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「素敵な転売」と「センス悪い転売」の違い

大学2年生の5月、僕は人生のドン底にいた。もらっていた奨学金について勘違いをしていて、支給されるのは1年生限定で2年生以降はもらえないことに気がついたのだ。恐る恐る親に伝えると「自分でなんとかしなさい。お金を用意できないなら大学をやめなさい」の一点張りで、涙を流して土下座しても1円たりとも出してくれなかった。

当時の僕にとってこれは間違いなく人生最悪の出来事だったが、思い返すとこの事件のおかげで「自己責任」という言葉の意味を理解することができた。誰にも頼ってはいけない。全て自分で責任を追う。お金がないと幸せにはなれないという残酷な現実も身をもって学んだ。大学をやめたくなかった僕は必死に頭を使ってお金を工面する方法を考えた。それが転売だった。

「転売」と聞くと悪いイメージを思い浮かべる人が多いと思うが、それは違う。この世には「素敵な転売」「センス悪い転売」がある。僕がやっていたのは「素敵な転売」の方で、どうにかうまくいったおかげで2ヶ月で50万円を用意してどうにか学費を補った。(当然これだけでは足りないから残りは別の奨学金と他の仕事でまかなった)

当時僕がやっていたことのひとつはApple製品の転売で、Amazonで安く仕入れたiPhoneやiPadをメルカリで売って利益を得ていた。本当はもうちょっと複雑な仕組みを作っていてこれ以外にもいろいろやっていたんだけど、それについては割愛する。とにかくAmazonで安く仕入れて、メルカリで高く売って、現金化していたわけだ。

これは「素敵な転売」だった。なぜなら僕は「とんでもなく安く仕入れて、市場価格より安く売っていた」からだ。

中世から近代にかけ、近江を本拠地として日本中を行商し、各地の需要に合わせた商売で日本経済の発展に大きく貢献した「近江商人」をご存知だろうか。彼らは自分たちの利益のためだけでなく、社会貢献活動にも重きをおき、「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の「三方よし」の商売をしていた。

僕がしていた「素敵な転売」は、この「三方よし」に近い。とんでもなく安く仕入れたおかげで、僕=売り手は市場価格より安く商品を売ることができる。よって買い手はどこよりも安く買うことができて、ハッピーになる。Apple Storeで10万円で売られてるiPhoneを9万円で買えたら誰だって嬉しい。これを8万円で仕入れていれば僕は1万円儲かるし、そのうえ相手も1万円得する。「世間よし」とまではいかないが、「売り手よし」「買い手よし」の二方よしな取引なのだ。

「でも結局は転売じゃん。意地汚い」と思う人がいたら自分でこの素敵な転売をやってみてほしい。99%の人は不可能だ。なぜなら最初の市場価格よりとんでもなく安く仕入れることがとても難しいからだ。冷静に考えて新品で10万円で売られているiPhoneを素人が8万円で仕入れられるわけがない。もちろん僕にもそんなことは不可能だった。だから中古品に目をつけていた。中古品は扱ってるショップによって商品の状態の判定にばらつきがある。あるショップでは「良い」判定のモノも、いざ買ってみると「非常に良い」状態なことが多々あるのだ。この歪みを利用すれば市場価格よりずっと安くApple製品を仕入れることができる。僕はこれを20歳のときにやっていた。

「素敵な転売」にはセンスがいる。ほとんどの人間は考えることすら放棄して、市場価格よりとんでもなく安く仕入れる方法を真剣に検討しない。面白いモノで、人間は完璧じゃないから絶対どこかに歪みがある。とんでもなく安く買って、市場価格より安く売ればみんなハッピーだ。普通に買えば10万円のモノを9万円で買えて不幸になる人はいない。これが素敵な転売である。

一方で「センス悪い転売」とはなんだろうか。これは「供給が限られているモノを市場価格で買って法外な高値で売り飛ばす転売」のことだ。記憶に新しいのがPS5を巡る転売騒動だ。希望小売価格4万9980円で売り出されたPS5は生産量が限られており、抽選によって数量限定で販売された。発売当初は定価の10倍の50万円近い高値で転売され、どうしてもプレイしたい熱心なファンは法外に高い値段で買わざるを得なかった。

これはセンス悪い転売だ。なぜなら抽選に申し込むことなんて誰でもできる。当たれば市場価格でモノを買って、法外な高値で売るだけ。自分の頭を使って商売をしていないのだ。人気ライブのチケットを転売するのも同様にセンスの悪い転売だ。売り手は儲かるからいいかもしれないが、買い手は不幸だ。どうしても欲しいのに、供給が限られてるから自分が買う順番が回ってこない。外れてもどうしても欲しいなら、高値で転売されたモノを買うしかない。買い手はその値段に全く納得していないので、極めて不幸だ。

素敵な転売は違う。買い手はこの場合、あらゆる選択肢が目の前に広がっている。Amazonで買うことも楽天で買うこともできる。売り手であるこちら側はその多数ある選択肢のなかから自分を選んでもらえるように工夫しなくてはいけない。この工夫こそがセンスが試される面白いところで、売り手の力量が試されるのだ。

センス悪い転売は、買い手は転売されたモノを買う以外、選択肢がない。買い手に選ぶ自由がないのだ。選択肢を持たない相手に法外な高値で売りつけるのは暴力行為だ。僕はこんな転売には美学を感じないから絶対にやらない。美学のない金儲けほど醜いものはない。

ちなみに冒頭で触れたApple製品の素敵な転売はもうやっていない。時間が経ったことによって歪みがなくなったからだ。僕もこれをやっていたのは学費をどうしても稼がないといけなかった大学2年生の一時期だけで、以降は全く別のことをやっている。面白いもので、目を凝らして知恵を絞って世の中を見渡すと、絶対にどこかに歪みがある。その歪みは時間が経てば消えるが、いち早く見つけて利用すれば利益を得ることができる。僕はこの「歪み」を見つけることが楽しくて仕方がない。今も面白い歪みを見つけては、利用できないか実験しながら検証している。

物言う株主の異名で知られた旧村上ファンドの村上世彰氏は「安く買って高く売る以外の商売があったら教えてよ。これがビジネスじゃないか」と語った。全くその通りで、商売の基本は「安く買って高く売る」ことだ。言葉にすれば簡単だが、安く買うことは誰にでもできるわけじゃない。これができるようになるためには、自分で手を動かすしかない。

興味がある方はぜひ自分の頭で考えて歪みを探し、素敵な転売を実践してみてほしい。

それでは素敵な1日を。


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