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61. 「入浴で脂肪が落ちる」 皮膚時計が関与

お風呂のダイエット効果というと、体温が上がって、汗をかいて、代謝がよくなるから…そういったイメージを持たれるかもしれません。でも実は…

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でも実は、皮膚にある体内時計が関与しているようだ…、自身の実験データからそう話すのは、生命農学研究科の小田裕昭おだひろあき准教授。運営する栄養生化学研究室は、名古屋大学では少ない栄養学を専門にする研究室で、時間栄養学などを専門に研究を行っています。

今回の実験では、脂質が多めのエサを食べて太ったラットを、1日10分、 10日間連続で入浴させました。湯温は、40℃と42℃の2パターンです。その結果、入浴したラットの鼠径部そけいぶ(後ろ足の付け根のお尻の部分)に変化がありました。

入浴したラットは、鼠径部の皮下脂肪の脂肪細胞が小さくなり、脂肪量が減ったのです。この変化は、42℃のお湯につかったラットでより強く現れました。

鼠径部の脂肪細胞を顕微鏡で見比べると…

皮下脂肪は、お腹まわりに多い内臓脂肪に比べて減りにくいので、小田准教授もこの結果に驚いたそうです。

単に代謝が上がったゆえの結果なのでしょうか?
実は、代謝が上がる、つまり脂肪が燃焼したから脂肪が減ったのではなく、脂肪の合成が抑えられた結果でした。

小田准教授が考える理由は、皮膚時計のリセット。皮膚を含め体のあらゆる臓器は、それぞれの細胞が時計を持っています。でも、みんな一緒にリズムを刻むのではなく、だんだんバラバラに動き始めます。そこに、入浴という温度刺激を与えると、皮膚のそれぞれの細胞の時計がリセットされ、一緒にリズムを刻み始める、そして何らかの形で脂肪組織に情報が伝わって脂質の合成を抑制……そんなメカニズムが、皮膚細胞の時計遺伝子の解析結果から見えてきたといいます。

日々の習慣に、科学的に説明できる効果があるかもしれないとは興味深いです。ただ、この結果は、謎の解明へのほんの入口にすぎません。

「今後、温度刺激がどうやって細胞に伝わったかを調べ、そしてそれを食事でコントロールできないかと考えていきたいと思っています。腸内細菌の関与も見ているところです(小田准教授)。」

ところで、体内時計と健康というトピックで「皮膚」というのは少し意外な感じがしませんか?

「健康な人にとって『健康にいい』はあまりモチベーションにならないんですね。むしろ、例えば肌の状態がいい方が人を幸せにするのではないでしょうか。皮膚は他の多くの臓器と違い、体の外側にあっていつも見えていますし、皮膚が体の中の状態を映す窓の代わりになるかもしれません。そこで、皮膚の時計を見ようということになりました(小田准教授)。」

脂肪組織での脂肪の減少に加え、皮膚の保水性や柔軟性も高まったことを示すデータも得られたとのこと。入浴が体内時計を通じて体にもたらす作用のメカニズムが科学的に解明されれば、いつ何度のお風呂にどのくらい入るといいのか、といったことも見えてくるのかもしれません。

今回ご紹介したのは、第76回日本栄養・食糧学会大会(2022/6/10-12開催)で発表された研究成果です。小田准教授が最近報告した、「朝食を食べると体内時計がリセットされて脂肪が減る」という研究成果もぜひチェックしてみてください。

(画像提供:小田裕昭准教授/文:丸山恵)

◯関連リンク
小田裕昭准教授HP


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