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well-beingて何だろう。TRAPE・鎌田さんに会いに。

 TRAPEは「No Role, No Life」を掲げ、“well-being革命を起こす”というミッションのもと活動している会社です。代表の鎌田大啓さんに会いに行きました。

まずは鎌田さんの経歴から…

―経済学部出身で、大学卒業後に作業療法士の資格を取得。そこから医療・介護業界に関わりを持たれたと。

   はい。もともとは記者志望で、ある新聞社で編集補助のインターンをしていたんです。記者は記事を書くことによって社会に“訴える”、社会を”変える“ことができる。事件であれば、なぜそんなことが起きたのかを追い、表面に出ていないところを明らかにしていく。そんなところに泥臭さを感じていました。
   でも、あるとき思ったんですね。転勤が多く、自分の家族を守れていない方が多いなと。その姿は僕が描いていたものと違っていて、三年次の終わりにインターンを辞職しました。
   そんな折、フィナンシャルプランナーの資格を取った友人がいて「なるほど、資格か」。様々な資格が掲載されている本をめくっていて最後のほうに“作業療法士”があったんです。そこには「QOL」など人間くさい言葉が羅列されていました。僕は経済学部に在籍しているにも関わらず、心理学などに興味があって授業を受けていた。評価もグレードAとかもらえたんですね、笑。就職活動を始めていても、作業療法士のことが常に頭にちらついていて。夜間学校に通いながら資格を取れることがわかったので、昼間はアルバイトを、夜は学校に通いながら、作業療法士の資格を取ったんです。

その後、回復期の病院、急性期の病院に勤めました。

    病院では在宅復帰を目指してリハビリをしているわけですが、言われるんですよ。「家に帰ったらこんなリハビリは出来ない」って。病院みたいに環境が整っているわけではないからと。そこで患者さんのニーズに応えたいと思い、転職したんです。その医療法人では、訪問看護ステーション、ケアプランセンター、通所リハビリ…。同法人でありながらバラバラでしか機能しておらず、それぞれが自所のことしか考えていなかった。介護事業自体、赤字だったんですけど、それに対して何の意識もない。質にこだわっていない。医療が赤字を補填していました。「飯を食わしているのは医療のほうでしょ」って、上下関係ができていて。そこに僕は目をつぶれなくて“こうしたほうがいい”などと、意見を出していたんです。のちに介護事業の運営に関する権限をもらうことができました。
   介護保険制度では“自立支援”ということがはっきり書かれていますけど、入院患者を地域に戻すことはタブー。通所リハビリは、ただ時間を過ごすだけのデイサービスのような場で、その状態に介護スタッフは慣れてしまっていました。患者さんは、ただ与えられるだけの存在で、一方通行のコミュニケーションしか成り立っていなかった。そうじゃない。もっと別の役割があるでしょう?自分の人生を選ぶ土台を。
 例えば、100種類のアクティビティがあります。「あなた自身が何をするか決めましょう。わからなかったら一緒に考えていきましょう」。そこに寄り添うのが専門家の支援ですから。

―今でこそ、プログラムが自主選択型のデイサービスは増えていますけども、当時、鎌田さんが取り組み始めたことは珍しかったんですね。

 はい。本人が自信をもつとか、本人の可能性をいかに広げていくかが大切だと思うんです。僕が始めたことに対し、最初はみんな拒否反応しました。でも今はどうでしょうか。皆さんやってます。本質的なものであれば、時間がかかってもやがてそうなる。単純な「いいね」より、批判してくれる人の存在があったほうがいい。批判するとは、そのどこかに「引っ掛かり」があるということなので。

 “自立支援”に沿った活動を広げていき、赤字だった介護事業部門を黒字に転換させた鎌田さん。

 TRAPEを立ち上げる前、吹田市の介護保険事業者連絡会の会長を務めていたんです。総合事業が制度化されるころで、行政とも関わりをもっていましたが、行政も、各職能団体も介護事業者も、みんなが「?」。それぞれみんな課題を抱えているのに総合事業?!と。でも、その課題を合わせると可能性に変わるんです。課題を言い換えると可能性。要はデザイン。課題の裏は可能性。課題を評価して整理していく。そのつなぎ役をすればいいと気づきました。
 課題を可能性へ。デザインし、さらにそれをアップデートしていく。そこに特化した会社をと、2015年にTRAPEを設立したんです。

