寂しがりやのジーン
「みんなと仲良くしよう。」
子供の頃ジーンはケンカのない世界を夢見た。
大人になるにつれてそれはずいぶんと難しいということに気づいたが、まわりとはそれなりに仲良く暮らしていた。
ジーンは朝から夕方まで仕事をして、夜はひっそりと絵を描いた。
月明かりで描く絵は誰からも評価されなかったがジーンはちっとも気にしなかった。それよりも絵は夜の寂しさから彼を守ってくれた。
身寄りの無かったジーンだったけど絵を描いてるときだけは孤独を感じなかった。
ある日ジーンはいい景色が見たくて短い旅に出た。
何がいい景色かなんて分からなかったけれども、「見ればきっとわかるさ」とただただ歩き続けた。
汽車に乗り、船を乗り継ぎ、見知らぬ土地で水を飲み、行き先でいろんな人から情報を聞いて回った。途中 白いひげの老人と短い言葉を交わしたりした。
残念ながら息を飲むようないい景色は見つからなかったんだけどジーンは満足して帰ってきた。
旅は彼の気分を晴らした。
見知らぬ人がそれぞれに薦めてくれた景色は何だか地味な気がしたんだけれどもそれでもジーンにとっては活きた経験だった。
ジーンは記憶に残った景色の絵を描き続けた。
不思議なことに画力がそれほど上がったわけではなかったけれども何故かそんな絵がポツポツと売れ始めた。
ジーンにとっては大した景色でなくても誰かにとってはかけがえのない景色だったんだ。ジーンの耳にはありがとうの声がいっぱいきこえた。
◇◇◇
ジーンは結構なお金を手に入れた。
もっといい絵が描きたいと思ったジーンはそのお金を学費に当てて誰もがうらやむ勉学の旅に出た。
旅先でいっぱい絵の勉強をした。
目が洗練された。表現方法が豊かになった。細部に力が乗った。
ジーンはもっと素晴らしい絵を描いて、もっともっとお金持ちになった。
お弟子さんやアシスタントを抱えるようになった。
人が増えるとにぎやかだ。
ジーンは寂しさを感じることは少なくなったが、今度は一人の時間を少し愛するようになった。
寂しさを紛らわすために絵を描くことはなくなって、一人の時間に誰かのために絵を描くようになった。
あんまりお金にはならなかったけれども地味な絵もたまには描いていた。
もう寂しがりやのジーンではなかった。
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