ピアニシモ / 辻仁成
第13回すばる文学賞受賞作品。
89年、辻さんの処女作となるこの小説には、
キレイな比喩と表現で軽やかに伝えてくれる辻文学の原型がある。
暗く陰湿な内容であればあるほど、
辻さんの表現は冷静にクールに核心をついてくる。
影と湿気を帯びたイジメ、空虚な家庭像、伝言ダイヤル・・・、いつの時代にも存在する若者の若者による虚像の世界。
80年代の歴史背景も感じ取れる内容だ。
最後は少年は立ち上がり、自立し、成長していく。
ここに辻さんの根底にある愛が感じられるんだな。
なかば強引に自立しようとする少年の心へ何かを差しのべているような・・・。
少年の自立のキッカケを失恋においたところもイイ。
荒廃した世の中、そして純粋なまでの恋・・・
大人になってもその構図は何ら変わらない事に気づかされる。
20代で読むピアニシモ、そして今読むピアニシモ。
同じ思いがこみあげてきた。
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