地域づくりについて語る

 現在の主な事業は2つ。本質的な自立支援のできる人材を育成するためのコーチングサービス(Club TRAPE)と、介護現場の業務改善や法人の仕組みづくりを行う生産性向上サービスです。前者はいわゆる人材開発の領域、後者は組織開発の領域です。「ひと」と「仕組み・業務」の両輪から介護事業をアップデートしていくイメージですね。その延長として、法人の土台となるビジョン策定から支援することもあります。
 それ以外に、自治体からのご依頼(事業の設計、地域づくり、講演、研修など)も多いですし、企業さんからはICTツール開発や普及のご相談が中心です。いずれもTRAPEの強みである現場知見と実践経験に裏打ちされた「全体のデザイン力」に価値を感じていただいていると理解しています。弊社に依頼して頂ければ結果が出るということですね。

 介護現場の生産性向上サービスーネガティブを吐くことで見えてくる デザインする

介護サービスにおける生産性向上_現場の方々と対話1

(生産性向上サービス 現場の人たちとの対話) 

自分たちの強みを言い合おうといっても、発見しにくいものなんです。それよりも「ネガティブを吐いて、吐いて」と伝える。そのネガティブの文脈のなかにキラッと光る可能性があるんですね。どこもかしこも人手不足感を抱いていて、とてもしんどい。そのしんどさは被害者感につながってしまうんです。ネガティブの文脈の裏側をみる。〇〇はこういうことですね。“〇〇はしんどい。でも〇〇はできている”と。
 「自分でストレングスを表現しましょう」。いま、そういったことを過剰に求めすぎていると思います。それぞれが“点”のゴールを追求し、みんな本当に頑張っている。一方、経営陣やトップがセミナーなどに参加して学んでくる。「なるほど、そうすればいいのか」。部下に表面的なことを伝えて「明日からやろう」。「え?私たちこんなに頑張っているのにさらにやれと?」。本質的なことを現場に伝えられていない“ミスコミュニケーション”が起き、現場は混乱し、ますます“忙しいモード”に突入する。本来主体だったはずの利用者さんは消えてしまっているんですね。
 現場ではこのような経営者と現場のミスコミュニケーションが多発しています。トップダウンで現場にさせるのではなく、ボトムアップで現場の声から始める。現場にこそ正解はあるんです。
 頑張っていることをふつうに語ってもらえればいい。“しんどい”と言うならば、何故しんどいのかを本人が整理できるようにもっていくんです。要素を分解して、どう新しい価値にしていくかがデザインです。
 現場が一ミリでも変わること。ちっちゃな現場の変化はとても大きい。“いい体験”をしてもらえる環境をいかに生み出していくか。ピカピカしたものを提示するより、リアルな場を提示して味わうこと。
 そこでよく言うのは「足し算と引き算」です。いいものをどんどん伝えるだけだと、今でもいっぱいいっぱいなのに崩れてしまいかねません。引き算してからその分を“足せば”、無理のないところで変化することができる。

“なぜ”?の姿勢

 こちらから「こうしましょう」とは言いません。そうではなくて、まずは現場の愚痴を200でも300でも集める。それらを整理して“因果関係図”をつくるんです。なぜこれが起きるのかと。
    例えば人材不足の問題があります。人が辞めていく。定着しない。よくよく聞くと、挨拶が出来ていないということが見えてきた。上司の気遣い不足という因子。人が辞めていく風土の原因は“挨拶が行き交わない”ところにありました。そこで挨拶から始めたら、会話が増え、職場の雰囲気全体が変わった。「挨拶しよう」なんてちっちゃな改善ですが、ポジティブさを生み出し、大きな変化となったんです。

 通例となっている“やり方”があって「何故そのやり方なの?」と聞くと「10年間ずっと先輩がこのやり方でやっているから」。「いいと思っているんですけど」って、“けど”の先を言えない。そこを自分たち自身で変えていく。やり方を変えたら一時間残業が減った。時間が減ったのではなく、心の余裕、時間の余裕ができたということ。その時間で何をするか。スタッフ間で語り合う?利用者さんのために何か?それとも休む?どれもいいと思います。

エナジーをもって

 ロボットやICTの技術の活用はマストですが、手段であり目的ではない。優先順位があると思うんです。ロボットやICTが仕事を代替してくれるわけじゃないんですよね。スタッフあっての”付属品“。アナログに問題を整理、改善していって、さらに欲求が出てきて「もっとこうしたいんだけど」と、アナログに限界を感じた時にツールを使う。  
 彼らが主体。彼らの体験価値をどう上げていくかが本当に大切です。
 体験価値が上がると、悩みの質が変わるんです。「自分の時間が欲しい」と言っていたところを「利用者さんにもっといいケアをしたい」「アセスメントのミーティング時間を増やしたい」とか。利他的になるんです。
   いま多くの現場で「経験が足りないから」「こういうもんだろう」って鼻からあきらめている状態が蔓延しています。「だって〇〇が」と人の攻撃を始めてしまうんですよね。その前提が変わればよくて。その前提を変えるのは現場スタッフ。現場がすべてなんです。

