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経験知をどう体系化していくか?会社の技術力アップのための教育|DMG森精機 萩原宏規さん

奈良先端科学技術大学院大学(以下、奈良先端大)では、東京大学の先生と共同で、国のプロジェクトに参加されていた萩原さん。その時の経験がとても強く印象に残っているそうで、そのような経験が今の日々の仕事に繋がっている様子が見受けられました。社内教育の仕事の面白さ、仕事で大切にされていること、これから挑戦していきたい目標も含めて、詳しくお話を伺いました。 

萩原 宏規(物質創成科学研究科 博士前期課程2017.3修了)
奈良先端科学技術大学院大学では、レーザを使用して細胞を分取する装置の開発に取り組む。博士前期課程修了後、DMG森精機株式会社に入社。入社後は工作機械のアプリケーションエンジニアとして、お客様へのソリューション提案を担当。その後、社内向け技術教育の担当を経て、現在は主に社外向け技術教育のeラーニング制作を行っている。 

DMG森精機に応募したきっかけと、入社を決めた理由

奈良先端大に入学する前は奈良高専の専攻科に通っていました。その頃にDMG森精機のインターンシップに参加したことが、私が入社することになった直接のきっかけでした。M1の3月から就活を始めたのですが、会社説明会や合同説明会に参加しても、自分がどのような会社で働きたいのか具体的に考えられませんでした。しかし、偶然参加した合同説明会で、当時インターンシップを担当してくださったDMG森精機の人事の方がいて、「DMG森精機」という会社のことを思い出しました。そこで、当時から製造業に興味があった私は、インターンシップに参加したときに会社の雰囲気が良かったこともあり、DMG森精機に応募しました。

他社の選考も進んでいましたが、最終的にはインターンシップで働き方や社内の雰囲気を知ることができたDMG森精機への入社を決めました。

入社後、アプリケーションエンジニアとしての業務内容

入社後の配属先は、就活中から志望していたアプリケーションエンジニアの部署でした。当社は工作機械を販売していますが、工作機械を使用してお客様が望む部品を加工する技術、加工技術を提案することがアプリケーションエンジニアの重要な業務です。加工技術とは、加工するための工具、素材をつかむための治具、どういった順番で加工すると良いかを考え、機械で加工するためのプログラムに落とし込む、多くの知識と経験がものを言う奥が深い技術です。

私が実際に担当していた業務は、当社の工作機械が展示されている伊賀事業所のグローバルソリューションセンタや工作機械の展示会に来られるお客様に、加工のデモンストレーションをお見せし、当社の工作機械の強みや導入することで得られるメリットをお伝えすることでした。お客様が私の説明に納得し、実際に機械を購入していただけると、仕事のやりがいにつながりました。

eラーニングの制作、社内と社外に向けた教育へのシフト

約3年間、アプリケーションエンジニアの部署で働いた後、別の部署に異動しました。ここではデジタルツインテストカットという、実際の加工をコンピュータ上に精密に再現する取り組みを行っており、私はこの取り組みに関わるグループの一員として、加工技術に関する社内教育を担当しておりました。

当社には、工作機械を購入したお客様に向けて、機械の使い方を教えるためのアカデミーという施設があります。この施設で機械の軸構成やプログラミング方法、機械操作を座学と実習形式で教えていました。お客様がアカデミーに来られない場合でも、オンライン学習できるように、当社はeラーニングの制作に取り組むようになりました。私は、このeラーニングの制作を担当しています。その後、開発人事部という部署に異動し、加工技術から人事寄りの仕事になりましたが、これまでの技術教育に関する仕事を継続しています。

現在はアカデミーの教育企画グループに所属し、主に社外向けのeラーニング制作を担当しています。このeラーニングは、お客様だけでなく社内の、新人加工技術者、設計開発者の導入教育にも使用されています。

教育の仕事の面白みとやりがい

教育は何となく知っていること、不確かなことを伝えるだけでは不十分で、きちんと理由を説明し、エビデンスを示すことが重要になります。その際、私自身の知識では補えない部分を、アカデミーの講師の方や加工技術の熟練者、また工具や治具メーカの方々からのアドバイスを取り入れながら、教育資料に落とし込むのが面白いですね。特に、加工技術は知識や経験が重要であり、それらをカリキュラムに落とし込み、資料として説明できる体系を構築することは大きな課題でした。新人の技術者が先輩に師事して、一人前になるまで指導を受けるという従来のやり方では、技術者の育成に時間がかかり、指導内容が人によってばらついてしまい、統一した教育ができませんでした。しかし、eラーニングや他の方法で形式知化することで、技術者の底上げを効果的に行い、短期間で技術者を育成することができるため、非常にやりがいを感じています。 

