1円行使価額のストックオプション発行できる?
⑴ はじめに
スタートアップ公認会計士の中辻です。
この度は記事をお読み頂きましてありがとうございます。
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さて、本題の方に入らせて頂きます。
昨年の発表によって、理論上は行使価額1円のストックオプションの発行が可能になりました。なお、ストックオプションの税務上および会計上の取り扱いに関して、ご興味ある場合は以下の記事をご参考にして下さい。
ただ、周りの経営者やCFOと話をしてみても、1円行使価額のストックオプションの発行に踏み切れる会社は少ないように感じます。
会社側として1円行使価額のストックオプションに踏み切れない理由はいくつかあります。本記事では、『なぜ、1円行使価額のストックオプションの発行が難しいのか?』に関して、執筆します。
⑵ なぜ1円行使価額のストックオプションの発行が難しいのか?
会社の置かれている状況は様々だが、行使価額が1円ストックオプションの発行が可能な状況があるのにもも関わらず、発行ができない複数の理由がある。
なお、本記事は、公認会計士や弁護士の士業や投資家の方々と話していて纏めた内容であり、誤解を招いたり一般的ではない可能性がある。解釈の誤りや誤解を招くような表現があった場合は、ご一報いただけるとありがたい。
❶ 投資家とのコンフリクト
ストックオプションの行使による取得は普通株であるが、投資家がスタートアップに投資する場合には優先株での出資が多い。
ストックオプション行使による取得する株と投資家が出資により取得する株はイコールではなく、理論的には株価をapple to appleで比べることができない。
しかしながら、投資家は高い株価で取得し、役員・従業員が安い株価で取得できるストックオプションを付与する場合には、投資家との間でコンフリクトが生じる可能性がある。
コンフリクトの理由としては以下のとおりである。
優先株と普通株との間で価格差が大きすぎると、両者の整合性が取れずに優先株の価格の妥当性は?というような議論になる。
ストックオプション行使により希薄化が発生するので、低い行使価額で株を取得されてしまうと投資家にとっては持分比率の点でマイナスになる。
低い行使価額だと、ストックオプションを付与された者がバリュエーションを上げるというインセンティブが働きにくい。
❷ 社内でのコンフリクト
通常は、アーリーでジョインした方が、レイターでジョインするより、多くのリスクを取ることなる。
この点、リスク・リターンの観点から、ストックオプションで得られるキャピタルゲインはアーリーでジョインした役員・従業員の方が多くなるべきであるが、1円ストックオプションを発行するとレイターでジョインした役員・従業員の方が多くのキャピタルゲインを得れることになる。
なので、社内では1円ストックオプションを発行することに対して、社内での抵抗感があったり、モチベーションの低下が起こる可能性がある。この点、行使価額を意識している人が多くいるかどうかの問題はあるが…。
❸ 会計処理面~多額の株式報酬費用の計上~
1円行使価額のストックオプションによって、多額の株式報酬費用が発生し、利益を圧迫する可能性がある。
ロジックに関しては以下で記述するしているので、参考にして頂きたい。
ストックオプションの会計処理
スタートアップ等の未公開企業にとって、本源的価値がゼロである場合には株式報酬費用は発生しない(「本源的価値=自社株式の評価額▲行使価額」となる)
字面だけ見てても分かりにくいので、図で示すと以下のとおりとなる。赤の部分が本源的価値がプラスになっており、株式報酬費用が発生することになる。一方、青の部分は本源的価値がマイナスであるため株式報酬費用は発生しない。
1円行使価額のストックオプションを発行した場合の会計処理
1円ストックオプション発行した場合には、会計上の時価と1円の行使価額の差額を株式報酬費用として計上する必要がある。場合によっては、かなりの費用計上をせざる負えないケースもでてくるため、発行体にとっては重しになる。
⑶ ストックオプションの発行にあたって
以上のとおり、低い行使価額、特に1円行使価額のストックオプションに関しては、様々な論点が生じる可能性がある。
理論上は1円行使価額のストックオプションを発行することができるであっても、実務上は、各利害関係者との間の調整が必要になることに留意が必要である。
また、株式報酬費用の計上により費用の増加に繋がるため、ストックオプション発行時にどれぐらいの費用計上の可能性があるかどうかをシュミレーションしておくことと、監査法人との会計処理のディスカッションも重要である点に留意が必要である。
⑷ 最後に
2023年5月29日に国税庁・経済産業省のストックオプションに関する発表が行われたことにより、税務上のストックオプションの価格算定が明確になったものの、実務上、1円行使価額のストックオプションを発行するには様々な論点が発生します。
多くの利害関係者が絡むので、仮に1円or低い行使価額のストックオプションを発行する場合には利害関係者間での調整をすることが必要です。
最後になりますが、TwitterにてIPO・ファイナンス・スタートアップ・マーケットなどの情報を積極的に発信していますので、Twitterアカウントをフォロー頂けますと幸いです。
⑸ 免責事項
本文中の意見にわたる部分は私見であり、正確性について万全を期しておりますが、その内容について保証するものではありません。本noteはあくまで議論のたたき台として活用頂きたいという想いで執筆しています。事業に影響を与える可能性のある事項については専門家にご相談頂く必要があります。
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