 経営者が欲しいのはいい結果。でもそのいい結果のためには、いい現場であるかどうか、地域にいい評判があるかどうか。いくらハウツーを言われても、そもそもの気力がないのにいい結果なんて出ません。
やらされてやっている1から10と、何かできると思ってやっている1と2。この差はすごく大きい。
 エナジーをもった介護職員、介護現場をつくらないといけないですよね。自分の可能性を自分で消してしまっている現状が多い。

対話、そしてアップデート

山川さんと語る2

 (大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻准教授の山川みやえさんと。「アカデミックの立ち位置から、これからの日本の未来を真剣に考え、個々人がwell-beingに溢れた未来の可能性を生み出すためのひとづくりについて、ここまで向き合い、何よりActionを多く起こそうとしているところが本当にイイ!」と鎌田さん)

 人が元気になれる仕組み。日常の会話のなかで語りだしているような。“Work as Life”と日々思っています。仕事と生活を分けることはできないなと。介護現場では愚痴が多く聞かれ、それを改善する行動は殆どみられません。こういう場合、働きがいも低いし、生きがいも低いものなのです。生産性向上サービスに取り組んだ後の現場は働きがいも生きがいも向上し、プライベートも向上しています。まさにWorkとLifeは相関し合っているのだと実感するわけです。「しょせん介護なんて」と言っちゃダメなんです。医療用語を使わなければ…と介護職員は思いがちですけど、生活を支える介護の尊さは医療と同等。両者が対等であるためには「対話」です。対話ができると、人と人がお互いに気づき合える。
 対話するにはstoryやイメージをもつこと。背景はみんな違う、いろんな経験がある。だからいろんなthinkがある。thinkを述べあい、actionする。その結果、本人や家族にとってどうだったか、learnする。その繰り返しをしていくとchange―変化が生まれるんですね。その変化こそが価値で、この一連の流れを繰り返していく。すると、元の場所からは次元が変わっているはずなんです。円を描きながら上昇していくような。その繰り返しが新しいstoryになるんですね。アップデートでもある。
 さらにここに加えると、経験だけでもないんですよね。本や座学を通して、それらが自分の経験とどうつながったかーあの本や座学はこういうことだったのか…。すべて連動させていく。意味なく語るのではなく深ぼっていく。

Club TRAPE―自らの立ち上がり チームで取り組む

オンラインサービス

(オンラインサービス)

 Club TRAPEはwell-beingな日常をデザイン&メイクするwell-being Designerになりたい医療介護職のためのウェブでの経験学習を軸にしたコミュニティでのコーチングサービスです。全国各地、多職種の人たちが参加しています。メンバーであるチャレンジャーの日々の現場においてモヤッとした課題について相談したい、解決したいと思ったら、その旨をウェブ上に書き込みチャレンジャーから「サポーター」を募ります。最大5人(本人合わせて6名)でチームを組むんですね。
 チャレンジャーが課題の状況説明、それに対する思いや考え、悩みを綴る。変化があれば都度書き込む。サポーターもどんどんコメントを述べます。“対話”です。TRAPEとしては、書き込みやコメントのなかで重要だと思われることには「Good ポイント」「Think ポイント」などマークづけをしたり、もちろんコメントもしながら、解決、納得できるまで伴走していきます。
 本人はもちろんサポーターも、そろぞれの文脈のなかで学ぶことができるんです。学び合いです。
 目の前のワンケースにどれだけ真剣に向き合えたかが専門家の学びなんですよね。食事介助にしたって、ただ「食べてもらう」だけではない。いろんな側面があることに気づけるかどうか。

 Club TRAPEでチームを組んでいるわけですが、最終的には現場でチームをつくれるか。停滞してしまっている現場に、Club TRAPEでの学びや気づき、いいエッセンスを現場に持ち込む。課題の解決は一人で出来るものではありません。現場に、地域に“チーム”ができて欲しいですよね。家族もチームに入って。
 日々のことをClub TRAPEに投稿し、メンバーと対話していくことで意味付けされる。現場でアクションして学びを得る。
 そこで出てくるのが「もっとやりたいけど時間が…」という課題です。
ならばそのための土台の時間をつくりましょう。“引き算”して対話を。自分たちで自分たちの価値をつかみとる。促されたって変化は起きない。自らの立ち上がりによってこそ起きるもの。だからこそ介護現場における生産性向上サービスが必要になってくるのです。

