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歌集評・一首評・その他書評

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歌集評や同人誌などの一首評、小説の書評です。
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2024年3月の記事一覧

【一首評】第35回歌壇賞受賞作・次席・候補作品より

『歌壇』(本阿弥書店)にて2024年2月号~4月号までの3ヵ月間、作品評を担当させていただきました。 最終回はちょうど歌壇賞の発表号にあたり、受賞作や次席、候補作品からも何首か評を書かせていただいたのですが、 文字数の関係もあり、残念ながらすべての作品に触れることができませんでした。 そこで今回、一首ずつにはなりますが、掲載された連作すべての評を書いてみたいと思います。 (作品評で取り上げた連作については、誌面で挙げたのとは別の歌を取り上げています) 紙片にも陰のあること 

【書評】『日々に木々ときどき風が吹いてきて』川上まなみ歌集

まず街の静かなことを書いてゆく日記始めの夜やわらかく 歌集の巻頭歌。日記始めであると共に、歌集のオープニングでもある。 「夜がやわらかい」という捉え方が作者自身の柔軟性をも表すようだ。 これから始まる一冊の、その全体のトーンを表現するような一首で、冒頭の歌としてとても素敵だと思う。 この歌集は、教師として働く職場詠や、恋人との関係性が表れる歌、家族の歌など、等身大の生活を静かなトーンで詠う。 身の回りのことや、細かな動作、なかなか捕らえられない何気ない心の動きを描写する歌