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羽音の音色を聞き分ける蚊の繁殖戦略

じとじと暑い日が続きます🥴。ぷ~~~ん・・・聞きなれた羽音です😖思わずパチン!と叩きたくなる羽音の主は、夏の風物詩でもある「蚊」です。平安時代の清少納言が「にくきもの」と嫌った蚊は、何のために血を吸うのか、皆様ご存じですか?実は、メスが子供を産むために吸血するのです。配偶行動をした後のメスしか吸血しないとな・・・その配偶行動の為にオスが同種メスを見つける手段は実は、「音」なんですって😲!

蚊の耳は、音受容器であるFlagella(触角先端のふさふさした毛)で振動を感知し、それを音感覚器であるジョンストン器官(ふさふさした毛の根本部分)で受容し、神経活動が起こって脳に伝え、音として認識するそうです。

羽音で聞き分けている蚊の配偶を理解できれば、蚊の繁殖を制御できるのでは?と考えて研究を進めているのが、名古屋大学の上川内かみこうちあづささん(理学研究科 教授/トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM))です。今回は上川内さんとMatthew Paul Suマシュー ポール スーさん(理学研究科 特任助教)に最新の研究成果についてお話を伺いました。

写真(左):上川内かみこうちあづささん(理学研究科 教授/トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM))
写真(右):Matthew Paul Suマシュー ポール スー(理学研究科 特任助教)さん

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── 羽音でオスはメスを判別できているのですか?

(上川内さん)種によっても、雌雄によっても羽音が違うことは過去の研究で分かっていたのですが、今回それをちゃんと確かめ、羽音を受け取るオスの聴覚のシステムが異なることを明らかにしました。これが今回の1つ目の発見です😊。メスの蚊の羽音の周波数の音を流すと、オスが近づいてきますよ。そこにトラップを仕掛ければ、一網打尽です。

── Mosquitoes are attracted to the simple sound of machinery... This is amazing...😲

(上川内さん)面白いですよね。機械から音を流しているだけで、メスだと思って寄ってくるのですよ。
(マシューさん)Yes. When a female occasionally enters a swarm of males, all the males detect her sound and approach her. However, only one male is able to mate with her.
(上川内さん)そうそう。訳しますね。蚊柱ってあるじゃないですか、あれはオスばかりが群がっているのですが、メスが蚊柱に入ってくるとその音を聞きつけて近づいたたった1匹が交尾ができるんです。自分と同じ種のメスの羽音を聞き分けないことには交尾ができないのですよ。

── 蚊の「耳」って、スゴイのですね・・・

(上川内さん)そうなのです。そして、もう一つ今回の研究で分かったことは、オスは自身の羽音とメスの羽音を聞き、耳の中で「ひずみ成分」と呼ばれる別の音を作り出し、それを脳に音として情報を送っていることが分かりました。
(マシューさん)This is a method for testing whether a baby has hearing impairment. All of us, including my son, have undergone this test. Therefore, while "distortion components" may seem abstract and unfamiliar, they are indeed very important for human hearing.
(上川内さん)訳しますね。この歪み成分は新生児の聴覚スクリーニング検査で検査されているものなのです。耳って実は聞くだけではなく、周波数の異なる音をいくつか同時に聞くと、耳の中で別の音が出てくるのです。それを歪み成分と呼んでいます。

──確かにうちの娘も受けました。ヒトと蚊が同じ耳のシステムを持っているとは本当に驚きです!なぜお二人は「蚊」に興味を持たれたのですか?

(マシューさん)Mosquitoes spread highly dangerous diseases. When they bite humans, they transmit highly fatal pathogens, including those causing Zika virus, dengue fever, and malaria.I wold like to prevent this transmission, so I focused on mosquitoes. To achieve this, I am interested in and am researching new ways to control mosquito populations.
(上川内さん)訳しますと、蚊はマラリアなどの病気を媒介することでヒトを最も殺す動物です。一方で薬剤耐性の蚊がマラリア発生地域で増えていることもあり、蚊の生態を理解することができれば、薬以外の方法で蚊の繁殖を制御できるかもしれない、と考えました。

── 薬の耐性ができてくるなんて、蚊の生命力に感服します😖。蚊の聴覚を測定する実験って、どのように行っているのですか?

(上川内さん)蚊は低温状態になると動かなくなるのです。なので、容器に入れて氷に入れ、麻酔代わりとして動きを止めてから顕微鏡下に設置します。設置されている今は、完全に起きていますよ。

蚊の聴覚測定実験現場の風景
顕微鏡の下に、生きたままの蚊がセットされ、右側の機械から音を当て、写真左側の機械で神経活動をリアルタイムに測定し計測されているそうです。この測定装置は上川内さんがドイツで学び、こちらのラボでマシューさんと手作りしたようです。

──こんなに小さな蚊の脳の神経活動を捉えられるとは・・・😖!!スゴイ・・・とても大変な実験系であることがよく分かりました。

(上川内さん)ドイツで研究していた頃と基本的な装置は同じですが、そこから更に改良は加えています。蚊の脳は小さい・・・ですかね。哺乳類が大きすぎます🤭The mosquito's brain is very simple and small, and because it's so small, it's easy to understand its systems.

──蚊の脳は小さいですよ~😲!先生方はとてもミクロな世界を見てらっしゃるのですね。

(マシューさん)Focusing solely on global-scale research can sometimes lead to an overwhelming sense of dissatisfaction, as the scope may be too broad to effectively address the issue. Even if our research were perfectly executed, it might not fully prevent diseases transmitted by mosquitoes. Conversely, while satisfactory fundamental research is essential, it may still fall short on its own. Fundamental research can sometimes be too limited. In other words, although satisfactory fundamental research is necessary, it may not be sufficient. A comprehensive perspective is needed for mental satisfaction. Engaging only in small-scale research daily may feel meaningless and disorienting, while focusing solely on a large-scale perspective might feel akin to being lost in a vast ocean. Therefore, both small-scale and large-scale perspectives are required. To combat global diseases, both a broad and detailed understanding are necessary.
(上川内さん)うんうん。ミクロを調べるベーシックサイエンスは知的好奇心を満足させてくれて面白いんだけど、やっぱり世界をどう変えるのか、世界貢献も同時に見ていく必要があって。両方を考えて研究を進めていきたいとマシューは言っています。

── 基礎研究から、研究成果の社会への貢献までしっかりと考えていらっしゃるのですね!上川内さんは今回の発見をどのようにお考えですか?

(上川内さん)蚊で多くの方が亡くなっているので、研究で貢献したいと思っています。でも、私は蚊を憎みすぎて絶滅させる、という方法ではなく、地球全体の生態系のバランスを考える戦略でうまく棲み分ける方法を見出して、生き物全てに貢献したいと思っています。

── 蚊を根絶させるのではなく、蚊との共存方法を探る上川内さんとマシューさん。ヒトと蚊との1000年以上に渡る戦いの終着は、お互いの生きるべき場所を分かち合うことで迎えることができるかもしれませんね。そんなことを考えていたら、蚊に刺されても叩くことができず・・・🥴かゆい・・・

インタビュー・文:坪井知恵


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