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焙煎機とハンドロースト

 今回は焙煎機とハンドローストの違いについて綴ってみたいと思います。
ここでいう「焙煎機」とは
・加熱する器具(ガスバーナーなど)と生豆を投入するドラムが一体型
・ドラムが自動で回転する
ものを指しています。ドラム内の温度とか排気温度、ドラムの回転速度の調整ができるとかできないとかの細かいところは見ていません。
 また「ハンドロースト」とは
・加熱する器具(ガスコンロなど)と生豆を焙煎する器具(手網など)が一体となっていない
・手で振ったりすることで焙煎中の生豆が揺れ動く
ものを指しています。端的に言えば手網、フライパンなどが前提です。

 どうでしょう?どちらで焙煎したコーヒー豆の方が「美味しい」イメージがあるでしょうか?イメージとしては焙煎機で焙煎したものでしょうか?

 確かにやりやすさはありますよね。焙煎機は一定のリズムでドラムが動いてくれ、加熱する器具も一体となっているので火力の調整もやりやすい。加えてダンパーもついていますから。でも、ハンドローストで焙煎しても自家焙煎店と同じ、あるいはそれ以上のフレーバー、スウィートネス、マウスフィールなどを安定して引き出すことができます。

 それはハンドローストから始まり、ディードリッヒ、ローリング、ギーセン、プロバット、フジローヤル、ディスカバリー、プロバットのサンプルロースターなどを操作してきた経験とコーヒー焙煎の工程を鑑みても十分可能です。実際に色々な人で集まって、それぞれが焙煎機で焙煎したコーヒーをカッピングする機会に私はフライパンで焙煎したコーヒーを紛れ込ませたのですが、それを「フライパン焙煎だ」と伝える前はもちろん、伝えた後も「焙煎機で焙煎したものと同じかそれ以上だ」という言葉が出ました。

 これはその場にいた方の焙煎技術が未熟だったというわけではありません。ただ、私が焙煎工程を理解してフライパンを駆使しただけにすぎません。そこで、焙煎機とハンドローストの違いについてこれからお伝えしたいと思います。

【焙煎量】
 焙煎機は「コーヒーを焙煎するために存在する」わけですから小さいものは「サンプルロースター」と呼ばれる焙煎機が生豆で100g位から焙煎できますが、一般的に焙煎機と聞いて想像するのは1回の焙煎で1㎏以上焙煎できるものでしょう。まさに商品を生み出すための機械です。細かい仕様は多々ありますがここではそこには触れません。
 一方ハンドローストは1回の焙煎で100g位までがよい所でしょうか。手軽にできる一方で1回の焙煎量はコーヒーカップ数杯分の量に留まります。友達を呼んで「おうちカフェ」を催す場合にはぴったりの量でしょう。

【ドラムが動く】
 焙煎機はコーヒー生豆を投入したドラムと呼ばれる部分がモーターで動きます。モーターの動きは一定であるため焙煎中のコーヒー豆は常に一定の動きで踊ります。そのおかげで焙煎士は火力とダンパーの調整に集中することができます。これはうまく焙煎するためにとても大きな効果を生み出します。ドラムの回転が変わる焙煎機もありますが、その効能について今回は触れません。
 一方ハンドローストは焙煎士自らの手で手網、フライパンなどを振ります。動かさずにいれば熱源に近い側だけが色づいてしまいまだらの焙煎豆となってしまいコーヒー豆のもつ風味を十分に引き出せずに終わってしまうからです。ですからハンドロースターは常に片手で焙煎器具を振り続ける宿命を背負うことになります。

【価格】
 これが一番大きい違いだと思います。焙煎機と呼ばれるものでお金を支払ってそれなりの風味を引き出せると思うものは云十万円~です。販売用の商品を焙煎するものとなると桁が変わってきます。具体的な数字は公開していないメーカーさんもいるので書きませんが、価格はするし、場所はとるし、用途はコーヒー焙煎だけ。よほどコーヒーを愛してしまった人以外は生計を立てるためにコーヒーを焙煎する人が所有するものだと思います。
 その点ハンドローストで使用するものは手網、フライパンですから1万円も出せばお釣りも来ます。それでいて味だけでいえば自家焙煎店並みにできますから「コーヒーの焙煎を楽しむ」であればこれは最高と言えるでしょう。
 
