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コスパじゃなくて、気持ちいいこと。

 無農薬野菜が一つ100円。ランチはメインをお魚がお肉を選ぶことができて、野菜たっぷり、お汁もついて550円。ボリュームたっぷり。味付けも丁寧で、とても美味しい。
 香川県高松市にある「あじさいファーム」。運営しているのは、障害のある人の生活や就労支援をする社会福祉法人ナザレの村。
 一歩考えると気づくんです。大事なところは「コスパじゃない」って。気持ちいいことだって。 

取材時のランチ メインだけでなく白米か混ぜご飯かもチョイスできます。
新鮮な野菜が並びます

気持ちいい空気感

 “あじさいファーム”という場の空気が心地よくて、「いらっしゃいませー!」とスタッフさんの気持ちいい声が響いて、「また来よう」って嬉しくなるところ。車いすの高齢夫婦、赤ちゃん連れの親子、仕事着を着ている人など、お客さんの層が様々であることも、気持ちいいなと思う理由。地域の食堂になっている、とも感じます。 2,3回とリピートするうちに、幾つか「聞きたいこと」が湧き上がってきました。

お話、聴かせてください。

 
何を大切にして運営しているのだろう?
こんなにお客さんも来ていて、野菜もたっぷり使われていて。野菜は不足してしまわないの?
そしてEM(よい微生物)を使った無農薬栽培と言うけれど、なぜEMを使っているの?
 
「お話、聴かせてください」
6月下旬、サービス管理責任者の里見麻祈さんが取材に応じてくださいました。

―あじさいファームは2018年のオープンですね。立ち上げたきっかけを教えてください。

きっかけは家族の希望

 
 隣の春日町に、法人本部があって、生活介護や就労移行支援をする施設(本体)があるんです。その向かいに、こども園があるんですけど、その子ども園が40年前くらいから障害児保育とか総合保育などをされていました。障害をもった子どもも在籍していて、「成人になってからも、障害があっても地域で暮らしてほしい」という家族の希望があり、小さな作業所を始めたんです。2004年に法人化、翌年に重度の人の生活介護をする「かすがの里」、知的や自閉症などの障害のある人の、就労移行支援・就労継続支援B型の「あじさい」を開設しました。グループホームも運営しています。
 EMについては、子ども園が環境保全の考え、「子どもたちにいいものを」という考えを持っており、食にもこだわりがあって、EMを導入していたんです。それを引き継ぐようなところもあって、ナザレの村でも導入することになりました。
 
―もともとは子ども園だったんですね。
 
 そうです。掃除だとか生ごみの処理などでEMを使用していたんです。ちなみに私はそこの卒園児なんですよ。
 食を大切にしている保育園だったので、食については染みついているというか、障害の方にも抵抗がないというか。私が通っていた時にも、知的障害のある人や耳が不自由な人もいて、手話を使ったりしていました。車いすに乗った人もいましたね。でも、友達なので抵抗がなかったんです。
 
―それが当たり前の環境だった…
 
 はい。
 法人として「地域のなかで暮らす」ということを大切にしているので、地域の方々に理解してもらいたいと、定期的に子ども園と畑で交流したり、小中学生も交えての「EMだんご」づくりをしたり。コロナが流行してからは、なかなか実践が難しいところもあるんですけど、EM菌の入ったものをだんごにして、久米池に投げて。環境の勉強を一緒にしたりとか。
 あじさいファームは、より地域に根差したかたちで、高齢の方や地域の方の憩いの場になればと、いろんな人が居やすい場をめざしてオープンしました。

作業班を通じて

法人本部 入口 向かいには子ども園がありました。
カフェ あじさい/奥は本部の建物
材料も安心

(本部内にある)カフェ あじさいには食材加工をする場所があり、あじさいファームにも納品しているクッキーやパンを焼いています。事業所ごとに焼き菓子製造班、EM製品製造・清掃班、農作業班、紙漉き班などがあります。アトリエもあって、そこでは縫物をしたり。6次産業のような形で取り組んでいます。利用者さんのなかには、農業の細かな作業を得意とする方もおられるので、地域の方が使わなくなった畑を貸していただいて、畑をしたり。農福連携ですね。いろいろ取り組んでいます。

 ―ホームページに記載されていましたね。
“「一つの作業班」を幾つも構成し、その作業を循環させることにより、自分自身の役割の重要さ、大切さを把握してもらうことを目的にしております”と。

  はい。みんなで協力して、というところも大切にしながら。あじさいで仕事をしている利用者さんの中には、あじさいファームで働くことを目標に頑張っている利用者さんもいます。食に関しては基本、安心・安全というところがテーマではあるんですけど、どんなに障害が重い方でも、働くことでやりがいを感じてもらいたい。ありのままで地域のなかで、一緒に協力してしていけるように。障害が重くてもできることを、その方、その方に合った作業を提供できるように支援しています。 

―スタッフさんにはどんな職種の方がおられるんですか?

