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森林火災が北極を温暖化!? 【37】

北極で加速する温暖化に、遠く離れた森林火災が影響しています。
航空機を使ったユニークなアプローチで、その影響を探る国際研究を紹介します。

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日本でも温暖化の影響を様々な場面で感じますが、はるか遠い北極では、平均気温が地球全体の平均の約2倍の速さで上昇しています。温暖化の主な要因が二酸化炭素だということはよく知られていますね。

温暖化を加速させる要因は他にもあります。その一つが、「黒色炭素エアロゾル」です。「ブラックカーボン」とも呼ばれる細かい粒子です。ブラックカーボンは、太陽の光を吸収し、大気を温めます。雪の上に付着すれば、雪は溶けやすくなります。

ブラックカーボンは、人が石油や石炭などの化石燃料を使うことで発生するものと、森林火災などで発生するものがあります。森林火災といえば、2019年のアマゾンの火災や、2019年から2020年にかけてのオーストラリアの森林火災が、ニュースでも大きく取り上げられました。コアラなど多くの野生動物が犠牲になり、衝撃が走りました。さらに驚くことに、このように発生したブラックカーボンが、北極に行き着き、温暖化を加速させています。

人が原因のブラックカーボンと森林火災が原因のブラックカーボン、それぞれどのくらい北極の温暖化に影響しているか、気になるところです。実は、地球全体の気候を再現する数値モデルで予測できます。地域にもよりますが、2000年の世界平均では人由来のものと森林火災由来のものが6対4の割合と報告されています。

気候の数値モデルは、真鍋淑朗まなべしゅくろう博士のノーベル賞受賞でも話題になったように、気候にまつわる問題解決になくてはならないものです。ただ、ブラックカーボンの予測モデルには、不確実なところもあるそうです。そこで、名古屋大学 宇宙地球環境研究所が参加する国際研究グループが、その精度の検証を行いました。

そのアプローチは、スケールがとても大きくユニークです。なんと、航空機を使って、北極域の高度5kmまでのブラックカーボンの濃度を測ったそうです。グループが観測を行ったのは、2018年の春。それより前の約8年間にも、同じく春に別の研究グループが3回観測を行っています。これらを総合的に評価すると、現状の数値モデルは、森林火災由来のブラックカーボンを少なく見積っていることがわかりました。

人工衛星が観測した森林火災のデータも解析すると、さらに詳しく見えてきました。森林火災が多い年は、北極のブラックカーボン濃度も高かったのです。特に、緯度が30度から60度に位置するエリアで発生する森林火災が、大きく影響しているそうです。

研究を行った大畑祥おおはたしょう助教からのコメントです。

森林火災によるブラックカーボンの排出量は、地球温暖化が進むにつれて様々な地域で増加する可能性があります。ブラックカーボンの気候への影響を正確に推定するため、観測と数値モデルの改良を継続していくことが重要です。

詳しくは、2021年11月5日発表の名古屋大学研究プレスリリースもご覧ください。

制作協力:堀内愛歩ほりうちなるほ(経済学研究科修士1年)

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◯関連リンク

 ・大気化学研究室(名古屋大学 宇宙地球環境研究所)

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