プレゼンテーション1

3つのニュースで振り返る2019年のデザインと法 [DESIGN/LAW]

2019年も、デザインと法に関するニュースがたくさんありましたね。その中から印象的だったものを、独断と偏見で、3つだけピックアップしてみました。

1.  adidasの3本ライン商標がEUで無効に?🇪🇺

数多くあったデザインと法関連のニュースの中で、おそらく一番広く話題になったのではないか、と僕が思うのは、adidasの3本ライン商標を巡るEUの判決のニュースです。

ただ、このEU一般裁判所の判決は、事案や法律論がやや複雑であったこともあり、残念ながら「EUではadidasは3本ライン商標を一切主張できなくなる」「それはビジネスとしては大打撃だ」と誤解も一部で広がってしまいました。しかし、実際には「これでadidasが靴や衣服について3本ラインの商標権を一切行使できなくなった」わけではありません

adidasは、この商標により「あらゆる長さの3本ラインが靴や衣服のあらゆる箇所に施されること」を全てカバーする商標の獲得を目指しました。それに対しEU一般裁判所は、今回の商標はそのような変幻自在の商標ではなく、「まさにこの長さと比率の」3本ラインの商標だと捉え、結論として無効だと判断しました(詳しく知りたい方は、下記のスレッドをご覧ください)。

ちなみに、adidasは例えば次のようなEU商標(位置商標)を持っています。なので、原則としてこういったデザインを他社が靴や衣服に無断でEUで利用することはできない、という状況は今後も変わりません。

このニュースは、デザインと法の専門家がもっと情報発信を行って、少しずつでもよいので、社会全体での理解を拡げる必要があると感じるきっかけにもなりました。

2. EUでデザインの著作権保護が拡大📜👖©️

次に、個人的に一番インパクトがあったニュースが、プロダクトデザインも広く著作権法で保護すべきだと判断したEU司法裁判所の判決です(Cofemel事件)。

日本では、プロダクトデザインなどの実用品のデザインは意匠権で保護すべきであり著作権は「遠慮」すべきだという理由で、デザインの著作権の保護範囲は非常に狭く限定する考え方が多数派です(争いあり)。それに対し、EUは他の絵画などと同じように、作者の個性が発揮されている創作的表現であれば著作物として保護されるという考えに立つことが、今回の判決で明らかになりました(これも、詳細は上記のTwitterのモーメントをご覧ください)。

実はEU司法裁判所では、2020年にもプロダクトデザインと著作権に関する重要な判決が出る予定なので、引き続きこの分野は注目です。

3. AdidasのYeezy Boostのデザインは著作物か?👟©️🇺🇸**

EUの話題が続いたので、最後はアメリカから。

以前は、アメリカでは、ファッションデザインについて「商品全体のデザインは保護しないが、表⾯のプリントや柄、テキスタイルデザインは著作権で守る」という考え方が採られていました。しかし、2017年の連邦最高裁判決では、実用品そのものは著作権では保護しないという原則は維持しつつ、「頭の中で想像したときに、絵画的・彫刻的特徴が実用品そのものから分離して把握できる場合は、その特徴は保護できる」という判断基準が示されました。それ以来、「どこまでなら分離できるのか?」という点について、裁判所や有識者の議論が分かれている状況です。

そして、2019年5月8日、アメリカ著作権局は従来の方針から一歩踏み込み、Yeezy Boostの表面デザインだけでなく、立体部分までデザイン上の特徴を著作権で保護しました。

具体的には、上記のVersion 1 については「グレーのファブリックの上に⿊⾊の不規則かつ様々な⻑さのラインや形が配置され、アーチ状の⿊⾊の半円と、オフホワイト⾊のかかとのループの上に施されたオレンジのドットのストライプ」により構成されるデザインを著作権で保護すると判断しました。

今後、アメリカでのデザインの著作権保護の状況がどうなるか、引き続き注目です。

以上、Twitterの切り貼りによる、雑な1年の振り返りでした・・・。

他にも意匠法改正など重要なテーマは盛りだくさんだった2019年。来たる2020年はどのようなデザインと法ニュースが出てくるのか、楽しみにしています。

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