 生活介護のほうでは理学療法士、看護師、介護福祉士といった人たちが生活支援をしていますが、普段の活動には様々な作業があるので、私もそうですが職業支援員が、障害のある方の得意なことなど、それぞれの利用者さんに合った作業をうまくマッチングしていくんです。チャレンジしてみたい仕事があれば、もちろん支援します。

丁寧な接客が、空気をつくる

 
―あじさいファームには赤ちゃん連れから年配夫婦、車いすの方など、いろんな人が来ています。

 はい、どんな方にも。利用者さんにお伝えしているのは「お一人お一人ずつ丁寧な接客を」。丁寧に接客することでリピーターにもなってくださるでしょうし、年配の方だとお話が好きだったりするので、喜ばれます。そうやってつながって、地域の方が「野菜がたくさん採れてしまって…」と持ってきてくださることもあります。あじさいファームのすぐ隣の建物の2階にはホールがあって、地域の人に介護予防運動などの活動に使って頂いているんですけど、ホール利用をされた方がファームで買い物や食事をしてくださることもあります。
 ここ(お話を伺った場所)は、コロナ前は開放していて、ソファーもあってお母さんたちがゆっくりお話をする姿も見られました。休んで頂くだけでもOKですし、お茶もできて、気兼ねなく居やすいスペースにしています。

畑がある分、野菜がとれる

―メニューはメインを選ぶことができますが、お客さんも多く、調理が大変だろうなって思うんです。
 
 コロナ前まではビュッフェ形式でのご提供だったので、様々な調理をしていたんです。調理自体はビュッフェの方が楽ではあるんですけど、その方その方の好みがあるでしょうし、年配の方はお魚がお好きな傾向もあります。選ぶ楽しみも大事にしたいという考えもあって。
 野菜については、畑もたくさんあって、今だったらおいもが沢山収穫できたり、マコモを使ったり。そこは大変ではないんですよ。
 マイナス35℃の急速凍結機を導入していて、お寿司だとかも冷凍できてしまうような機械です。それを活用して食を加工します。生のお野菜でも、劣化させずに冷凍できるんです。冷凍うどんも作ります。

マルシェもあり、添加物の少ないお菓子など、多様なものが販売されています。奥の冷蔵・冷凍ショーケースにも商品が並ぶ。手打ちパスタなども。

―機器も使いながら工夫されているんですね。

 時期によって野菜はかなりの量が収穫できますが、機械も使いながら、美味しい時期にうまく加工・調理できるようにと考えています。
 “マコモタケ“という野菜を育てて収穫しているんですけど、実の部分は加工したり販売したり、葉っぱの部分は、緑のきれいな時期はパウダーにして、お菓子とかパンに使います。鮮やかできれいな緑色になるので、ジェラートにも活用しているんですよ。もっと繊維があるところや固いところは紙漉き班の紙すきに使ったりもします。
 マコモタケを育てる畑の土に、少しでも農薬が入っていると、上手く育ちません。なので大切に育てています。
 三重県菰野町という、マコモタケの産地があるんですけど、生産者の方から「生産量と出荷が追い付かなくて…どうですか?」というお話があって、そこで利用者さんと一緒に栽培するようになったんです。
 
―なるほど。ランチに使われている野菜の量がボリュームあって、足りなくならないのかなって(笑)
 

野菜が本当にたっぷりで嬉しくなります。

 年々、借りている畑の面積や作っている野菜の種類も増えているんです。EMも使うことで畑もよくなっています。生ごみも使い、たい肥化するというところも作業にありますから。なので不足するということはないんですね。収穫量も増えています。

 ―畑を借りるというのは難しくはないのでしょうか?