 大きく違いを書き出しました。これを見ると焙煎機はオートマ車のような感じでしょうか。運転に集中しやすい環境ですね。オートマの乗りこなしてくると「ここでこうしたい」が出てくるのと同じく、焙煎では火力操作やダンパー操作にやりたいことが出てきます。そこが焙煎機選びのポイントになってきます。私は現在、長野県の軽井沢に焙煎所を設けていますが選んだのはオランダのギーセン社の焙煎機にしました。他にも迷った焙煎機はあったのですが「やりたいことをやる」となると現時点ではこれだったんです。

 焙煎機の中には焙煎の工程(焙煎プロファイルとも呼ばれています)を記録、または記録された他の焙煎士の焙煎工程を入力して再現できるものもあります。でもそれってもはや焙煎士が焙煎していないので「自動運転の自動車に乗っ出かけた」だけですよね。焙煎することが好きな人からすればやることとしては「生豆の計量」「焙煎機への投入」「焙煎機からの排出」ということになります。
 
 一方、ハンドローストは自転車に近い(モノによってはミッション車)感じでしょうか。自転車で風を感じながら走るのは気持ちよいもので、目的地に到着する達成感もあるのですが、運転中は360℃のビューを楽しめないのです。ハンドローストは片手でコーヒー豆を揺さぶり、片手で火力調整をしたりする。焙煎中とても忙しいのですが達成感もあると思います。これをキャンプなどのアウトドアでやって見晴らしのよい景色の中、煎りたてのコーヒーを飲んだらどんなに満足でしょうか。

 ここまで読んでいただいた方は思うところがあると思います。「じゃ、どうやってハンドローストで焙煎機並みの風味を引き出すのか?」と。
そこは焙煎の工程について知っていただくとより実践できる部分なんですが、それは少し横に置いて器具の説明をします。
 よく知られている「手網」ですがこれはしっかりとした苦みのあるコーヒーを焙煎するのには向いていると思います。自家焙煎店などにいくと「ケニア」「エチオピア」「ゲイシャ種」みたいにフレーバーをウリにしている豆があります。あれはフライパンで焙煎するとフレーバー、スウィートネス、ロングアフターテイストなどが引き出せます。うまくフライパンで焙煎すれば後味に残る尖った酸や重たい口当たり、生っぽい感覚は出さずに甘く長い余韻のコーヒーに仕上げられます。
 ただし、フライパンでは引き出しきれない部分もあるのでそこは然るべき焙煎機を然るべき技術を持った焙煎士が焙煎することで引き出せます(焙煎機使えばだれでもできるわけではありません。自動車運転免許持っている人全員の技術が同じではないことと相通じていると思います)
 
 じゃ、なぜフライパンがよいのかというとムラなく焙煎しやすいからです。
 
 ムラなく焙煎するためには「フタ」を使用してください。フタは透明のものでフライパンの中のコーヒー豆を見ることができるものがよいです。

 さて、さっそく説明していきましょう。

【フライパンを温める】
計量したコーヒーな豆を手元に置いてフタをしたフライパンを温めます。これは焙煎機を温めるのと同じです。

【熱になじませる】
ほどよく温まったらコーヒー生豆をフライパンの中に入れ、すばやくフタをします。生豆はころころと転がしてやってください。常温だった生豆が次第に熱を帯びて熱に馴染んできます。生豆の色がイエロー近くなる前に馴染ませることがポイントになります。

【水分が抜ける】
生豆が熱に馴染んでくるとフライパンのフタに水滴がついてくるようになります。まさにコーヒー生豆から水分が抜け始めていることが分かります。水滴が一杯になったらタオルなどで拭いて、コーヒー豆の変化がみられるようにするといいですよ。

【色づく】
コーヒーの水分が抜けて乾燥してくると褐色反応が起こり始めます。そうすると生っぽい香りから始まり次第にコーヒーらしい香りに変わっていきます。ここで一気にコーヒー色にしたい気持ちも芽生えるかもしれませんがそこはちょっと抑えて進めていきたいところです。

【煎り止める】
次は煎り止めです。お好みの焙煎度合いで煎り止めをしてください。

大筋を書きました。フライパンのフタは焙煎中曇ってきますから都度拭いてください。チャフは手網焙煎ほど出ません(焙煎前に生豆を水で洗う必要はありません)。手網で焙煎するよりも豆全体に(もちろん豆の中にも)熱が通りますので表面に脂質がにじみ出にくいです(一気に火力をかけるとテカります)マイルドな口あたりで華やかなフレーバーや甘さを感じる焙煎にできます。

詳しいポイントはNAKAJIの焙煎講座にお申し込みください。オンラインでも直接でも詳しい説明を実演しながらさせていただきます。これを知ると自家焙煎店の焙煎が面白いように紐解けてしまうようになります。

本日も最後までお読みいただきありがとうございました。



 

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