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AIで広告制作の常識を変える|サイバーエージェント 脇本宏平さん

家族全員がSF映画好きで、物心が付く前から映画館に通っていた脇本さん。奈良先端科学技術大学院大学(以下、奈良先端大)では、まさに映画に出てくるような、人と一緒に生活するロボットに関わる開発をされていました。修了後はサイバーエージェントに入社して、AIの開発に取り組まれています。昨今、急速に進化しているAI開発のこと、面白い未来になるための取り組み、奈良先端大で鍛えられたという経験も含めて、詳しくお話を伺いました。

脇本 宏平(情報科学研究科 博士前期課程2019.3修了)
奈良先端科学技術大学院大学では、生活支援ロボットを対象に、言葉による指示を理解すると同時に、ロボットが自分の行動を言葉で説明できるようにするための仕組み作りに取り組む。博士前期課程修了後、株式会社サイバーエージェントに入社。入社後は広告配信効果の予測や広告クリエイティブを自動生成するAIの開発を担当。現在はマネジメント業務も担いながら、研究開発を行っている。

起業経験を活かした就職活動の軸

元々、自分で事業を作りたいという思いから、奈良先端大のアントレプレナー育成プログラムであるGEIOT(ガイオット)に参加し、同期と一緒に起業しました。そのような経験があったので、就活の軸としては、「若手でも大きな裁量を持って決断し、自ら事業を作り、変えていけるような企業」を探していました。

サイバーエージェントを選んだ決定打

弊社の研究組織「AI Lab」に所属する社員と話す機会があり、私が「AIが人の相棒のように、生活やアイデアを助けるようなものを研究開発していきたい」と言ったことに対して、「めちゃめちゃそれ良いね」と共感していただき、意気投合しました。そして、自分と似たような考え方の人が本当に楽しそうに仕事のことを話してくれたことから、「ここに入社すれば、間違いないだろう」と思いました。これが弊社に決めた決定的な理由です。

現在のAI開発業務と開発に至った経緯

弊社が展開するインターネット広告事業では、たくさんの広告クリエイティブを制作する必要があり、社内にいる大勢のクリエイターが使用するツール「極予測AI」というプロダクトを開発しています。クリエイティブ制作では、いくつものクリエイティブを制作・配信し、あまり効果が高くないものを差し替えるということを繰り返していきます。それぞれのお客様に対して大量に制作していくにあたり、どのようにクリエイティブを改善していけば良いのかを手探りで進めていきます。そのため、どれだけ優れたクリエイティブが作れるかは、クリエイターのセンスや経験に依存してしまいます。「極予測AI」は、社内のこれまでの大量の実績を元に学習した予測モデルを作成し、その予測モデルに「このクリエイティブはどう?」と、聞くことができます。そうすると、素早く改善サイクルを回して、人が考えるよりもヒットしそうな広告を制作できる、そういう仕組みを作っています。他にも、AIが架空の人物モデルを生成してクリエイターが利用できるものや、広告のテキスト、いわゆるキャッチコピーをAIが考えて、効果の予測とセットでレコメンドする自動生成ツールなど、制作を効率化するための様々な支援をクリエイターに提供しています。

私が入社した当時、「極予測AI」というプロダクトはまだありませんでした。新卒で新規事業開発室にエンジニア第一号として配属され、「自動生成や予測ができるような仕組みを作って欲しい」と、上長から依頼され、開発を任されました。当時、内定者バイトをしていた後輩と「AI Lab」の研究者の方と一緒に、まず作ってみるところから始めて、少しずつ1年くらいでクリエイターが使えるものができました。そこから最初の2年間はひたすら自分で研究開発に取り組み、少しずつ軌道に乗り始めて、徐々にメンバーも増えていき、3年目頃からマネジメント寄りの業務が増えました。具体的には、こういう方向で研究開発をしていくと、制作効率がこれだけ上がるというところの問題の定義、エンジニアや研究者、共同研究をしている大学等との関係値作りをしています。

※参照
・極予測AI https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=24647
・極予測AI人間 https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=26366
・極予測AI「テキスト自動生成ツール」 https://www.cyberagent.co.jp/news/detail/id=28113

仕事に対する2つの面白さ

私は何か常識を変えるものを社会に投げ込みたいと思っています。昔はAIが何か作ってくれることはなかったですし、社内でも全く使用していなかったですが、最近は「AIがないと良いクリエイティブをたくさん納品できない」と、クリエイターから声が挙がるほど、当たり前に浸透しているようになり、そういう結果を作っていくことが自分にとっての面白みです。また、手段は何でも良いと考えているので、自分で開発している時だけでなく、今は様々な優秀な人と一緒に取り組んだり、任せることで結果を最大化していく面白さも感じています。

働く上で大事にしていること

事業成果に向き合うところは大事にしているポイントです。例えば、業務では「コードをこれだけ書きました」「この機能をリリースしました」「論文を書いて投稿しました」など、色々なアクションがありますが、結局は利用者の行動がどれだけ変わって、売上にどれだけ変化があったのかまでを追わなければ、成果という形にはならないと考えています。忙しくなってくるほど忘れがちになりますが、そこは見逃さないように気を付けています。特に最近は世の中の変化が激しく、ジェネレーティブ AIをはじめたくさんの制作支援ツールが出てきています。そうすると、クリエイターも色々と自分で工夫して使用してみるようになってきているので、ユーザーの性質自体がどんどん変化していき、昨日まで成果になると思っていた機能が、今日は違うかもしれないという疑いを持つ必要が出てくることが頻繁にあります。そのため、事業にとっての成果になるのかは毎日必ず考えるようにしています。

