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#017 心が意識を追い越すとき

高校生になり、行動範囲の広がった息子。
自分の生活圏外にある公園で友達と会う約束をした息子。
 
ルートを知りたいというので、自転車でナビゲートした帰り道。
イヤホンから流れてきた音声に身体が突如反応した。意識よりも先に。



ある夜、一人暮らしをしていたぼくのところに母が電話をしてきた。
出かける予定だったぼくは早く電話を切りたくて、話し続ける彼女に向かって
「うっせぇな」
と言って受話器を置いた。
その数時間後、彼女は他界した。事故だった。
ぼくが19歳の時、1月のいちばん寒い夜だった。
 

「うっせぇな」が最後の言葉だったんだよね
こう振り返るぼくの心は、ぼくの意識になかなか収まろうとしなかった。
悲しみと、悔しみと、苦しさと。
およそ自分が思いつく限りの心の状態を通り抜けた。

あれから数十年が経つ。
いまでは、笑って振り返ることができる。
母の死は、ぼくの意識下に収まっている。
そんなぼくの耳にながれてきた音声

  

「俺の靴どこ」が最後の言葉って お母さんは折れそうに笑って
 

 
伴風香さんという方の言葉だそうだ。
ぼくの心は、あのときのように意識を追い越した

ナビゲートして別れる時、息子はぼそっと「ありがとう」と言った
明日は、雪が降るそうだ。

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