【短編小説】火の花が散る下で

“僕と彼は親友だった。
幼い頃からずっと一緒で、同じ習い事に通い、夏には僕の父と彼の父と一緒 に海に釣りへ行ったり、遊園地で遊んだり、泊りの旅行に行ったり、お互い の家に泊まったり。
中学生になった時、一緒の部活に入った。
高校も同じ学校に進学した。
そして高校生になった時、僕に好きな人ができた。
彼女はとても美人で、クラスの人気者だった。
僕は彼女のことが大好きで、彼女に恋をした。
でも、彼女は同じくクラスの人気者のイケメンと付き合っていた。
僕は諦めようとしたが、できなかった。

夏休み前のある日、親友と8月の夏祭りについて話していた時だ。
偶然耳に入ってしまった。とある噂が。
なんでも天使様を呼んで願い事を言うと、願いが叶うらしい。
家に帰って、僕は天使様について調べた。
願いの内容に対応した天使様を呼ばないといけないこと。
儀式のやり方。
そうしているうちに夏休みに入った。
僕は儀式を実行することにした。

まず紙に二重の円、二重の円の内側の円の中に六芒星を描く。
六芒星の中にト音記号と音符を描く。
2重の円の内側と外側の間にスズランを描く。
そしてこの魔方陣の中にスズランと笛を置く。
最後に「天使の讃美歌」という曲を流して「天使様、願いを叶えてください。」と魔方陣に向かって言う。

…本当に来るとは思っていなかった。
気が付いたら僕が呼んだ「愛の天使様」がいた。
僕よりかなり身長が高く、性別不詳の真っ白な見た目、赤い目、白くて長い巻き毛の髪。
「私を呼んだのは貴方でしょうか?」
天使様がそう語りかけてきたので、僕は願い事を言おうとした。
そしたら、天使様に言葉を遮られた。
「何も言わなくてもわかりますよ。私は心が読めますから。
その願い、叶えてあげましょう。」
そして気が付いたら、天使様はいなくなっていた。

そして親友と約束した夏祭りの日。
普段なら約束の時間に遅刻しない彼を待っていると、好きなあの子が話しかけてきた。
「少し、いいかな。
実はこの前彼と別れてしまって、今日夏祭りで一緒に周る人がいないんだ。
もしよかったら、どうかなって。」
…好きな子にそう言われたんだ。断る理由がなかった。
そして一緒に屋台を周った後、花火が見える川の土手で、彼女に告白された。
あの噂は本当だったんだと思った。
僕と彼女は付き合うことになった。

夏休み明け、夏祭りのことを謝ろうと、親友のもとに行った。
親友は忘れていた。
夏祭りのことだけじゃない。僕との今までの思い出も。僕のことも。

親友とは別の大学へ行き、卒業して社会人になった。
彼女とは今も仲は続いていて、最近婚約して来月に同棲を始める予定だ。
でも、親友のことを僕は忘れられなかった。
だから、また愛の天使様を呼び出した。
結局親友は戻ってこなかった。
それどころか、婚約までしていた彼女に振られてしまった。
そしてそこから僕の人生は狂っていった。
仕事が上手くいかなくなり、大事を起こしてしまって辞職せざるを得なかった。
クビを言い渡された日、電車に乗っていたら痴漢の冤罪をかけられてしまった。
警察にも信じてもらえず、前科者になった。
親にも大学時代からの友人からも縁を切られてしまった。
僕を振った婚約者は、高校時代の恋人とよりを戻して結婚するらしい。
お金も底を尽きた。
僕は欲張りすぎたんだ。
願いに「代償」があるなんて思っていなかった。
僕はすべてを失ってしまった。

そして絶望の中、あの火の花が散る下で、川に身を投げることにした。
最初から願わなければ、今も親友と一緒にいたのだろうと思うと、悲しくなる。
この遺書を読んでいる君へ。
欲は身を滅ぼすということを頭の片隅にでも覚えていてほしい。
そして僕の犠牲を忘れないでほしい。

それが僕の最期の願いであり、欲望だ。“


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