見出し画像

自身の「光」を受け入れるゴードンと「闇」を受け入れるバットマン

バットマンといえば誰もが知っているだろう。ゴッサムという街を舞台に、コウモリを恐怖の象徴として悪を懲らしめるダークヒーローだ。表ではゴードン率いる警察が、裏ではこのバットマンが、街はこの二人の英雄によって護られている。そんなバットマンが誕生する以前のゴッサムを描いた作品があるのは知られているのだろうか。

タイトルは、「ゴッサム」(そのまんま、、)こちらはかなり長くて全て合わせると50枚近くのDVDを観ることになるのだろうか。ただ、長いだけでなく、善とは何か、悪とは何か、正義を貫くとは?英雄とは?などなどいろいろ考えさせられる、何かとメッセージ性が詰まった作品だと思う。

物語の始まりは、バットマンになる前の少年時代のブルースウエインが目の前で両親が殺されるところから始まる。そこから、この未来のバットマンが悪をこの世からなくすのはどうすればよいのかと追求し、成長していくのだ。この両親殺しの事件の担当になったのが若き新人刑事のゴードンで、二人の出会いはここからはじまっていた。

未来のバットマンの成長も見応えがあるのだが、この作品の主人公は、バットマンというより、新人刑事時代のゴードンだ。この頃のゴッサムは警察も政治も腐りきっていて、そんな街でゴードンは正義を貫こうと孤軍奮闘している。そんなゴードンをみていると正しい道とはなんなのかと非常に考えさせられるのだ。

すっかり腐敗しているところでは正論はもちろんのこと、時には法律すらも全くあてにならない。正攻法が通じないので、点でみていくと悪いこともせざるをえない。また、正しいことをしたつもりが誰かの死にまで繋がってしまうこともある。正しいことを追求すればするほど敵も死人も苦しむ人も増えていくばかりなのだ。そんな状況がずっと続いていく中で、こんな結果にさせてしまう自分の道が果たして良い方向に繋がっているのか、自分は英雄に憧れているだけの悪人なのでは、と何度も闇に堕ちてしまいそうになり葛藤し、苦しむ。

そのように日々葛藤していく中でいくつもきっかけが訪れるのだが、特に印象的なシーンをここで紹介したい。夢の中で、尊敬している父と出会うのだ。実は、ゴードンも少年時代に父を亡くしている。父は地方刑事で周りから英雄とされているような自慢のお父さんだった。そんな父から、自身の道を諦めるな、おまえなら切り拓けると諭される。それでも、ゴードンは自分は父のような英雄になれないとこぼしてしまう。そんなゴードンへ父からこのような言葉を返される。

「俺は英雄じゃない。ただ、そうあろうと努めた。自分の良いところをみるんだ。」

ゴードンの父も同じように葛藤し苦しんでいたのだ。夢とはいえ、このように励まされ、少しは気持ちの整理はついたのだろうか。そこまではっきり変わっていくわけではないが、日々思いを強め、正義を追求していく。

話は、未来のバットマン、ブルースウエインに戻す。ウエインも彼なりに正義の道を追求しようとするのだが、なかなかその道が見つからない。また、まだ少年であり、無力な彼は、追求しようにも誰かに助けられてばかりだ。両親が殺されたことも自身が無力だからだと責めている。彼の心の中は疑いと怒りと不甲斐なさでいっぱいで、そんな自分にはたして正しい道を貫けるのかと自身への信頼も揺らぎ、自暴自棄になっていく。

そこで、助けになるのは、ウエインの父の友であり、執事であったアルフレッドだ。父なき今もウエイン家に仕え、ウエインの執事であり師のような存在だ。彼がウエインにかけた言葉は次のようなものだ。

「闇を受け入れなさい。あなたの心の中は深い闇に包まれている。ただ、その奥底にそれでも人々の為になりたいという想いが詰まっている。それがあなたの強さです。闇を否定したらその強さも否定することになる。闇を受け入れなさい。」

闇を抱えながらも、それでも正しい道を追求しようとするのがウエインの強さだと励まし、立ち直らせていく。

ゴードンとウエイン、二人をみているとゲーテの大作「ファウスト」が思い浮かぶ。ファウストが、学問、快楽、美、人類への貢献へと真理を追究していく話なのだが、その間、悪魔と契約したり関係のない人を死へと招いてしまったり、一見するとただただ迷惑をかけているばかりの人間なのだ。ただ、最期の時に天使が「絶えず努み励む者を我らは救うことができる」と天界へと救いにきてくれる。ファウストは過ちを犯しながらもその度に正当化や言い訳せずに、悔やみながらもごまかさずまっすぐに道を追求した。その姿勢こそがこの世に必要なのだと天から評価されたのである。

とはいえ、実際ここまでやってしまうのはどうかと首をかしげてしまうのも正直な感想なのだが、、、ただ、もし誰かと何かをやり遂げようと思った時に信用でき頼りになるとしたら、間違いなくこのファウストが挙げられると思う。

話は戻るが、ゴードンとウエイン、二人に共通しているのは正義を追求するだけでなく、客観的に物事をみることができ、事実をみれることだと思う。それは、独りよがりの正義になる可能性が低いという反面、自身の闇に陥りやすいという弱点も併せ持つ。自身の光を受け入れるのか、闇を受け入れて乗り越えるのか、どちらが良いという話ではなく、人によってもその状況によっても変わるかと思う。そして、そんな二人のおかげでゴッサムは護られている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?