見出し画像

Perspective

昨夜、坂本龍一さんのオンラインライブが配信されました。終盤「aqua」「energy flow」の演奏を聴き、ふとこれまでの20年が思い出されました。このnoteは私の授業を履修してくれる学生さんに読んでもらうことも想定しているので、記者としての私の足跡、そして人と出会うということについて、何か参考になればと思い、このエントリーを書きます。

「aqua」は1998年発売のアルバム『BTTB』収録曲、「energy flow」は翌年CMで大ヒットした曲。坂本さんの「energy flowは僕にとって、わりと最近のような気がするんですけど、もう20年経つんですね」というMCを聞き、20年前『BTTB』を聴きながら坂本さんの記事を書いた日々を思い出すとともに、そこから今の人生が始まっているのかもしれないと、ふとそんなことを考えました。

私が最初に坂本さんに会ったのは通産省(今の経産省)を担当していた1999年3月、デジタル音楽著作権問題の取材を通してのこと。こんな記事を書いたりしました。

画像1

また私自身、環境問題に興味があり、京都会議の取材などもしていたことから、翌年にはこんなインタビュー記事も書きました。

画像2

坂本さんとのやりとりを通じて「環境と経済」についてさらに興味を持ち、インドの貧困削減活動の現場を訪ねたり、息子とテントを持って東北のエネルギー施設を回ったりました。2001年9月、同時多発テロが起きると、坂本さんを囲む十人ほどのメーリングリストで共有したテキストを本にしようと、『非戦』を出版することになりました。

出版時に書いた記事がこちらです。

画像3

本をつくるということ、デザインするということ、プロモーション……新聞しか知らない私にとって初めてのことばかりでした。坂本さんという天性の編集長の指示の下、さまざまな才能の方々と働くことによって「伝える」「届く」ということについて真剣に考え、多くを学ばせていただいたのがこの時期です。

その後も坂本さんに取材しては、メール対談やアートディレクション入りの紙面など、新聞的に珍しいことや初めての試みを経験させていただきました。私が大川地区に通うきっかけとなった連載「生命の旋律」(2003~04年)も、坂本さんとの雑談の中から生まれたものです。

震災後の私は、「復興」という公共事業の激流の中で小さな地域が何とか内発的な未来を見いだせるようにと、被災地を歩いてきました。昨年2月、模型プロジェクトの一環として、地域の思い出を朗読するコンサートを開くことになり、縁あって東北ユースオーケストラ有志が来てくれました。そこで彼らが朗読とともに演奏する曲として選んだのが「aqua」でした。

朗読はこんな感じです(今年2月の演奏)。

https://www.facebook.com/watch/?v=2528940917368008

思えば『非戦』は、「報復」へと傾く圧倒的な報道の中で「そうではない声」を集めたものでした。模型プロジェクトも、災害の悲しい記憶を伝える報道とは別に、自分が確かにそこに生きていたという証し、暮らしの記憶を残したいという地域の人々の思いから始まったことでした。20年近くを経て、その記録集の出版を機に、「aqua」という曲に、そして坂本さんに再び会えたのは、偶然ではなかったのではないかと感じました。

人生にはいろいろな時があります。今もそうですが、先が見透せなくなる時もあります。ただそんな時でも、日常のふとした瞬間に目の前が開けることもあります。自分が何を大切に思うか、どのような世界を望むか、興味や関心に忠実である先に、会うべき人との出会いや未来への展望があるのではないかと思います。

Every day I open the window.
Every day I brush my teeth.
Every day I read the paper.
Every day I see your face.
(Perspective, YMO, 1883)

こんな時だからこそ、日常を大切に、出会いと未来を信じて今できることをすること。昨日の配信を聴きながらふと思い、長い文章を書きました。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?