二十歳
六月七日。僕は二十歳の誕生日を迎えた。
二十歳になったからといって、特に、新たな決意をするわけでもなく、ごく普通にその日を迎えた。
すると、その朝、部屋に電話がかかってきた。
女性の声である。
「中井佑陽さんですね。群馬県出身で、二十代の方ですよね。」
「はい、そうですけど…。」
話を聞くと、彼女は、「日本インターネット」(仮名)という会社の三上さん(仮名)という人らしい。
「佑陽さんは、旅行やレジャーなどが嫌いな方ではないですよね。」
「まあ、嫌いではないですけど。」
何だか怪しいセールスにつかまってしまったな。高いものを売り付けられそうだったら、はっきり断らないと。
「JRの特別割引券や、映画の招待券やCDの割引券などお渡ししたいんです。」
なんだ?どういうことだ?
話を聞くと、その会社はランダムで選んだ二十代の人を対象に、二十代の人の間でどのようなものが人気があるのか、市場調査をしているらしい。いろいろな大手企業から依頼を受けているらしく、その企業が発行した割引クーポン券を使うと、安く商品を購入できたりする。それによって、どんなものが人気かわかるらしい。
う~ん。ありそうな話ではあるかもしれない。
そういう割引券は一生使うことができるという。そうなると僕はこれからずっと、色々なものが安く手に入るのかな。何かを買えといっているわけでもないし、くれるといっているだけだし、名前も名乗っているし、もし嘘でもこっちが損する話でもないし…。でも基本的に怪しい…。
「渋谷にありますTKビルに取りにきていただきたいのですが。」
「え?渋谷?」
「明日、受け取りの印鑑と、身分証明書も持ってきてください。」
めんどくさい話だ。
『まっぷる』で調べると、確かにTKビルというビルはある。小室さんが作ったやつだろうか。
そのあともいろいろあったのだが(JRに電話して本当かどうか確認するなど)、翌日、結局、僕は渋谷には行かなかった。やはりどうしても胡散臭い感じがしてしかたなかったからだ。
その日、爆笑問題のラジオ番組をテープに録ったものを聴いていた。すると、爆笑問題が、ちょうど悪徳商法の話をしていた。はがきが読まれていたのだが、その中に、
「旅行に安く行けるといって、会員になれと言われる」
みたいな話が出てきた。さらに太田さんが、
「ああいうのって、たいてい新宿とかのビルから電話をかけてくる」
と言うではないか。僕のケースにとてもよく似ている。
行かなくてよかった。
それにしても、後になって考えると、割引券を配って、安く物を提供したら、正確な市場調査はできないんじゃないかとか、そもそもそんなめんどくさいシステムを誰がやりたがるだろうとか、いろいろおかしな点は見つかる。
なんだか、せっかくの二十歳の誕生日が、変な日になってしまったものだなあ、と思う。でも僕は心は一年遅れているから、来年が心の二十歳ということで、来年こそいい誕生日になってほしいと祈っている。
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今はすっかり静かなバーの似合うナイスミドルになった中井佑陽ですが(行ったことはない)、大学生だった頃もあります。そんな若かりし頃に書いたエ…
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