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「世界をベクトルで表現したい」──OpenUASが描く都市の新たな姿

名古屋大学の河口研究室株式会社ブログウォッチャーさんが、こんな地図を描けるツールを発表しました↓↓

名古屋市の使われ方を5色で表現した地図です。
https://arxiv.org/pdf/2407.19872内の図を引用)

「あぁ、よくある土地利用マップね」と思うかもしれません。自治体が定めた農地、住宅地、商業地などの区分で色分けされた地図ですね。でもこれは違います。いつ、どこに人がいるかという滞在情報をもとに描かれた地図です。

この少し変わった都市の眺め方を可能にするのが、今回紹介するOpenUASオープン・ユーエーエス(Open Usage of Area with Stay information)。人の滞在情報から、都市の機能や使われ方を捉えるデータセットです。

ブログウォッチャーさんが持つ全国約3000万人のデータを活用するこの取組みの背景にあったのは、GPSデータを十分に活用できていない現状へのもどかしさでした。

「コロナ禍で、特定の場所や時間帯の人の集まり具合を予測する『混雑予測』が注目されました。スマートフォンからGPSデータを集めて統計的に分析するのですが、プライバシーへの配慮から、せっかくのデータをまだ十分に活用しきれていないと思いますね。」

そう話すのは、プロジェクトを率いる河口信夫かわぐち のぶおさん(工学研究科 教授)。人の移動や滞在という貴重な情報を、もっと活用できる仕組みを作りたいとの思いから、 OpenUASオープン・ユーエーエスが生まれたといいます。

河口信夫かわぐち のぶおさん(工学研究科 教授)

OpenUASオープン・ユーエーエスの特徴の一つは、人の滞在情報を「点」ではなく「メッシュ(格子)」で扱う点です。通常、GPSは緯度と経度で位置を特定するため、個人のプライバシーが侵害される恐れがあります。そこで、河口さんたちのグループは、50mまたは250mの正方形のメッシュを地図上に配置し、各区画ごとに、ブログウォッチャーさんのサービス利用者の滞在データを集めました。こうすることで、プライバシーを保護しつつ、データを最大限に活用するのです。

「都市のエリア利用をベクトルで表現しよう、というアプローチを取っています。」

河口さんの言う「ベクトルで表す」とは、情報を数値化して、特徴をわかりやすくすることです。研究グループは、Area2Vecエリア・トゥ・ベックという手法を開発し、エリアの使われ方をベクトル化しました。さらに、アンカリングという手法で、基準ポイントを設定して、データを比較・分析できるようにしました。これにより、都市間や時間軸でエリアを簡単に比べられるようになります。

Area2Vecエリア・トゥ・ベックのしくみ
①入力層: エリアIDと滞在情報をワンホットベクトル(特定のエリアを1、他の全要素を0とするベクトル)として入力。②隠れ層: 滞在パターンが似ているエリアをベクトル空間で近くに配置するよう学習。エリアの特徴が抽出されます。③出力層: 曜日、到着時刻、滞在時間をカテゴリ化し、ワンホットベクトルとして識別。各エリアの滞在パターンの特徴が近似されます。(https://arxiv.org/pdf/2407.19872 https://arxiv.org/pdf/2401.10648内の図を和訳しています)

OpenUASオープン・ユーエーエスで分析すると、街の時系列的な変化がすごくよくわかるんです。5年単位、10年単位で、都市がどう発展したかとか、どう衰退したかとか。」

都市に意味づけができるので、従来の地図より踏み込んだ読み解きができるようになるのですね。例えば新しくショッピングモールを建設した際、その影響が周囲の人々にどれほど及ぶのか、周辺の商店が衰退するリスクはどれほどか、といったインパクト評価も今後の視野に入れているといいます。

どの都市でもどの地域でも分析できるように、OpenUASオープン・ユーエーエスは無料で公開中です。その根底には、河口さんのビッグな野望がありました。

「目指すのは、世の中をベクトルで表現すること。全てを数学的に捉えることです。」

単なるデータ解析ツールにとどまらず、未来の都市のあり方を根本から見直すきっかけになりそうなOpenUASオープン・ユーエーエス。「世の中をベクトルで表現する」という河口さんのビジョンが、都市の変化を新しい視点から理解する道筋を示してくれるかもしれません。

↓インタビューのダイジェストをポッドキャストでもお届けしています。ぜひ番組登録いただき、新着をお受け取りください。

河口さんの授業を受けたいみなさんへ
「工学部で、プログラミングと情報ネットワークの授業を担当しています。コロナ禍を機に、授業は全て河口研チャンネルで公開しているので、誰でも学習できますよ!」

(インタビュー・文:丸山恵)

【研究を深掘り!】

  • 名古屋大学研究成果発信サイト(2024/8/22):日本の都市利用パターンを可視化する新データセット公開~アンカー付きエリア埋め込みデータセット「OpenUAS」~

  • 論文:プレプリントサーバ|arXiv《アーカイブ》にて公開中(査読前の研究論文を迅速に公開し広く共有するためのオンラインプラットフォーム)

  • 河口研究室(名古屋大学 工学部/工学研究科)

  • 河口研チャンネル・Kawaguchi Lab(研究室Youtube)

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