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歌集評・一首評・その他書評

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歌集評や同人誌などの一首評、小説の書評です。
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#染野太朗

【書評】『初恋』染野太朗歌集

悲しみはひかりのやうに降りをれど会いたし夏を生きるあなたに この歌集を最初に読んでからしばらくが経った。 そう、しばらくが経ったのだが、この歌集に溢れる恋心と夏のイメージが去らない。 むしろ、光は反射し、重なり、より強くなる。 帯の表に挙げられたこの歌に、そのエッセンスは凝縮されている。 「たったひとつの(過ぎた)恋」(いや、主体の中では完全には過ぎていない)、そのワンテーマが一冊を貫く。潔い歌集だと思う。 きみがまたその人を言ふとりかへしのつかないほどのやさしい声で

【一首評】短歌同人誌「西瓜」第8号(後半)

短歌同人誌「西瓜」第8号、一首評の後半です。 はじめての世界に降るよう金色の火事を起こして橋に散る葉が               とみいえひろこ「瞬く川、感情」 とても静かで、輝いていて、スローモーションのように黄色の葉が散る様を思い浮かべた。 何度も繰り返されている光景なのに、あまりに鮮やかで、まるで「はじめての世界に降るよう」に思われたのだろうか。 初めて世界に、ではなく「はじめての世界」であるところがポイントだと感じた。 世界自体が生まれたてで真っさらであるかのよ