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アニメデジタル化黎明期のアニメ仕事 1996-2/3 オプティカルCGエフェクト編


『新世紀エヴァンゲリオン劇場版Air/まごころを、君に』2/3

祝『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』終劇の大団円


CONTENT
TITLE Jobs1996. 【新世紀エヴァンゲリオン劇場版Air/まごころを、君に】
•超大量同時表示の十字爆発墓標、光の粒。(フレア/透過光付き)

Mission-02 閃光の十字墓標、奔流の光粒!
 「もっと光を…  でも、グローじゃダメ」

1996年当時、アニメ制作において撮影は、ほぼ撮影台におけるフィルム撮影で占められていた。

撮影台、アニメーションスタンド。

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「透過光」、その撮影台におけるアニメのエフェクトとしては常套手段として用いられる、メジャーな表現方法である。
画面の一部もしくは広い範囲がピカ〜っと光ってまぶしいアレである


https://in.pinterest.com/pin/713609503444919600/



〇透過光という表現

直撮りという素材の下にライトを仕込んで撮る方法もあるが、殆どの透過光は下絵を撮影した後、フィルムを巻き戻し、画板下にライトをカメラに向け仕込み、カメラとライトの間に(通常は下絵と同じ画板の上に置く)下絵の光らせたい部分以外、黒い絵の具やラシャ紙で覆ったマスクを置き、再び撮影することで、最終的にそこの部分が光って見える表現となる。


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画板

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参考映像記事,animeの道具箱さんのページ


今のHDR対応モニターならかなり輝けるが、当時の家庭用モニターはカソードレイチューブ、CRT,いわゆるブラウン管と言うやつである。
放送信号の上限もあってマージ分取っても256X3の白は出ない。
映画も反射率の高いスクリーンに反射する素のフィルムベースを通ってきた光がマックスである。それでも実際光ってみえるのが透過光である。
問題は、acesもHDRもbt2020やbt2100などまだまだ先の1996年。
CGで微妙な色調表現をしようとした当時のCG屋を悩ませたいわゆる8bitの呪い、256階調問題である。
微妙なグラデーションを表現しようとすると必ずやってくる奴。
当時はマッハバンドと呼ばれた厄介者である。
今でも気を抜くとやってくるバンディングの事だ。

攻殻の時の経験で、ある程度のグロー(滲む輝き)なら出すことが出来る。
しかし今回求められているのは完全な輝きフレア、透過光である。
しかもマッハバンド=バンディングは許されない。

「消えませんねー」
テストを開始して暫くしてアニメーション担当者が言った。
CGコンポジットでなんとか期待のものを仕上げようとしていた。
かなり目標に寄せてはきているのだが、何せ印象が弱い。
フィルムレコーディングしてみると、マッハバンドもでている。
コンポジット時ノイズを入れたりできることはしてみたが、出来上がったフィルムが全てを語っている。
フィルムレコーダーのルックアップテーブルはまだ調整中ではあるが、それでもである。
「この艦では我々は勝てない…」違う。
「セオリー通りの方法では監督の望むものに届かない…」とスタッフの認識だ。

オプティカルCGエフェクトチーム率いたのは、フィルム魔王こと○宿氏である。
そこで魔王がつぶやく(因みに当時Twitterはありません)

「レンズ前に何かシャのようなもの、フィルターを挟むことはできないか?」
「む、無理です、前例がありません。」
「トーヨーリンクスはソフトウエァのルックアップテーブルを欺瞞してピンクのグラデーション表現を256階調で実現した前例もある。我々がハードウェアを欺瞞して表現を獲得するのも可能なはずだ。」
「危険です!万が一フィルターの拘束具が破損した場合、ムーブメントに壊滅的な被害が…」
「責任は私が取る!レンズ前にフィルターをねじ込んでやれ!!」
と言うような会話があったかどうかはさだかではないが。

要はアニメーション撮影の方法を応用してみようと言うことの提案だ。
昔の経験というのはひょんなことで役に立つ(事もある)
フィルムレコーダーのフラットな画面を撮影するレンズとフィルムを駆動するムーブメントのアパーチャーの間には僅かに物理的に隙間が開いている。
そこに、フィルターを挟む器具(自作)を取り付け、下絵と芯とボケと3重撮りする作戦が発動した。

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フィルムレコダーイメージ



○ハードウェアを欺瞞せよ‼︎


まず、フィルムレコーダーが巻き戻しできるかを探る。コレができなければ最初から作戦は頓挫するが、なんとか方法を見つけ出せた。
フィルムの巻き戻し時のレジストリ(ガタ)も許容範囲内でほとんどない。
(もちろん余分に戻してから定位置まで送ってバックラッシュを吸収している)

 そしてレンズ前にかますフィルターの選定。
シャ(小型紗幕)にするのか、フィルム状のパラフィルターにするのか、
ハード(ガラス製)
にするのか?
実験の結果ハードフィルターが良好な結果をもたらした。
お~滲んでいる、光っている〜う!!(全員
六本木の専門店まで歩いて買いに行った甲斐はあった。(誰かは車で来ていたが@@)
濃度違いのディフュージョンフィルター(※1)を数種類購入した。

うまく行きそうな予感を感じつつアニメーションチームが苦労してレンダリングした素材を撮影していく。

が!
「下絵と光の素材にズレが生じています!
端に行くほどそれが顕著になっていきます。」
担当者が試写の結果を報告する。
「馬鹿な!論理的には問題ないはずだ!確認したまえ!」
「素材は確認しました。問題ありません!トリプルチエックしてますが、
何度やってもマスクのズレが直りません!!」
まじでオペレーション担当していたO田氏は叫んでいた。
「確認しろ!徹底的にだ!」
魔王との怒号がマシンルームに響く。
担当くんが泣きながらテストを繰り返すが、うまくいかない。締め切りは迫る。

ところが、トラブルはあっさり解消する。
「下絵撮るとき、ダミーフィルター入れてんの?」
「あ゛…(全員」
ディフュージョンフィルターを入れる事で光にグラデーションを与えている。
つまりハードフィルターゆえガラスの厚みで屈折率が変わってしまっているのである。
トラブルは先入観と固定概念が座布団ひいて待っているというのがよく分かった。
これまでの撮影では下絵の場合フィルターを使わないため、そのやり方が通常の撮影手順だったのだ。
本来は下絵の撮影の際も屈折率を合わせるた、効果のないダミーのフィルターを装着する必要があった。再度テスト、見事に光は合致した!

「直ちに、全力を持って撮影始め!、まくるぞ!」

魔王さんがイマジカのタイミング担当さんと出した最適解のデーターでテスト本番を開始。なんとかチェックに間に合わせる。

監督試写の本チェック、そこでの監督よりの一言「光っている」に救われた人間が複数人いたのは真実である。

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だが彼らを次の試練が、トグロを巻いて待っていた。
フルCGエンディングである。

EOF_2021.4.28 Mission03へ続く


PS:このシークエンス、前回の綾波10000人に続いてオブジェクトが半端ない数登場する。十字アニメーション担当した○方氏と輝粒の奔流と格闘した○林氏の創意と工夫を忘れてはいけない。ありがとう、お疲れ様でした。

スタッフロール

※1:【ディフュージョンフィルター】撮影時フィルターを通して光を拡散させ、滲みの効果を与えるフィルター、濃度の違うものがあり、望む効果によって使い分ける。



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