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歌集評・一首評・その他書評

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歌集評や同人誌などの一首評、小説の書評です。
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#野田かおり

【書評】『風を待つ日の』野田かおり歌集

肌寒き春の空気を逃しつつレターパックに課題を詰める コロナ禍の定時制高校。休校が続いている。 教員をしている主体が生徒たちの家へ課題を郵送するところだろう。 春の空気を逃す、という言い回しに、主体自身のやるせなさが滲むようだ。 この歌集は、コロナ禍の教員生活を明確に詠っている。 ほのほのと運ばれてゆく福祉科の春の準備のマネキン一体 ゆゆゆゆとひとの集まる職場ゆゑ在宅勤務選びて帰る 午後九時をはじまりとして円になり部員四名ラケットを振る 教員生活が描かれる歌を挙げたが

【一首評】短歌同人誌「西瓜」第8号(後半)

短歌同人誌「西瓜」第8号、一首評の後半です。 はじめての世界に降るよう金色の火事を起こして橋に散る葉が               とみいえひろこ「瞬く川、感情」 とても静かで、輝いていて、スローモーションのように黄色の葉が散る様を思い浮かべた。 何度も繰り返されている光景なのに、あまりに鮮やかで、まるで「はじめての世界に降るよう」に思われたのだろうか。 初めて世界に、ではなく「はじめての世界」であるところがポイントだと感じた。 世界自体が生まれたてで真っさらであるかのよ