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長崎県での今後のクルーズ船受け入れを考える

 4月20日に最初の感染者を確認してから、クルーズ船の乗員149名の陽性者を抱えながら、大きな混乱を招くことなく5月31日に出港したコスタ・アトランチカ。その後、全ての入院者も無事に帰国した。

 この功績は長崎大学病院、熱帯医学研究所やDMATなどの医療機関の方々の働きによるところが非常に大きい。昼夜を問わず、クルーズ船と市内の医療体制を守ってくださる皆様に心からの感謝と敬意を評したい。

 松が枝埠頭の2バース化、クルーズ船修繕事業への展望など、長崎港が世界に拓けていく未来を考えるとき、新型コロナ対応への不安が払拭されない限り、世界中のお客様がやってくる港をとして整えることはできない。

 つまり、今回のコスタ・アトランチカのケースは例外でなければならないのだ。長崎県が今後もこの事業を推進していくのであれば、「長崎モデル」ともいうべき確固たる「クルーズ船受け入れモデル」を検討すべきと考える。

 今回の事例を紐解きつつ、6月議会で本件について長崎県と協議した内容も含めて示し、今後への課題や解決策を考えていきたい。

1.客船受け入れ時に関わる機関

クルーズ船スライド.001

 上記の図に示すように、クルーズ船を受け入れる際には、その「時点」において携わる機関が変わってくる。上陸までの間には、検疫→出入国管理局→長崎県港湾課が関わり、上陸後には各保健所が管轄する。

 これまでは、長崎港における横のつながりとして「長崎港保安委員会」というものが存在しているのだが、事態が急変したのもあり、今回の件で双方にとって必要な情報のやりとりが行われていたかどうか、堂々と「イエス」と言える方は少ないようである。この委員会の中に上陸以降の管轄庁である保健所が入ってなかったこともまた、不幸だった。実際、この中の方々にお話を伺ったところ、今回は情報伝達において課題があったとのことであった。

2.保健所を含めた長崎県港湾協議体の発足

 専門性の高い各機関だからこそ横通しが重要であり、保健所を加えた協議体の発足が重要である。以下、6月議会一般質問で登壇し、県に訴えた。

クルーズ船スライド.002

3.船舶に適用される国際法について 

 次は核心となる法体系についてである。個別のケースを検討する前に、船に適用されるルールをおさらいしてみたい。

クルーズ船スライド.004

 まず、世界を航行する船は「国連海洋法条約」という国際法に従わなければならない。このルールの中では、船は「旗国主義」といって、船舶が掲げる旗の国が船舶を管轄することを意味している。コスタ・アトランチカはイタリア船籍の船なので、イタリアがこの船の管轄権を持ち、規制を行うことを意味している。日本の領海内であっても日本の管轄権は及ばない。

 このことが何を意味するかというと、「日本は航海中の船舶には国際法上、感染拡大の措置を講ずる権限も義務もない」ということである。しかしながら、実際には、ダイヤモンドプリンセス号の時にもコスタ・アトランチカ号の時にも、日本はそれらの船舶に対して介入し、対応したのだ。

 最も大きな理由は人道的な支援であったと思うが、それ以外の理由として、ダイヤモンド・プリンセス号の場合には、「乗船していた人たちの8割が日本人であったこと」、コスタ・アトランチカ号の場合には、私設の岸壁ではあったものの、長崎港内において発生したことなどが理由であると推察する。

 実はこれまでは、自国民がほぼ乗船していなかったクルーズ船や、地理的に遠い場所にいたクルーズ船については入港を拒否するなど、積極的な対応をしていない。過去、ウエステルダム号及びバハマ船籍の船舶に対して、出入国管理法に則って入港を拒否をしている。

 国際法上では、着岸を認め乗員の検査や生活支援をしたのは、つまり義務ではないと言えるのだが、この義務ではない人道支援に対し、今回、日本政府や長崎市が金銭的な負担をするという結論に至ったことは、大きな問題と考える。

4.本国による金銭的負担の根拠

 私は6月17日の長崎市議会において、政府と長崎市に約3,170万円の費用負担があることが明らかにされるまで、乗員の医療費については出入国管理法17条の「緊急上陸」が適用されるという認識を持っていた。

 6月9日に松が枝にある出入国管理局の長崎出張所に伺った際にも、「現在、入院している方達については『緊急上陸』の扱いになっています。」と確認していた。

 下記は、緊急上陸の条文である。4項には、緊急上陸時にかかった治療費等の費用負担は「当該船舶の長または運送業者」が負うものとなっている。しかし実際には、この17条緊急上陸については、「陰性者の入院費及び治療費」のみにしか適用されなかった。

第十七条
1 入国審査官は、船舶等に乗っている外国人が疾病その他の事故により治療等のため緊急に上陸する必要を生じたときは、当該外国人が乗つている船舶等の長又はその船舶等を運航する運送業者の申請に基づき、厚生労働大臣又は出入国在留管理庁長官の指定する医師の診断を経て、その事由がなくなるまでの間、当該外国人に対し緊急上陸を許可することができる。
2 入国審査官は、前項の許可に係る審査のために必要があると認めるときは、法務省令で定めるところにより、当該外国人に対し、電磁的方式によつて個人識別情報を提供させることができる。
3 第一項の許可を与える場合には、入国審査官は、当該外国人に緊急上陸許可書を交付しなければならない。
4 第一項の許可があつたときは、同項の船舶等の長又は運送業者は、緊急上陸を許可された者の生活費、治療費、葬儀費その他緊急上陸中の一切の費用を支弁しなければならない。

