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4D映画の「におい」

ガソリンスタンドのあの独特の匂いが好きって人もいれば嫌いという人もいる。

昨今の映画館には4D映画という、アクションシーンで椅子が揺れたり、水に入るシーンで顔面に霧が噴射したり、遊園地のアトラクションさながらの演出を楽しみながら映画を鑑賞できる席が導入されている。

その中で演者がお酒を飲むシーンになると、そのお酒の匂いの霧が鼻元に噴射する仕掛けがあった。

初めて4D映画を観たとき、演者がウィスキーを飲むシーンが出てきて、ウィスキーの匂いであろう霧が僕の鼻元に噴射されるのだが、その匂いが僕からしたらどうも「ひじき」の匂いで、その後ウィスキーのシーンが出る度に「ひじき」の匂いが僕の鼻元を通過した。

しかも、その映画がイギリス風のシャレオツな雰囲気をまとった映画なので、なにかあるたびに演者が神妙な面持ちでウィスキーを飲む。そしてその度に僕の鼻元には「ひじき」が運ばれてくる。

後半になると映画「時計じかけのオレンジ」に出てくる犯罪抑止の実験(囚人に拘束着を着させて、瞬きすら禁止の状態で強制的に何時間も暴力映画を観させて暴力行為そのものに嫌悪感を覚えさせる実験)さながらに、「もうひじきはやめてくれぇ!」という状態になった。

もちろん映画の内容に集中できるわけはなく、
「4Dではもう映画は観ない。ひじきもしばらくいらない。」
そうつぶやいた小寒い秋の夜だった。

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