サイバーエージェントで良かったと思うところ

社内には良い人しかいないですね。文化的なところで言うと、凄く応援してくれる環境があると思っていて、良い意味で口を突っ込んでくれます。「これをやりたい」と言えば、「こういう情報があるよ」と、すぐに協力してくれて、単に「いいね、頑張ってね」で終わらずに、「一緒にやろうよ」という雰囲気があります。自分で少しやってみようと思っていたことがプロジェクト化することもあります。そういう巻き込んだり、巻き込まれたりすることが好きな人がとても多いという印象はあります。

今後の目標とグローバル展開

私自身は広告やクリエイティブに特別なこだわりがあるわけではなくて、何かをやろうとしている人を支援するAIシステム、今だと全く想像も付かない、5年後、10年後には当たり前になっているようなものを開発していきたいという目標があります。そのためのやり方としては、自分でスキルアップしていくこともありますが、やはり人と一緒に進めていくことはとても大事だと思っています。良い人と一緒に仕事をする、優秀な人とたくさん関わって、その人達が成長しながらも自分がやりたいことをやっていれば、自然と面白い未来になっていた、何かそういう状況作りみたいなものができるようになりたいと考えています。

もう少し広告寄りの話であれば、まだまだ人が関わる部分や一生懸命に頭を抱えて考えている部分は多いので、なるべくそこを取り除いて、楽しく様々なアイデアが出てくるように支援をしていきたいです。あとは、自分だけでは絶対に考えつかない・作れなかったようなクリエイティブを制作できるように、普通のクリエイターが凄いクリエイターに自然となるような、そういうシステム化は目指していきたいです。

AIがいることで新しい何かを作れること自体が面白いので、そういう技術があることを世の中に分かりやすく発信できれば嬉しいですね。現場の人以外も驚かせるような方法がきっとあると考えています。また、AIとどう向き合うかは、かなり課題になってきますね。例えば、著作権の考え方が今、凄く論争になっていますが、定義のされ方によっても変化してくる気がしますし、法整備が今後どうなっていくか、市場がどうなっていくか、これまで自分で制作していた人の立場がどうなるのか、そういった環境もセットで考えていければと思います。

それから、どんどん言語の壁はなくなってくるような気がしますし、例えば、AIと一緒に何かを作っていくフレームワークは共有されながら、グローバルに成長していくのかなと思っています。最近は海外産のジェネレーティブAIがたくさん出てきているので、世界目線で利用されるものを開発しないといけないだろうと考えています。

現役の奈良先端大生へのメッセージ

奈良先端大をしっかりと活かし切ってもらいたいですね。他の方も言われると思いますが、社会人になれば、奈良先端大の特殊さが分かります。こんなに研究に集中できて、個人でも、例えば教員や計算リソースをふんだんに活用できる環境は、なかなかありません。他の大学と比べても、かなり恵まれている環境だと思います。私もそうですが、それを活かし切ることによって、社会の中でしっかり成果を出していくために、とことん考え抜く力や問題を正しく設定する力が身に付くので、絶対に無駄にはならないはずです。今の奈良先端大のリソースをたくさん活用してもらえると、嬉しいです。

奈良先端大を目指す学生へのメッセージ

ここまで一つのことや何か特定の自分の興味あることに、どっぷり使える2年間、博士後期課程の場合は5年間はなかなかないです。それをサポートする環境が本当に整っていて、素晴らしいので、ぜひという感じですね。出身も国も超えて自然と多様にはなってくるし、全然違う文化の人たちが集まってくるので、かなり刺激にはなります。

ボコボコにされた!?奈良先端大の研究生活

研究室は約50人の大人数で、研究チームも5、6個あり、奈良先端大の中でも最大規模だと思います。留学生も多く、研究報告は英語が飛び交っていましたね。研究室の雰囲気は教授と学生の距離が近くて、夜中までずっと先生と一緒に議論したり、先生と学生がみんなでお酒を持ち寄ったり、中国からの留学生が火鍋のパーティーを始めたり…。とにかく国籍が多いので、色々な国の自国料理を振る舞い合っていました。また、研究チームは分かれていますが、チームを横断して議論したり、年に1回の合宿で全員が集まって、琵琶湖沿いで丸一日研究の話をしたり、そういう意味でも、学ぶことが多く、日々勉強しなければ、話に追い付けない状態でしたので、結構キャッチアップが大変でした。

また、学部の時と違ったこととして、本当になかなか答えを教えてくれない、徹底的に自分が何をしたいのかを考えさせられます。私の場合、どういう方向性で進めていくのかをきちんと道筋を立てるまでに時間がかかりました。それでも、「結局、君は何を作りたいのか」と、徹底的に問われて、何とか考えても、ボコボコにされていましたね。ただ、指摘の仕方も非常に親切で、リファレンスを凄く丁寧に教えてくれますし、話を聞いた方が良い人を示してくれて、とても親身になって学生を鍛えるところがありました。 

あとは、NICT(情報通信研究機構)の研究所の方と協力してロボットを開発し、生活支援ロボットの大会「World Robot Summit」に、チームのメンバーとして参加させてもらったことも強く印象に残っています。

奈良先端大で経験して、今も仕事で役に立っていること

M1の段階から、自分はこういうテーマについて、こういう方向性で研究を進めたいと自分で道筋を考える人が多く、それが当たり前になっているところがあり、多分それが故に割と厳しい研究室だったかなと思います。修了式の時には、「君達が行く会社の中で、この研究室より厳しいところはないはずだから、安心してね」と、教授が言っていましたね。まさに自分で何を作るべきかを考えていくことは、今でもとても活きています。知識だけでなくて、それ以上に、仕事に対する姿勢、「たとえ難しい課題でも、何かを生み出して世の中を変えていかないといけない」というような考え方は今の仕事にも役に立っています。

※この記事に記載した内容は取材当時の情報になり、会社名や役職名等は現在と異なる場合があります。