働く上で大切にしているコミュニケーション

様々な部署のスペシャリストからアドバイスをいただきながら、教育体系を作っています。そのため、私はコミュニケーションの取り方をとても大事にしています。一方的にこちらがやるべきことを押し付けるのではなく、相手が現実的ではないと言えば、どこまでなら現実的に可能なのか、そういった折衝のようなところをプロジェクトリーダーとして担っています。業務に関わる方々と密にコミュニケーションを取ることで、円滑にプロジェクトを進められるように心がけています。

DMG森精機はB to Bの会社なので、お客様との商談においては第一印象がとても大切です。親しみやすく、相手のニーズを理解し、適切な提案ができる人材が求められます。社内でのコミュニケーションも同様に大切で、円滑に業務を進めるためには、お互いを尊重しあい、適切なコミュニケーションを取ることが重要だと思います。

私が就活をしていた頃は、人事担当者が「気持ちのいい人材」を採用していると仰っていました。そういった方々を採用することで、社員同士の信頼関係や協力関係を築くことができ、業務効率の向上や組織力の強化につながるのではないでしょうか。

技術力を上げるために、挑戦していきたい目標

私は今の教育の仕事をより拡充させていきたいと思っています。加工技術者だけでなく、設計開発においても、加工技術は非常に重要です。部品を社内で加工するときや外注に出す場合でも、加工は避けて通れません。部品がどのように加工されるかを知らなければ、実現不可能で加工できない形状になってしまいます。

また、機械の修理復旧を行うサービスエンジニアも、加工技術を習得することで、お客様の機械を修理後に製品の加工を立ち上げるというように、より多くの付加価値を提供できるようになると思います。今まで形式知化されていなかったものを体系的に整理し、様々な技術者に伝えることで、当社の技術力を向上させたいと考えています。

今直面している壁、抱える課題

基礎的な加工技術はeラーニングなどを通じて習得できる体制は整ってきました。しかし、より高度な加工技術を身に着けるためには、多くの知識や経験が必要です。そのような奥深い加工技術をどのように体系化するかが、現在の私たちの課題だと感じています。これまで体系化されていなかったからこそ、経験知として残っているのだと思います。この課題を解決するためには、どのようにアプローチするかが鍵だと思います。例えば、熟練した加工技術者は、加工中の素材の切りくずの出方や形状、加工中の音など多くのポイントを注視しています。しかし、新人の場合、これらを正確に把握することが困難な場合が多々あります。最近ではデジタル技術が進歩してきているので、VRコンテンツやウェアラブル端末を活用することで、新人のトレーニングをサポートできるようになるかもしれませんね。

現役の奈良先端大生へのメッセージ

学生時代には、自分の興味や関心があることに対して、突っ走ってもらいたいと強く思いますね。自分の興味があることに熱中し、それを突き詰めることで、自分自身の知識を深めることができます。私の周りには、自分の興味に対して非常に貪欲な方がいて、様々な知識を吸収して自身の能力を高めています。自分の興味のあること、得意なことを伸ばすことで、自分自身の強みを発揮することができるようになると思います。

また、現代社会では、自分一人で完結する仕事は少なく、様々な方たちと協力して仕事を行うことが必要不可欠です。そのため、自分の興味や専門分野に関連する知識を身につけることで、他の方とのコミュニケーションがスムーズになり、チームワークを高めることができます。自分の強みを発揮するためにも、関連する分野の知識を身につけ、協力して仕事を行うことが重要だと感じます。

奈良先端大を目指す学生へのメッセージ

自分の興味があることに対して、突き詰めていける環境が奈良先端大には整っています。私が所属していた研究室では、個人の能力や興味に応じて、先生と一緒に研究テーマを決めていくことができました。また、実験設備も非常に充実しているので、最先端の研究やこれからの未来を担う基礎研究を行うことができると思います。ぜひ、奈良先端大に来てみてください。

奈良先端大の研究生活で印象に残っていること

印象に残っていることと言えば、やはり研究内容が非常に面白かったです。私は内閣府主導のプロジェクトであるImPACT(革新的研究開発推進プログラム)の一部門にアサインされ、東京大学の先生と共同で、既存のセルソーター(特定の細胞を分取する装置)の性能を大きく超える、1秒あたり100万個が流れてくる細胞の中から1個だけを狙って分取できるほどのセルソーターの開発を進めていました。多様な分野の方々が集まり進めていくプロジェクトで、その研究ができたことはとても嬉しかったです。実験装置の仕組みを1から考えて開発することは楽しかったですし、プロジェクトを通して本当に素晴らしい先生方とも知り合えたので、非常に良い経験になりましたね。

また、研究室の雰囲気は本当に和気あいあいで、先生もとても気さくで、たくさんお話してくださるような方でした。他の助教の先生や研究員の方々も、お昼ご飯や晩ご飯を一緒に食べに行ったり、研究室でも気軽に会話したりするような関係性だったので、楽しい環境で研究していました。細川先生自身は集まりが好きな先生で、みんなが今どうしているのか興味を持って聞いてくださるので、最近でもオンライン飲み会をしていましたね。

※この記事に記載した内容は取材当時の情報になり、会社名や役職名等は現在と異なる場合があります。