日記

不正出血があって焦る。予定日はまだ1週間先だったはず。生理というのは不躾だと思う。身体の持ち主であるわたしはこんなにも律儀な性格だというのに、生理というのは毎月来るにも関わらず、なんの予告もなくやってくる。
アポ無しで家に来られることはわたしが嫌っていることの一つだ。それがたとえどんなに親しい人であったとしても。生理なら尚更、許せん、と思ってしまう。同時に、やれやれと思う。これを何十年も繰り返してきたし、繰り返していくのだ。
生理前には胸の張り、だるさ、などの予兆があるが、それでも正確に何月何日に訪れますという予告はない。動きが読めないのが嫌だ、と思う。誰だって急に体調を崩したくはない。


変な一日だった。父の展示会の準備のために、家の中に業者や手伝いの人が何度かきて、慌ただしく荷物が運ばれていった。わたしは生理周期のせいか薬のせいかひどく眠かったけれど、布団を引いて寝たり、ソファでうとうとすることができなかった。バタバタした日だった。


9日間禁煙して、10日目に失敗した。別に特別必要としているわけではないのに。と思う。ただその行為が落ち着くのだ。火をつけて、好きな音楽を流して、吸って吐く、それだけの行為が。
いつかの海辺での焚き火のことを思い出す。幼いわたしの髪の毛やスクール水着は海水にしとしとと濡れて、プール用のタオルを肩からかけて、膝を抱えて座っている。その隣にはもっと幼い妹がちょこんと並んで座っている。父が器用に起こした焚き火を、ただなんの言葉も交わさずにぼうっと眺める。もうすぐ夕方が来る。
遠い記憶だ。


8日後に東京に行く。父の展示会にわたしも数日間滞在し、人を招く。学生時代の友人や、兄弟が来てくれる。もちろん、会いたい人たちに会えるのも、父の仕事が大々的にお披露目されるのも、嬉しいことだ。
でも、かなり疲れるのではないかと心配もしている。展示会には大勢のお客さんが来るかもしれないし、そこでわたしは社交的なふるまいが求められるだろう。初対面の人の家に泊まることにもなっている。わたしは人の家で寝泊まりすることが苦手だ。ぐっすり眠れた試しがないのだ。寝られたとしてせいぜい4〜5時間。

そういうわけで、指折り数えるくらい楽しみな予定でもあるが、体力と気力がもつかどうか、心配なイベントでもあるのだった。


ここ二日間くらいでたくさん本を読んだ。昔から持っている本も、図書館で新しく借りた本も。読書は好きだ。没頭できるし、時間が速く過ぎていくのもいい。ひゅんひゅんと。あっという間に1時間が経っていたりする。暇つぶしにはうってつけだ。

特に、海辺のカフカなどの、ストーリーに深みのある面白い本を読んでいるときには、自分が何か図書館のような場所に、すっぽりと入っているような感覚がする。
自分の意識が本の中に吸い込まれていくような。その空間には本と自分しか存在しなくなる。そんな静謐さがある。奇しくも海辺のカフカは小さな図書館が舞台になっているし。
本の世界に没頭できるから読書が好きだ、と、よく人は言うが、それはシンプルな表現でありつつ、共感できる。

わたしは自分だけの図書館を求めているのかもしれない。そこは居心地が良く、本棚にはひとつひとつ違う物語が収まっている。本をそっと抜き出して手にとれば、いろんな世界に触れることができる。その手触りを確かめられるような、そんな場所を。

明日は荷物を受け取り、料理をする以外、特に予定はない。体調を考えてゆっくり過ごそう。