進行のなかにあるbe 多様からのwith ―“well-being”

―TRAPEのサイトで、「well-beingの対義語は孤立や孤独」というくだりを読んだとき、私は強い頷きがありました。

 二人いる状態で、すでに“コミュニティ”はあるんですね。コミュニティの語源はラテン語で「共同する」「貢献する」といった意味があります。コミュニティがあるとは貢献し合っている状態。その貢献には「居てくれるだけでいい」とか、幅やグラデーションがあっていい。誰かがそうこう言うものでもなくて。こうあるべき、でもない。コミュニティのなかで決まるもの。つまりwell-beingは多様で、その時々や状況、文脈によって変わるもの。最後(結果)を見るのではなく、プロセスをみることが重要です。一人ではなし得ない。貢献するとは誰かがいること。二人いたら役割が生まれる。その役割とは“居るだけ”かもしれないし、もっとemotionalなところにあるかもしれません。
 そこを伝えたいために「No Role,No Life」と掲げているのです。

ー鎌田さんご自身は作業療法士でもあるわけですが、仕事のなかで作業療法的な見方、見立てが活きていると思われることはありますか。

 作業療法には、人がいたら環境がある。環境があれば作業が生まれるという見方があります。well-beingとは人がいて、環境があって、活動あって、の状態にあるものと考えています。つまり、well-beingとは何気ない日常のなかにある。ケアだってまさに日常のなかにありますよね。会社では「well-beingデザイナーを増やす」と言っていますが、well-beingデザイナーとはその人の可能性を誰よりも“あきらめ悪く”考える人、とも表現できるでしょうね。
 表在ニーズと潜在ニーズがあります。表在ニーズだけに応えて「いいケアしてる」と言うのはやめようって思うんです。”地域づくりやってます“とか、いわゆるバズワードを使っている人はファンタジストだとも思います。
 利用者さんとの日常で「実は…」とボソッと何か言ったとします。欠かせないのはそこ。フローしてしまうところを見逃さない。それらをストックしていく。すると、データも含めてたまったものは体系化できる。体系化できるとはデザインできることなんです。
 自らに変化があって、アップデートできたとき、「え、こんなこと言っていたの?」って、利用者さんの声が聞こえてくる時があります。そこに“いいケア”のヒントもある。小っちゃいことですが、小っちゃいことに価値がある。日本の介護の価値はそこなんです。そんな泥臭い価値を見える化して、彼らが変わる。それがReデザイン。  
 体験と主観的評価によってwell-beingなものは生まれるんです。

 介護という言葉自体に「守るべき存在」という誰も疑わないような強い意味付けがされていますが、介護という言葉自体を変えたい。高齢者とは守るべき存在ではない。高齢者もふつうに楽しく生きていきたい。そのための手助け、支援。forじゃなくてwithの時代となっているのに、言葉が変わらないんですよね。リエイブルメントという言葉があります。英国ではリハビリとは、リハ職が単独で行うことで、リエイブルメントとはリハ要素×生活という概念で、多職種で行うものとの整理がされていたりします。そもそもその人にタレント性がある。それを取り戻そう。あなたの“在りたい”可能性を広げましょう、と。
 beingとは進行しているもの。変化ありき。だから僕らもその真っただ中にいます。

     僕たち自身がそもそも多様か?って問いを投げかけています。TRAPEにはwebエンジニア、元金融マン、元役者など医療・介護外の専門職もいます。多様でないとwithにならないんですよね。その多様性のなかでやることに信頼というものが生まれる。信頼の渦が生まれ、価値が変わる。そう思います。

 最後に。
 TRAPEのサイトのトップページに書かれている言葉を引用して、鎌田さんのお話を閉じることにします。

無題

ひとの本質に立ち返ろう

人とつながり 社会と関わり 

役割を担い  果たすこと

日々の活動の有機的な連鎖が社会をつくり

私たちの日常を豊かにしてくれる

社会や関係性という資本(Social Capital)が

私たちの幸せ(well-being)の源泉にある

誰もが自分らしい最高の役割をもつ

そんな素敵な世界をTRAPEは実現したい

https://trape.jp/



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