マガジンのカバー画像

歌集評・一首評・その他書評

29
歌集評や同人誌などの一首評、小説の書評です。
運営しているクリエイター

2023年1月の記事一覧

【書評】『あるはなく』千葉優作歌集

静かな語り口で、統一感のある美意識を感じる歌集だ。 ロマンチストだったり、寂しがりだったり、少しハードボイルドだったり、 隠し立てなく正直な主体の姿が次々と立ち現れてくる。 あの夏のきみにまつはる思ひ出のすべてが夏の季語だつたこと 願ひごとみたいに遠いあなたへと夜ごとに白い鳩を飛ばすよ 好きだつたことは伝へず春の夜の別れにあたたかいカクテルを 抱き合へば風はさくらを降らすだらう春のぼくらを遠景にして 泣いたあとしづかに顔を拭ふ朝あなたは冬のけやきにもどる たましひ