見出し画像

ファクターX、腸内細菌の関与はいかに!? 【38】

アジアでコロナが少ない謎。ファクターXは腸内細菌なのでしょうか!?
新型コロナウイルス感染症と腸内細菌の関係についての研究をご紹介します。

↓音声でもお届けしています♪

いまだ収束が見えない新型コロナウイルス感染症ですが、世界の国々と比べると、日本の感染者数はぐんと少ないですね。日本を含めアジアの感染率や死亡率が欧米より低いことは少し謎めいていますが、要因として遺伝子配列の違いやワクチン接種率、生活習慣の違いなどが挙げられてきました。実は、最近話題の腸内細菌の関与に注目する研究者もいます。

名古屋大学 医学研究科の平山正昭ひらやままさあき准教授もその一人です。この研究を行った背景について、次のように話してくれました。

私は脳神経内科が専門なので、パーキンソン病が、どうして世界で発症率が違うのか疑問に思っていました。また、潰瘍性大腸炎や多発性硬化症など、欧米で多かった疾患が日本でも多くなっています。逆に、日本人が欧米で育つと、パーキンソン病が増えることが報告されています。

遺伝子が変わらないのに発症率だけ違うとすれば、環境しかありません。環境で最も大きく違うのは食生活です。この観点から食生活が大きく影響する腸内細菌が疾患の発症や重症化に重要ではないかと思いました。

そこで、平山准教授の研究グループは、10か国、約1000人の健常者のデータを解析したところ、コリンセラ属という種類の腸内細菌の割合が少ないほど、コロナの死亡率が高いことが分かったんです。

ここで少し補足すると、私たちの腸の中には約1000種類、100兆個もの細菌が生息していて、健康に深く関わっていると言われています。免疫力との関連は最近特に注目されていますね。どんな腸内細菌が、どのくらい生息しているかは人によって違います。この違いは、いくつかのタイプに分類できることが分かっていて、その分類のことをエンテロタイプと呼びます。

平山准教授の研究グループが解析した約1000人も、統計的に5つのエンテロタイプに分けることができました。地域やコロナの死亡率との関連を調べると、コリンセラ属が多いタイプは、“アジアの国に多くコロナの死亡率も少ない”ことがわかりました。逆に、コリンセラ属の少ないタイプは、“欧米に多くコロナの死亡率も高い”という結果でした。

コリンセラ属がどんな腸内細菌かというと、胃腸薬としても使われる「ウルソデオキシコール酸」という成分を肝臓で作り出し、消化機能を整えるのに一役買っています。ウルソデオキシコール酸には、新型コロナウイルスが細胞と結合するのを防ぐ働きや炎症を抑える働き、呼吸不全を解消する働きもあるそうです。コロナの感染予防や症状の緩和に役立つかもしれないということですね。

平山准教授から、今回の成果と研究の今後についてのコメントをいただきました。

腸内細菌の世界も、現在は遺伝子の解析が中心です。遺伝子は、DNA配列というデジタルな世界ですから、世界が共同してデータを共有すればそのデータを使って小さな研究室でもビッグデータの解析ができると思い、情報科学の手法を用いて解析したのが今回の成果です。

あくまでも仮説です。しかしこの仮説をもとにして新しい薬剤開発などが進めばいいかと思っています。現在、新型コロナウイルス感染症患者の腸内細菌や代謝物を調べて、今回の結果が正しいかどうかの研究に取り掛かったところです。

詳しくは、2021年11月25日発表のプレスリリースもご覧ください!

制作協力:髙山楓菜たかやまふうな(名古屋大学理学部3年)

ベーシック線

◯関連リンク

 ・平山研究室HP(名古屋大学医学部保健学科神経生理研究室)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?