日本の物価安定、ずっと続く? 【23】
今回は、日本の物価や金利のメカニズムについて、経済学の研究をご紹介します。
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物の値段、いわゆる「物価」がどのように決定されているのかご存知ですか?
物価の決定には、需要と供給のバランス、生産コストの増減など、様々な要因がありますが、「お金の発行される量」や「国の借金である国債の量」にも左右されると言われています。
「お金の発行される量」が増えればお金の価値が下がり物価が上がる、「国債の量」が増えればお金を発行している国に対する信頼が落ち、その分物価が上がるということですね。でも、この二つの考え方では、「お金も国債も大量発行されている日本において、物価が安定している」という現在の状況を上手く説明することができません。
そこで登場するのが、今回の研究で打ち出された新しい物価理論です。新しい物価理論では、長期金利や短期金利がゼロ%まで低下すると、お金に対する需要が国債をも吸収し、物価が依然として安定すると考えられています。
それでは、旺盛な貨幣需要は、このまま大量の国債を吸収し続けることができるのでしょうか? 今回の研究は、敗戦直後の日本経済のデータを踏まえて、貨幣需要の将来について、4つのシナリオを想定しました。
分析の結果、大規模政策で民間の貯蓄が一気に消費されるような事態では、物価高騰が続くハイパーインフレに陥ってしまう可能性が高いことがわかりました。具体的に言えば、大規模な地震などが起こると、物価の上昇が止まらなくなってしまうということです。災害大国で暮らす我々としては、見過ごせない結論ですね。
研究を行った齊藤誠教授から熱い思いの込もったコメントをいただきました。
「物価も安定し、金利も超低水準の凪状態のマクロ経済環境にあって、『国はまだまだ借金できる、国の借金が増え続けても全く気にする必要はない』と財政規律は緩みっぱなしです。しかし、こうした状況は日本経済の体力が極度に弱っていることを反映しています。ですから、こんなマクロ経済環境がこれから四半世紀、半世紀単位でずっと続く方がむしろ大問題なのです。
こうした異例なマクロ経済環境にも、いつか終止符が打たれる瞬間がやってきて、その時に物価高騰、さらにはハイパーインフレ、それを回避するためには、増税や歳出削減と、国民にとって辛い経済政策を実施しなければならなくなります。しかし、それらの荒療治は、日本経済が健全な体を取り戻すために必要な措置なのです。
そうした事態が起きた時に、どのようにすれば社会混乱を最小限にすることができるのかを、現在の平時のうちに一生懸命に考えておくことが、私たちマクロ経済学者の仕事だと思っています。」
詳しくは、2021年7月15日発表の名古屋大学研究プレスリリースもご覧下さい!
制作協力:井田明日香(名古屋大学文学部4年)
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