『IPPON!』脱稿まで打ち合わせあと何本!?(10)|原作付きマンガ一緒につくろう計画
前回、“競り”がパワハラじゃないかと近藤くんに問いかけた野口くん。それに対して近藤くんは…。
(今回の範囲の原作)
近藤「それは……まあ、言われてみれば……」
野口「しかも、それに“競り”って名前をつけるって、どういうセンスだよって。この体育会系ノリ、もう何十年もやってんだろ、この大学」
近藤、少し考えてから、まっすぐに野口の目を見る。
近藤「ぼくも学生会のメンバーですから、パワハラ云々の指摘は、あとでちゃんと話し合います」
野口、(うっ、そこまでさせるつもりじゃなかった)の顔。
近藤「でもね、ぼくは、うれしかったですよ」
近藤「去年の競りで、先輩が他の部活の人を吹き飛ばしながらイノシシみたいに駆け寄ってきて、“陸上やろう!”ってビラを渡してくれたの」
× × ×
(フラッシュ)去年の競り
自己紹介後、新入生の近藤のもとに殺到するバスケ部や野球部、サッカー部の上級生たちを押しのけて、近藤に陸上部のビラを渡す野口。
× × ×
*第0話の原作全体をおさらいしたい方は『(1)第0本(プロローグ)原作テキスト』で再読できます。
◆原作担当:朽木 誠一郎
◆ネーム/解説:中村珍
※この企画は、2018年までに原作者・朽木誠一郎さんが執筆した原作テキストを頂いて、作画担当・中村が、2019〜2020年にかけて、制作と並行しながら解説しています。
通しネーム(掲載済みの分)
今回追加されたネーム
ここからネーム解説
近藤「それは……まあ、言われてみれば……」
野口「しかも、それに“競り”って名前をつけるって、どういうセンスだよって。この体育会系ノリ、もう何十年もやってんだろ、この大学」
近藤、少し考えてから、まっすぐに野口の目を見る。
ここは野口くんの意見(野口くんが“競り”をどう考えているか)を引き続き認識してもらいたい場面なので、凝ったことはせず、舞台背景+人物、人物×表情、というシンプルな構成にしてあります。
2コマ目の野口くんが若干アオリ(下から見上げた状態)アングルなのは視線を上に持って行きたかったため。
1コマ目を読み終えた後、2コマ目のセリフがちょっと長いので、読者さんの文字を追う目線は6行に渡って上から下に流れることになります。
電子書籍であれば小さなスマホで読む方も多いでしょうから、実際には大判の紙を見る時のように目玉が上下に動くことはそれほどないと思いますが…、だからといってパッと見すれば一目で読める分量のセリフ(たとえば「言われてみれば…」のような短いもの)というわけでもないため、恐らくこのフキダシの内容を読解するにあたっては、読み手の意識は上から下に数往復分、流れます。
そこへ更に人物(2コマ目の場合は野口くん)が正面〜やや下方寄りの目線を加えてしまうと意識は更にコマ下方へ…。
重心がコマの下部に集まってしまうと2コマ目の野口くんから3コマ目の近藤くんに辿り着くまでの目線(読者さんの意識が向く場所)は、ほとんど移動なし。
そうすると、近藤くんの“少し考えて”いる感じの演出がやりにくくなってしまいます。
2コマ目の野口くんが画面のやや上方を見ていることによって、読者さんの目線(意識の向く場所)を3コマ目から遠ざけて、距離を取ってくれることになります。僅かな差ですが、その距離によって、近藤くんが考えている時間を確保する。併せて、ページ上方から3コマ目に向かって意識を下に移動してもらうことにより、近藤くんの物理的なうつむき・近藤くんの目線が下に落ちる軌道・読者さんの目線…この3つにシンクロしてもらい、近藤くんが考え事をしている感じも出したい。
読み方は人それぞれなので、こちらにとって都合のいい視線の動かし方をしてもらえる保証はありませんが、なるべく、誘導できる可能性が上がる仕掛けを備えておきたいと思っています。
(近藤、少し考えてから、まっすぐに野口の目を見る。)
近藤「ぼくも学生会のメンバーですから、パワハラ云々の指摘は、あとでちゃんと話し合います」
野口、(うっ、そこまでさせるつもりじゃなかった)の顔。
続いては近藤くんが野口くんの「パワハラじゃね?」を受け止めたことを表明するシーン。