 グループホームの利用者さんが地域行事に参加したり、子ども園とのつながりだったり、そうしたことがきっかけで声をかけて頂いたり、使われていない畑も多いですから、こちらから声もかけたりして。

工賃を上げること


―550円という価格設定については社会福祉法人の運営で、というところがありますか?
 
 それもありますけども、ビュッフェの時は大人が650円でした。現在は550円。一時、ワンコインだったのですが、いろいろ厳しくて値上げさせて頂いたんです。でもみなさん来てくださって…。
 売上げもある程度ないと、みなさんの工賃をどんどん上げていくということが難しい。工賃をあげていきたいというのがあるんです。やっぱり地域で生活されるには、障害年金だけでは足りません。そこを工賃で補って生活できるようにしたいんです。それが自立になりますし。グループホームに入所されている方で、あじさいで働いている方もいますよ。
 あじさいファームの就労時間は基本9時から16時。香川県の平均工賃は1万6000円と低いのですが、ファームは平均4万5千円。次は5万円をめざそうって。
 あじさいは10時から15時の就労時間で、工賃は平均2万6千円ほど。目標は3万円です。ファームは土日に仕事がある場合もあるので、あじさいよりも工賃が高いんです。

地域で暮らしていくために

お弁当や惣菜も揃い、状況に応じて購入しやすい  11時を過ぎると、お客さんが続々と来店

―「障害があるからこれでいい」じゃなくて、地域で暮らしていくためにも目標を立てているんですね。  

 そうですね。ここにいるといろんな方が来られます。お客さんが来てくれるのは嬉しいことですし、利用者さんもイキイキします。自分たちもそうですけど働くことって、目標をもつことで、生きがい、やりがいを感じるものですよね。どんな方でもそういうことを感じて欲しいと思います。

―あじさいファームには、接客がとても気持ちのいい方も働いておられますね。 

 Iさんだと思うんですけど、接客が好きで。もともとあじさいにいた方で「がんばりたいんです」とファームで就労されるようになりました。特別支援学校の現場実習でここを体験してみて「苦手な事にも挑戦してみたい」という人もおられますね。やっぱり目標があるとスキルアップにもつながっていきますから。 
 いろんな作業がある分、私たち職員はそれを見ているので、「あ~これ大変で…」と思うことも多いんです。収穫した野菜も大切に使わなきゃって。 

―野菜を畑で育てるところから始めている分、いろんな利用者さんも関わっている分、調理から販売まで、意識がつながっていくんですね。 

 はい。私自身、小規模作業所のときから仕事で関わらさせて頂いて、当時は父兄…ご家族の方がNPO法人として作業所を立ち上げ、ナザレの村設立後も給食を裏からサポートして担ってくれていました。去年から、あじさいファームがかすがの里やあじさいの給食も担うようになりました。給食づくりを担う利用者さんもおられます。 

―小さな作業所から少しずつ成長していって、今に至る。

紙漉き班による商品 色合いが素敵です


 そうですね。マルシェで販売している石けんは、他県の事業所さんのものですが、他の事業所さんとのつながりは大きいです。研修に行ったり、お互いに物販購入をして情報共有もしたり、技術を教えて頂いたりと。
 これからも農福連携を進めていって、地域との方とのつながりを大事にしていきたいと考えています。

「カフェ あじさい」も

 7月、法人本部もある「カフェ あじさい」をフラッと訪れてみました。

 写真撮影の許可を得るべくスタッフさんに声をかけると、あじさいの管理者・城下まゆみさんが対応してくださいました。

 夏なのでかき氷、アイスやシュークリーム、ケーキなどカフェらしいメニューがあり、長年焼き続けているというパンとクッキー、添加物不使用の食品や「シャボン玉石けん」の商品のほか、もちろん無農薬野菜も販売されていました。
 ”子ども園の子どもがお菓子を買いに来たりもするんですよ”と城下さん。
 私が少し滞在している間にもお客さんが来たりと、”この場所に根づいている”ことが分かります。
 仕事を終えたあとだったため、写真撮影と買い物だけになりましたが、ゆっくりお茶をしに、また訪れようと思います。
 短時間でも「カフェ あじさい」にも、”気持ちいい空気”が流れているのを肌で感じたから。


こういう場所が自分の暮らす地域の近くにある。
その場所の生まれた背景を知ることで学ぶことがある。
聞かなければ「知らぬこと」だらけのこの社会。
私はやはり、「場を訪れること」「聞くこと」を大切にしていきたい。
  そう改めて思います。


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