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歌集評・一首評・その他書評

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歌集評や同人誌などの一首評、小説の書評です。
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#小説

【書評】『自由研究には向かない殺人』『優等生は探偵に向かない』ホリー・ジャクソン(小説)

(作品の内容を含みますので、少しでもネタバレしたくない方は  ぜひ作品を読んでからお越しください) 真実を知ることは痛みを伴う。 時に大きな代償を払うことになる。 本書の主人公、高校生のピップ(ピッパ・フィッツ=アモービ)は、自分の住む町、 イギリスはリトル・キルトンで起きたある事件に疑いを持ち、調べ始める。 彼女は正義感が強く元気いっぱいで恐れ知らず、と言うかかなりむこうみずで 怪しいと思った人に直撃インタビューをしたり、他人に成りすましてメッセージを送ったり 時には他

【書評?】『街とその不確かな壁』村上春樹(小説)

(作品の内容を含みますので、少しでもネタバレしたくない方は ぜひ作品を読んでからお越しください) まず君に伝えておいた方がいいだろうと思うのは、 僕が今、村上春樹の小説『街とその不確かな壁』を読み終えたばかりで、 彼の文体の癖が少々この手紙に影響しているだろうということだ。 最後のページを閉じたのはほんとうについさっきのことで、 まだ彼の文体が僕を内側からほのかな星の光のように温めてくれている。 こんなふうに書くと、君はあるいは心配するかもしれない。 村上春樹の文体を真似

【書評】『クララとお日さま』カズオ・イシグロ(小説)

(作品の内容を含みますので、少しでもネタバレしたくない方は ぜひ作品を読んでからお越しください) 裕福な家の子供は、AFと呼ばれるアンドロイドの親友を持つ近未来の社会。 AFのクララは店頭でジョジーという女の子に気に入られ、 ジョジー一家と共に暮らすことになる。 「向上処置」のせいで体調の悪いジョジーがもし亡くなったら、 クララをその代わりにしようと心の底で考えるジョジーの母親。 観察眼に優れたクララの目線で語られる物語である。 カズオ・イシグロの作品はいつも衝撃的で示唆