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歌集評・一首評・その他書評

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歌集評や同人誌などの一首評、小説の書評です。
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2024年4月の記事一覧

【書評】『風を待つ日の』野田かおり歌集

肌寒き春の空気を逃しつつレターパックに課題を詰める コロナ禍の定時制高校。休校が続いている。 教員をしている主体が生徒たちの家へ課題を郵送するところだろう。 春の空気を逃す、という言い回しに、主体自身のやるせなさが滲むようだ。 この歌集は、コロナ禍の教員生活を明確に詠っている。 ほのほのと運ばれてゆく福祉科の春の準備のマネキン一体 ゆゆゆゆとひとの集まる職場ゆゑ在宅勤務選びて帰る 午後九時をはじまりとして円になり部員四名ラケットを振る 教員生活が描かれる歌を挙げたが

【書評】『初恋』染野太朗歌集

悲しみはひかりのやうに降りをれど会いたし夏を生きるあなたに この歌集を最初に読んでからしばらくが経った。 そう、しばらくが経ったのだが、この歌集に溢れる恋心と夏のイメージが去らない。 むしろ、光は反射し、重なり、より強くなる。 帯の表に挙げられたこの歌に、そのエッセンスは凝縮されている。 「たったひとつの(過ぎた)恋」(いや、主体の中では完全には過ぎていない)、そのワンテーマが一冊を貫く。潔い歌集だと思う。 きみがまたその人を言ふとりかへしのつかないほどのやさしい声で