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名大生が企画した「障がいがあるから」ではなく「感性や個性を感じてほしい」展覧会。

 名古屋大学教養教育院プロジェクトギャラリー「clas」で10月17日から始まった企画展「interact」。「既存の美術に影響されていない芸術」をテーマに展示された絵画や制作物が、鮮明な個性を放っています。これらの作品がどうして心をひきつけるのか――。技術、技法ではなく「ただ純粋に、表現したいものを表現した」その1点が凝縮された作品だからだと気付かされます。

常識や伝統にとらわれない感性、個性、意外性

 テーマは「アール・ブリュット」。フランス語で「既存の美術に影響されていない芸術」を意味します。美術、芸術の教育を受けていない人が、伝統や常識、流行にしばられず思いのまま表現した作品を集めた展覧会です。

多種多様な生き物たちを細部まで描いた緻密さに目を見張ります

 出品者は愛知県内で制作活動に取り組む8人。皆、障がいのある人たちです。ラップのロール芯に描かれた絵は、作者が言葉の代わりに自分の気持ちを表現したもの。家族と過ごした楽しいひと時がよみがえります。色紙とセロハンテープで作った「きかんしゃトーマス」は、フリーハンドで毎日1時間かけて1作品を作る“日課”。3匹の豚をパステル調に描いた作品は、輪郭を線で描いて絵を細かく仕切り、仕切られた中を同じ色で塗りつぶすのがこだわりです。

学芸員を目指す学生が自主企画展に挑戦

 企画運営するのは、「clas」の運営に携わる名大人文学研究科の学生3人と担当事務スタッフ1人。学芸員を目指す3人が「展覧会を自ら開いてみたい」と、事務スタッフに相談したのが始まりでした。
 準備期間は実に4か月ほど。力を入れたのがコンセプトづくりです。「そもそもアートって何だろう?」「地球上で唯一、芸術表現をする人間って何?」「展覧会を名大で開くという意味は?」――。意見交換を重ねて決定したのが、アール・ブリュット作品の展覧会でした。白鞘南海さん(修士課程2年)は「展覧会のネーミングに2か月かかりました(笑)」と振り返ります。

企画した人文学研究科の3人と事務スタッフの榊原民恵さん(右)
様々な視点から意見を出し合ってコンセプトを絞り込みました

 今夏、作品の制作現場を訪ねたメンバーたち。そこで出会ったのが、制作活動に没頭する障がいのある人たちでした。自身を作家だと思っているのではなく、思うがままに絵を描き、好きなものを作っている姿を目の当たりにした川澄祥さん(修士課程2年)は「明るい雰囲気で私たちを温かく迎えてくれて、みんなが良い作品を作ろうとしているひたむきな姿に心を揺さぶられました」。

展覧会スタート前夜、展示準備に没頭する4人

作品を見て、何かを感じることで自身の個性を自覚

 展覧会名は「interact ―あなたにもある わたしにもある―」。interactは「相互作用」を意味する言葉。作者の個性や思いを受け取った鑑賞者が、自身の個性や思いについても感じてもらえるような、「相互作用」のある展示を目指しました。竹内万智さん(修士課程2年)は「作品の魅力を純粋に伝えたいです。アール・ブリュットという枠にとらわれず、多様な感じ方で作品と向き合っていただければうれしいです」と思いを込めます。
 鑑賞者が、作者の個性と自身の個性それぞれを認め合う機会となることを願った展覧会。川澄さんは「障がいのある人だから作品に個性があるという見方でなく、純粋な表現や個性を感じてもらえれば」と話します。

ロール芯に描かれた、楽しい思い出。作品に上下はなく描き始める場所もバラバラ
展示作業を終えてひと段落。作品の選定をサポートした(一社)ワンダーハートの永山雅美さん(右)も協力

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