 実は下記のように、コスタ・アトランチカでのクラスターが発生する前、令和2年2月1日から新型コロナウイルスは感染拡大防止のため、検疫法上の隔離と入院勧告を可能にする感染症に指定され、その罹患者の自由を拘束する力を有する規定を定める代わりに、入院措置等は公費負担の対象となったのだ。

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 感染症法の19条の条文においても、感染拡大を防止するための医療費は公費負担となっている。

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 長崎市も、こうした費用負担が市に生じることを6月11日の時点まで知らなかったと回答している。

 今回、検疫法や感染症法が結果的に上位扱い(国に確認したところ、どちらが上位とかという話ではないと回答を受けた)とされ、費用負担に関して、その条文通りに感染拡大防止のために公費負担で検査や隔離を行うことを可能としている。

 しかし、クルーズ船のように「海外から」「1万人規模の観光客」がやってきて、その中で感染症が蔓延した場合を想定して、この法律が作られたものだろうか。今回のようなケースにおいて、責任の所在を明確にする国際的なルールが存在していないと、菅官房長官や中村知事も言及されている。つまり、想定外の事態でしかないのだ。

 私たちはこれから、新型コロナのような感染症が世界的に拡大する可能性を踏まえて法整備をしなければならない

 人道的に友好的に解決するために適切な医療支援を行っても、例えそれが私たちにとって市中感染を防ぐという目的であったにせよ、大勢の外国籍の一時的な滞在者のために私たちの税金によって莫大な医療費負担をすることはあってはならない

5.渡航者の自身の保険負担とすべき

 客船が動けば、乗員乗客合わせて1万人規模。それが同時に2隻3隻と入ってくれば、一つの市町が海を越えてやってくるのと同じ規模で人が動く。これは非常に大きな経済効果ももたらすが、感染症の拡大が閉鎖空間で起こった場合には想像以上のダメージをもたらす。

 せめて、費用負担は、他国民が日本においてインフルエンザになった時のように、自身の保険の中で保障されるべきではないだろうか。

 ほとんどの人たちは海外旅行の際には保険に加入するはずである。海外でコロナにかかったら、自己負担というのがルールになれば、その保険のカバーする病名に新型コロナも加えられるということになるのではないだろうか。

6.受入国のデメリットを小さくすること

 4月22日、全国市長会と全国町村会は政府に対し、大型客船ダイヤモンド・プリンセス号を各自治体で受け入れたものの、現時点まで費用の支払いがないことから、国に立て替えを求めている。(参照:朝日新聞「大型客船医療費「国立て替えを」2020年4月23日)コスタ・アトランチカのケースでも、船会社負担のものがいくつもある。「自衛隊の出動費、DMAT費用、医療コンテナ設置費、PCR再検査費用」などである。

 先日、最後の入院者が帰国したことから、県は今回のクルーズ船に関わる費用の最終的な算出を開始したものと見ているが、この費用だけでも相当な金額になるものと思われ、ダイヤモンドプリンセス号の時と同じように、船会社から県に対して支払われるタイミングが遅くなることも考えられる。

 回収に時間を要し、さらに陽性者に関わる医療費も全て負担せねばならないことは、受け入れる国・自治体にとって大きなリスクである。

クルーズ船スライド.005

 よって、上記のようなことから、市民や国民にとって負担なきよう、世界的な対応状況を鑑みながら、国内の法整備に努めていただきたい。

 2018年10月の厚生労働省の調査によると、全国で訪日外国人の医療費未払いは9,400万円であった。(参照:外国人患者の医療費未払いは9,400万円、旅行保険に未加入の訪日外国人は3割。保険の認知度向上も課題

 この数字が平均と仮定すると、年間に10億円近い金額が未払いのままとなる。この額だけでも大きな損害であるが、これにさらに訪日外国人の医療費負担を加えると、インバウンドの恩恵を考えても無視できない金額であるはずだ。コロナによる医療人材や医療体制への打撃に加え、金銭的な打撃までを受けるのならば、メリットよりもデメリットが気になり、世論はインバウンド受け入れに抵抗感を抱く。

 あくまでも、インバウンドの方達を受け入れ、もてなす側の市民県民のみなさんが安心して喜んで迎えられるようにすること、これが最も重要なことであり、そのために然るべき法整備や環境整備が行われていくことを求める。

7.長崎モデルの提唱

 現在外務省を中心に、クルーズ船受け入れの指針について議論がなされている。一方で、県港湾管理条例において、松ヶ枝岸壁などの県が管理する施設では、本県に入港するクルーズ船の係留許可責任は県となっており、今後クルーズ船を受入れるにあたり、「これで大丈夫と」判断するのは、まさに長崎県となるのだ。

 国内を代表とする、クルーズ船受け入れ港として「長崎モデル」の提唱ができないだろうか。

 本県は、今回のクルーズ船対応を通して、これまで示してきたように、多くのことの知見を得た。結論としては、今の法体系では、到底、安心して市民県民がクルーズ船を受け入れることができないということだ。これを「長崎モデル」の基礎としなければならない。

 また、本県に「長崎モデルの提唱」について問うたが、船内の健康状況などの必要な情報を収集・共有しながら、受入れについて総合的に判断していくとの答弁を得た。「長崎モデル」なのか名称は分からないが、長崎県の知見を国の施策に反映させるべく、既に検討している。

 今は全く市民県民のみなさまには到底受け入れられる状況ではないが、県経済と雇用のための重要施策である、「長崎港を活用したクルーズ船の2バース化とメンテナンス事業」はこれから育てなければならない事業である。その決意を確かにして、市民県民とクルーズ船のお客様の視点に立ち、みなさまに安心を届けれれるよう取り組んでいきたい。

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