このページの1コマ目には、前ページの最後の2コマに含めた
近藤、少し考えてから、まっすぐに野口の目を見る。
という要素も含めています。
目を見るだけで3コマ使ったらちょっとくどいかな…とも悩んだのですが…。
でも、ここはパワーハラスメントの指摘を受け止める大事な瞬間。
しかも近藤くんは学生会のメンバーなので“競り”がハラスメントであるなら検討すべき立場にあるようです。そういう立場でありながら、しかし近藤くんは(この後のページで語られる通り)個人としては「でもね、ぼくは、うれしかったですよ」と、“競り落とされた”時の一連をポジティブな思い出として憶えている。
立場、個人の思い出、ハラスメントの指摘…全部含まれたややこしいものを抱えた状態なので、前のページでは間を置いた上で表情を変えて、それから最後にもうひと押し、このページの1コマ目で正面から野口先輩の目を見据えてもらいました。
近藤くんに意見を受け止めてもらった野口くん…「うっ、そこまでさせるつもりじゃなかった」という表情をすることになっていますが、この「うっ、そこまでさせるつもりじゃなかった」という顔はそれぞれ解釈が異なるので、原作者さんと打ち合わせる際には実際にその表情をやって見せてもらうのがいいかなと思っています(笑)全然違う表情を見せてもらった場合は描き直しですね。
ところで、原作には「うっ、そこまでさせるつもりじゃなかった」という野口くんの様子を表す一文がありますが、画面に入る(マンガにセリフやモノローグとして載る)文字情報としての指定は受けてありません。
が、表情だけで「うっ」ぐらいは伝わっても「そこまでさせるつもりじゃなかった」まで伝えるのは難しそうですし(…仮に私の画力・表現力が高かったとしても、この表情が「やべっ、近藤を怒らせちゃったかも」なのか「そこまでさせるつもりじゃなかった」なのかをほとんど全ての人に正確に特定してもらうのは難しいと思うので…)ここは文字で入れてしまってもいいような?と思って、初見ネームにはとりあえず文字で入れてあります。
ちなみに文字無し版がこちら(↓)。
フォント変更前がこちら(↓)。
キャプションをセリフと同じ仕様で打ち込むとこんな感じになります。
最終的な絵柄にもよると思いますが、本作のようなテンションであれば、フォントをコミカルな見た目のものに変更するのがマストかなー…と、現段階では思っています。
近藤「でもね、ぼくは、うれしかったですよ」
近藤「去年の競りで、先輩が他の部活の人を吹き飛ばしながらイノシシみたいに駆け寄ってきて、“陸上やろう!”ってビラを渡してくれたの」
× × ×
(フラッシュ)去年の競り
自己紹介後、新入生の近藤のもとに殺到するバスケ部や野球部、サッカー部の上級生たちを押しのけて、近藤に陸上部のビラを渡す野口。
× × ×
このシーンは『原作に組み込まれた要素』の登場順序を破ってネームを構成しました。
原作要素をちょっとだけ前後させながら作っています。
嵌め込む絵の内容量やカメラアングルの都合というのもありますが、一番気にしたのは、回想のリアルタイム性。
近藤くんは思い出を野口くんに語りながら、語っている瞬間も昨年の競りを思い出しているはずです。
競りを回想するコマが近藤くんの思い出話より後から来てしまうと、近藤くんが何を思い出しているか、彼の思い出がどんなものなのか、という彼の頭の中をリアルタイムで読者さんが把握できなくなってしまうので、そうならないように最初から視覚的に回想の内容が分かるようにしました。
↑このページに含めた要素
1)近藤「でもね、ぼくは、うれしかったですよ」
2)近藤「去年の競りで、先輩が他の部活の人を吹き飛ばしながらイノシシみたいに駆け寄ってきて、
3)(フラッシュ)去年の競り
4)自己紹介後、新入生の近藤のもとに殺到するバスケ部や野球部、サッカー部の上級生たちを押しのけて、
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原作付きマンガ一緒につくろう計画
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