賞レースの審査方法について考えてみる

 今日、お笑いの賞レースは数多く存在する。それ故に審査方法も様々であり、そのいずれもが長所と短所を持ち合わせている。今回はそれらの長所および短所について考察をしていきたいと思う。


1. 得点方式

採用されている主な賞レース
・M-1グランプリ(1st)
・R-1グランプリ(1st)
・キングオブコント(1st、Final) など

 恐らく最もオーソドックスな審査方法だろう。審査員複数名が(大抵の場合)100点満点で採点し、その合計で順位を決定するというものだ。この方法は言わば学校のテストと似たようなもので、そのネタの評価がどの程度のものなのかが数字として表れる。そのため一目見て優劣の程度が分かりやすい。M-1 2019のミルクボーイなんかがいい例だろう。2位のかまいたちも660点と決して低くはない(むしろ高い)のだが、彼らは681点と完全に他を圧倒していた。一方で、1点2点を争う戦いになってもそれはそれで面白かったりする。

 しかし、この方法の欠点としては、ネタ順が先であるほど顕著に不利になる事だ。特にトップバッターはその得点が大会全体の基準となるため、どれだけネタが良くてもなかなか得点が伸びづらい。あまりにも高い点を序盤からつけてしまうとその後に控える組が更に良いネタを披露しても今度はそちらを評価しにくくなってしまう。かといって全組ネタを観てから一気に採点するのはあまり現実的な方法ではない。現状、序盤の組が高い順位に行くには、審査員に高い点をつけても良いと思わせるくらいの圧倒的なネタを披露するしかない。実際、昨年のKOC、M-1でトップバッターだったカゲヤマ、令和ロマンがそれぞれ準優勝、優勝を勝ち取っている。いずれもトップバッターながら会場の空気を完全に掌握していたように感じた。が、こんなのはごく稀な例なのである。

2. 投票方式

採用されている主な賞レース
・M-1グランプリ(Final)
・R-1グランプリ(Final)
・THE W(1st、Final) (1stはブロック、勝ち残り方式と混合)
・ツギクル芸人グランプリ(1st、Final) など

 こちらは主にFinalで採用されている方法だ。全組のネタが終了した後に審査員が一番面白いと思った組に投票し、最も多くの票を獲得した組を勝者とするシステムである。また、少し変わった投票方式として、各審査員が3票を任意に振り分けてその得票数で競うというものもある。こちらは2012年~20年のR-1ぐらんぷりで採用されていた。

旧R-1で採用されていた方式

 投票方式の利点として、審査する側にとって楽であることが挙げられる。得点方式では審査員は色々考えながら採点する必要があるのに対し、こちらは一番を決めされすればいいという何とも単純明快なものである。また、そもそもの組数が少ないのもあるだろうが、ネタ順の影響を受けにくい。これはここ数年のM-1やR-1でも2位、3位通過者が度々優勝している事実が証明している(大抵は上位通過者のネタ順が後になる)。

 しかし、一番を決めればいいという単純さ故の欠点もある。それは、「僅かな差が形として表れにくい」点である。M-1 2022のFinalを例に考える。各組の得票数は

ウエストランド… 6票(優勝🏆)
さや香… 1票(準優勝🥈)
ロングコートダディ… 0票(3位🥉)

であった。数字だけ見るとウエストランドの圧勝のように見えるが、ウエストランドとさや香の間にはそこまで圧倒的な差があったのか?票を得られなかったロングコートダディは上2組より完全に劣っていたのか?答えはNOだろう。この年のFinalは本当に拮抗しており、その中でウエストランドの評価が僅かに上回った審査員が6人いたに過ぎないと思う。もしくは審査員によっては本当にウエストランドの評価が圧倒的だったのかもしれないが、その真意は視聴者には分からない。得点方式の場合はその差の大小が点差という分かりやすい形で表れるのに対し、投票方式ではそれがどうしても分かりにくくなってしまう。

3. ブロック/トーナメント方式

採用されている主な賞レース
ブロック
THE W(1st) (投票、勝ち残り方式と混合)
ABCお笑いグランプリ(1st) (審査員ごとの順位に応じた点数を付与)
ツギクル芸人グランプリ(1st) (投票方式と混合) など
トーナメント
THE SECOND

 ブロック方式は1ブロックあたり3~5組、トーナメント方式は1対1と形式としては少し異なるものの似たような特性を持つので合わせて考察する。

 これらの方法の利点は、比較する対象が2組〜多くても5組程度と少数であるため、やはり審査する側の負担が少ない事である。得点方式は出場者全体の中で順位をつけなければならないが、ブロック/トーナメント方式ではそのブロック/対戦ごとに優劣をつければよい。

 一方で、結果が組み合わせに左右されやすいという欠点もある。ブロックやトーナメントの組み合わせは大抵の場合無作為に決められるため、優勝候補と目される組同士が同じブロック/山に振り分けられる事はざらにある。勝負にたらればは厳禁であるが、それでも「もしこことここが別のブロックなら、違う結果になったのではないか?」となる事もあるのではないだろうか。ブロック/トーナメントでは本当の意味での順位を出すのは不可能なのだ。


 以上、現在お笑い賞レースで採用されている主な方法についての考察である。これ以外にも色々な方法が存在するのだが、僕の頭では考察の余地がないので割愛する。

 初めにも述べた通り、それぞれの方法で長所と短所が必ず存在する。一方で、賞レースの後には必ずといっていいほど「順番が良ければ…」「同じブロックにならなければ…」などといった声が上がる。当然その気持ちは分からなくはない。しかし、ある問題点を気にして別の方法をとった所でまた別の問題点が出てくる。これらの問題点を一度に全て解決するのは現状不可能なのである。我々は賞レースを見る上でそういった事情を念頭に置かなければならないと思う。その中で不利な状況から好成績を残した組が現れたらその時は褒め称える、それで良いのではないだろうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?