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場のチカラのあるところーBridge(栃木県下野市)―

 敷地に入ると、旅先にいるような感覚になった。緑が生い茂る道を進むと現れる大きな古民家。倉があり、社もある。気持ちのいい空間が広がっている場所。名前はTSUBAKIYA(ツバキヤ)。建物は築100年を超えているという。管理・運営をしているのは障害者の雇用コンサルティング事業、相談支援事業を主に行う一般社団法人Bridge(ブリッジ・栃木県下野市)。ツバキヤは事務所兼レンタルスペースだ。代表理事を務める山口理貴さんを訪ねた。

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障害の背面化、個人の前面化

 法人スタッフはデザイナー、一級建築士、精神保健福祉士などの資格を保有する4名。作業療法士、ジョブコーチでもある山口さん。起業のきっかけは障害者の就労支援施設やハローワークでの勤務経験だと語る。
 「障害者を雇用したいと考えている企業は多く増加しているのですが、雇用方法や対応の仕方、助成制度の利用などについてほとんどわからないというのが現実でした」
 障害があるというだけで就労・雇用へのハードルが上がってしまう。その人の一部として障害があるのであって、障害は個人を語るものではない。だから、“障害者アート”といったような、障害に付加価値をつけるような在り方に違和感があると山口さんは説明する。
 「障害を配慮することは大切ですが、個人の力を活かせる環境・社会かどうかのほうが大切。『障害の背面化、個人の前面化』とよく表現しています」
 家族や友人など、身近に障害のある人がいなければ、「常にお世話が必要」といったように障害者に対するイメージが一概に“重い”のだという。「聞いてはいけないことは何か」と問われることも多いといい、障害があるというだけで、特別視されがちな風潮が拭えない。

障害者ではなく、「人」として

 ツバキヤの暖簾が掲げられた入口をくぐると目に飛び込んでくる、1メートルはあろう「目玉のおやじ」のモニュメント。地元で行われる「かかし祭り」の出品作品だったという。

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「ツバキヤをはじめて間もなく作品募集の情報が入り、一発奮起で“作ってみよう”という話になったのです。理事メンバーの勤務先の精神科デイケア、関わりのある地域活動センターのメンバー10人ほどで昨年製作したものです」
 作品は予想以上に好評だった。昨年オープンした近所のカフェから、『ハロウィンイベントで使いたい。目玉のおやじを貸してほしい』と打診があったという。
祭りの後、しばらく野ざらしにさらされていたこともあり、作品は修繕が必要な状態だった。貸出す前に、デイケアのプログラムで修繕作業を行ったという。祭りに参加するのにも、カフェで使用される際にも「障害者の作品」という掲示の必要性は全くなかった。
 「いち出品者・製作者として、地域参加ができた事例だと思います」

 大切にしている二つのこと
 ―企業とともに

 「雇用に関し、コンサルに一任するという姿勢では、企業の成長はありません。今の社会は、障害があるだけで、健常者と二分化されており、人としての理解が不自然なのではないかと感じています。企業とともに仕組みを考えていかなければ関係性は変わりません」
 山口さんが重視する、「企業とともに」という姿勢。就労支援施設を一緒に見学するなどして、障害者雇用への考え方を“現実的”な方向へと進めていくのだという。
自動車関連企業で勤めていた経験がある、脊髄損傷を患った身体障害者を雇用したいという同業者の事例を山口さんは説明する。
 「トイレをバリアフリーに改修するといった環境整備をする心持ちはあるのですが、企業として何から始めたらいいのかわからなかった。私が障害者の自宅に行き、便座は右、左どちらがいいのかといったように、生活環境を踏まえたうえで労働環境整備をアドバイスしていくと、企業も『携帯電話はガラケーとスマホのどちらがいいのか。パソコンはデスクトップかノートか』といったように質問してくれる。配慮すべきアプローチの取っ掛かりさえ掴めれば、障害者と企業の関係性は縮まっていきます」

