【書評】『あるはなく』千葉優作歌集
静かな語り口で、統一感のある美意識を感じる歌集だ。
ロマンチストだったり、寂しがりだったり、少しハードボイルドだったり、
隠し立てなく正直な主体の姿が次々と立ち現れてくる。
あの夏のきみにまつはる思ひ出のすべてが夏の季語だつたこと
願ひごとみたいに遠いあなたへと夜ごとに白い鳩を飛ばすよ
好きだつたことは伝へず春の夜の別れにあたたかいカクテルを
抱き合へば風はさくらを降らすだらう春のぼくらを遠景にして
泣いたあとしづかに顔を拭ふ朝あなたは冬のけやきにもどる
たましひ