで受講を希望される場合は、希望人数を収容できる会議室やテーブルのある自社ロビーなどご用意頂けるかご確認の上、開催を希望する具体的な住所と日程、ご自身の所属情報、おおよその予定人数、どういった用途でマンガを修得したいかを添えて、公式の業務窓口からお問い合わせください。自社会議室等が用意できない場合はご相談ください。折り返しお見積もりを添えて、受付担当者または本人よりご連絡いたします。
人数と連動して最も増える作業は1人1人描いたマンガの確認と添削をする部分なので、基本出張料金(往復移動時間+講座の所要時間で決まりますが4〜7万円が多いです)交通費実費(徒歩30分を超える距離はタクシーを、電車で2時間を超える距離は新幹線を使わせてください)添削料金(アフターフォローが必要かどうかによりますが基本的には1人千円。大人数や後日添削も必要な場合はご要望に応じて。添削不要の場合は無料)という計算方法でお見積もりをお送りしています。

4名までであれば、オンラインの貸切教室もお申し込み頂けます。

■ほかのノートを見る
■「儲かるの?」という質問への回答

ここから先は

1,536字

¥ 160