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兵庫県たつの市の物語:第3話 場から始まる物語~コープ龍野のお話~

熱源

 これまでのお話で登場してきたイベントーイザ!カエルキャラバン、ユニバーサルショッピング体験、コミュニケーションバリアフリー。これらはいずれもコープ龍野にある「みんなのつどい場 すーぷ スープ coop」で行われています。コープ龍野の店長さんにお話をお聞きしたい!私はそう思っていました。


だって…

一民間企業が、ここまでイベントを実施するって珍しいと。イベントを行うには、スタッフも増やさなければならない。打ち合わせも事前準備もそれなりに必要。つまり、かなりの”労力がいる“わけです。どんな思いでおられたのか、エネルギー源はどこから?など、私には幾つもの疑問がありました。
  そこで、コープ龍野にアポイントの電話をかけたのです。
   残念なことに1月下旬、それまで店長だった日高功さんは異動していたことが判明します。ただ、電話対応してくださった石井マネージャーが「どこまでお答えできるかわかりませんが、おいでください」とおっしゃってくれたのです。

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 矢野さんにコープ龍野まで送って頂き、時計を見ると14時半。石井マネージャーには15時すぎに伺うと伝えてありました。私は外のベンチに腰掛けて、容量がいっぱいになってしまったスマホのデータ整理を行います。予想以上に大きな店舗。そしてこの日は何といってもあたたかい。2月とは思えぬあたたかさ。コートも羽織らず外で作業ができるとは…。
  そんなこんな、15時を過ぎたところで、店内にいたスタッフに「石井マネージャーにお会いしたいのですが…」と私は声をかけました。

  お話を伺った場所はもちろん、「みんなのつどい場 すーぷ スープ coop」です。
   石井マネージャーが、これまで実施してきたイベントの報告やチラシが入った分厚いファイルを見せてくれ、話をしてくれました。

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(左 石井さん、中央 前山さん 右:大西さん) 

※「すーぷ スープ coop」という名称には、ごちゃまぜで美味しいスープのように、さまざまな人たちが美味しく繋がれるという意味が込められているのだそう。

開いた場所、の大切さ

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 ここはね、もともとマクドナルドだったスペースです。広いでしょう?撤退してしまって空きスペースになっていたのです。2019年の5月から二か月ほど愛称を募集して、「みんなのつどい場 すーぷ スープ coop」との名称になりました。はじめは近隣の学校の合唱イベントやコープ商品の試食会を開いたりして。健康測定のイベントも実施しましたね。
    店独自の母の日、父の日のイベントだった   り、毎月2、3つのイベントを行ってきました。図書館が出張してくれての絵本読み聞かせのイベントもやりました。実はお店のバックに、地域の人が使える部屋があって、そこでの活動も実際あったんです。だけど、ここ(みんなのつどい場)でやるということの意義が大事だなって。これからもっと地域活動の場として認知されていったらいいなと思うんです。イベントだけでなく、“実”の場になれば。

ここで、イベント運営に関わりのある大西サービスチーフにも話に加わって頂きます。
お二方に聞きました。

―ここができての変化を教えてください。

(大西さん)イベントを実施することで若い組合員さんの誘致につながりましたね。それまでは、いつも同じ組合員さんが同じ買い物をして帰っていっていました。
(石井さん)そうですね。

―新しい風が入ったということ。

(大西さん)前店長の日高が、みんなを引っ張ってくれていました。「やりたいことがあるならやろう」って。カエルキャラバンは確かに準備は大変でしたけども、子どもたちがとても喜んでいました。ユニバーサルショッピングも実際に目の不自由な人が来て、アテンド体験の人とともに実際に買い物ができた。

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イベントをするたびに「楽しかった!!」「次は何するの?」って期待する声もあって。そうですね…。子どもが何か体験できることを要望する声が多いのでそれに応えられるようにしていきたい。

(石井さん)ひと月通して、来客数が前年度比で数十パーセント増えているというデータからもお店に若い人が増えたのは事実だと思います。「店が明るくなって活気が出てきたよね」とはお客さんからよく言われることです。ここで何かしているのを見て「どうやったら入れるんですか?」と聞かれることもあります。やはり、バックではなく表(ここ)でやるのがいいんでしょうね。コープができるキーワードって「食事と健康」。できることをこれからも取り組んでいきたいと思っています。

 コープ龍野は、確かにまちの中心街から離れているため、お客さんを増やしていくとは容易いことではないでしょう。
それでも、周辺で暮らしているひとたちにとって大切な“買い物をする場所”であるという事実が変わることはありません。

 コープでのフードドライブの取組みも根付いており、年2回だった回収が、週一度という頻度にまで食べ物を持ってくる人が増えたのだそう。
 「たつのではお米もよく収穫できるので、古米ですが50キロの玄米を2回持ってきてくれた人もいましたね」(石井さん)

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つどい場があるからコープに行こう。
あそこに行けば、あの人に会える。誰かに会える。
“わくわく”することをやっているらしい。今度は何を?
それ自体、小さいかもしれないけれど、確実に“まちの明かり”。

行く場所がある、楽しみがあるって、かっこつけて言ってしまうようですが“生きる活力”だから。

日高さんを動かしたもの:出会いがパワーに

 さて、お二人と話をしていて、日高功前店長の存在が大きかったことが伝わってきました。
 だからやっぱり、日高さんにもお話をお聞きしたい。
 そこで私はメールを介して日高さんに幾つかの質問を投げかけました。以下、メールでの往復のやり取りから。ぜひ読んでください。