 ―障害性の情報との距離感

 雇用が決まり、企業スタッフに“こんな人が来ます”と事前説明を行う際、情報共有は雇用者と密接に関わる上司やスタッフ数人にとどめておくのだという。情報共有の範囲を限定するのは、必ずしもその情報が仕事をするうえで必要でないからだ。
 「障害についての情報が必要になったとき、アクセスできる環境があればいい。情報に差をつけるという『情報の距離感』をとても意識しています。同時に、個人の力を発揮できるよう、配慮するべきところ、配慮しなくていいところについてもしっかり説明しています」

 多様性に気づいて

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 ツバキヤでは「トキメキトークショー」、「読書カフェ」といった自主企画イベントの開催も行っている。山口さんの祖父の持ち家だったという建物はかなり老朽化しており、リノベーション。2016年春、オープンイベントを区切りに、以降月2回ほどの自主イベントを開催してきた。2017年にはレンタルスペースとして外部に公開すると、行政からも使用したいと声がかかるなど、問い合わせも増えているという。
 「トキメキトークショー」はすでに6回開催しており、テーマは「リーダーというもの」「耳(聴覚)の世界」など毎回様々で「マイノリティと言われる生き方」とのテーマの時には、LGBT、稀な職業との意味合いで、現代美術家、業界の異端児と言われる有料老人ホームの施設長、精神障害ピアサポーターという4名をスピーカーに招いたという。
 「ひとつのテーマに対して“多角的に”という思いがあり、スピーカーには代弁者ではなく、個人として語ってくださいと伝えています」
 登壇者は、”個性の強い人“とも言える。その人の語りが、その世界の全てでは決してない。
 「社会そのものが多様なのです。ただし、その多様性を整理するためにカテゴライズする傾向があり、個人というよりもカテゴライズされた”個“が強調されているように感じます」
 障害という言葉の与えるインパクトの大きさもこの傾向のゆえ、なのかもしれない。
 「イベントで何らかのメッセージを発したいのではなく『自分の知らない世界』があったと気づいてもらいたいのです」

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 理念は変えず、地域の変化とともに歩む“これから”

   自主イベントを中心としたスペース、オフィス兼レンタルスペースという2つの段階を経たツバキヤ。今後は、シェアオフィス兼レンタルスペースという在り方を考えているという。
 「業界をまたいだり、コラボしたりできれば。ツバキヤでマルシェイベントなどを開催すると、不特定多数の来場者を受け入れることになり、駐車スペースの確保という課題が出てしまう。カフェが近くにできたことで不特定者を受け入れる場所ができた。であれば、ここは特定小人数を受け入れるような場、あるいは管理できる範囲内で開放すればいいと考えるようになりました」
 障害の有無を問わず、地域に参加できる仕組みづくりという法人理念を具現化するために、取組みを継続するために、利用の在り方を変えてもいい。
 そんな風に山口さんは考えているという。
    法人サイトには「多様な人が垣根を超えて、多種多様な表現・交流が生まれ、新たな価値が創造される場所を目指す」とある。

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 相手のこと、その周囲のことを丁寧に慮り、関係性を紡ぐ方法を考えていく。山口さんの仕事に携わる姿勢には、“てしごと”に似たような、丁寧さがある。先日アップした、介護付有料老人ホーム「新」の横木施設長も「give&giveの関係性を築ける人」と信頼を置く。
 
 いまの自治体はどこも“地域おこし”や”イベント“に躍起になっている。それが、地域に住んでいる人たちにきちんとつながっていくものであればいいのだけれど、一過性であったり、とってつけたようなものであったり、何か違和感を感じるのだ。栃木県下野市、人口はおよそ6万人。なだらかな平地が広がる穏やかなまち。山口さんは「人口規模がちょうど良く、人がつながりやすい」と話していた。新といい、ブリッジといい…そのほか、市内で活躍する人や事業所が、全体的にうまく手を繋いでいる感じを受ける。そして“その先に続く道”も感じる。だから、下野市事体の“これから”も、楽しみになった。(2019年9月取材)


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介護、福祉、医療に特化したフリーな物書き。1983年埼玉県生まれ、香川在住。高齢者住宅新聞社にて長く現場取材。のちにフリー。 取材キーワード:コミュニティ、介護、福祉、医療、多世代、ごちゃ混ぜ、建築、空間、旅、南米、たまに高校野球、オーガニック
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