日高さんの書簡より

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   私がコープ龍野に赴任していたのは2017年9月の末から1月まで、丸2年と4か月。宮崎さんとは行政からの紹介でお会いしたのが最初です。2018年12月頃だったでしょうか。
    市の防災協会の会合で市長にお会いし、その場でマック跡地の運営に関する私の思い―地域交流の拠点にしたいということをお伝えしました。その思いを受け止めて頂けたことが宮崎さんとの出会いに繋がったのです。

   コープ龍野に赴任した時、マック跡地はコープ委員さんが運営する「ふれあい喫茶」というサークル活動のみが月に一回開催されていて、近隣の高齢者の方たちが買い物ついでに寄って頂ける場にはなっていました。でも、地域交流拠点とするような話は皆無。当時、話があったのはテナント誘致のみ。先行きが不透明な状態と認識していましたね。
 
   いかんせん、人が集まらないお店になってしまっていて…。職員のモチベーションも低かった。だからこそ、明るいお店にしたかったんです。

   そのような状況で、業績も決して芳しくはないコープ龍野が地域になくてはならない店舗として存在していくためには、商品を供給するだけの店舗ではお店の存続自体が危ぶまれるのではないか。今こそ生協らしい店舗をつくり上げてみたい。地域交流拠点の場をつくりたいという思いが湧いてきたのです。

    地域交流についてはもともと関心があったというよりも、日々、組合員さんとの交流のなかで協同組合運動の理念「一人は万人のために、万人は一人のために」が頭をよぎり、生協らしい店舗をつくり上げるにはこの理念を具現化したらいいのではないか。そのためには地域の人たちと向き合って課題を発見して、そこで少しでも役に立てれば…。地域交流を深めることが大切なのではないかと。

   人口減少、高齢化、地域経済の縮小で、地域コミュニティが希薄化している昨今ですが、コープ龍野では組合員さんとの交流を通じて様々な困りごと、地域の課題などをお聞きすることを大切にしてきました。
“人と人とのつながりを通して得られる助け合いの精神が集まれば解決できる事案が多数あるはず”。
このつながりを深めて広げていくことが必ず地域貢献につながる。地域に貢献できるお店ができたら生協らしい店舗に近づいて、さらには環境や福祉、防災など、地域の抱える課題とも向き合うことができるのではないか。思いが高まっていきました。その思いが宮崎さんをはじめ、様々な方々との出会いを生み、出会いこそ、私のパワーになりました。そこから、“仕事”という枠を超え”人を大切にしたい“という思いに変化して、私を突き動かすエネルギーになっていたのです。

   本来、営利企業であるスーパーマーケットの店舗内で百歳体操(健康)をはじめ、ユニバーサルショッピング※にコミュニケーションバリアフリー※(福祉)、イザ!カエルキャラバン(防災)、今後は出張確定申告の実施など、生協の店舗は買い物するだけの場ではなく、地域の課題に向き合う店舗、買い物ついでに自然と交流できる「場」、笑顔が生まれる「場」として、行政やNPOの方々に認識して頂けました。それゆえに、実現できたイベントが多数あったのだと思います。

…確かに、振り返れば「よくやったなぁ」と思うんです。最初はみな、あまり関心を示さなかったので辛い気持ちもありました。でも。思いが人を動かすということ。そしてみな、優しくなれるということ。世の中の理不尽なことも受け入れながら、人は人の大切さを知り、人を大切にしたいという思いに駆られる。だからこそ、縁あって出会った様々な方々と一緒に“ひとりでは出来ないことをやり遂げたい”とパワーになった。それがまた、自然と周りに波及して新しい力が生まれるんです。                

 はじめて、人に心から感謝ができる自分に出会えました。

この日の終わり:再び、いねいぶる 

~障害があるから楽しみたいプロジェクト ユニバーサル【SUP/ビーチ】シンポジウム ミーティング~

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 コープ龍野を後にし、やや陽が傾いてきたころ、再び私はいねいぶるへ。T-SIPの活動に関わる映像記録などを担当している地元企業2名、たつの市行政職員2名、いねいぶる職員1名、宮崎さん、そしてプロジェクトに携わっている大学教授など3名がオンラインで。総勢9名によるミーティングが18時すぎ、始まりました。

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 シンポジウムは2回の予定で、2月16はたつの会場、3月15日は神戸市の会場(流行病の影響で延期)です。たつの会場での開催直前ということで、内容はシンポジウムの流れ、当日の各々の役割の確認など。
 この会議を傍聴しながら私が感じていたことは、「宮崎さん、真剣ながら、楽しそう」ってことでした。
   オープンなディスカッションの場をどうやってつくるか。いかに参加者を巻き込むか。参加者が前のめりになるような状況をどうしたら生み出せるか。それらを重視したいということが、宮崎さんの言葉からひしひしと伝わってきたのです。

やっぱり、宮崎さんは「-と」の人。

「-と」することで、ワクワクが広がっていく。可能性が広がっていく。

そこにみんながつながる未来を、宮崎さんは見据えているんじゃないかって。

誰しもが“暮らしやすいまち”につながっていく。

誰かが誰かを思い、支える。

“慮る”土壌があれば。

蒔いた種はやがて芽をだし実をつける。

―結果、enable。

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2月16日に行われた、たつの会場でのシンポジウムの様子。

ワクワクする未来が、そこにある。

… to be continude.

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