地点『グッドバイ』観劇

胸の真ん中にある骨をくっと押さえねばならなかった。それは動悸だった。

間隙なく紡がれた一本の舞台に、同じ台詞を繰り返しては止まる機械のようなものが7つあるのに。なな、という数字、数えた覚えもないのにきちんとあっていた。

グッ ド バーイ! 爽快なバー イ。認識とか理解を差しはさむ余地なんてない。受け止めて、受け止めて、受け止めるより他にまったくない。音楽が途切れれば、こと切れた人形のように台詞は落ち、また始まる。

**一人が一人であるなんて誰が決めたことなのか? **

ベストを着た男、くのいち風の衣装の女、ひとつ纏めに結わえただらしのない色気をはらむ 男、着物の女、レース編みのドレスの少女、学生服の男子、着物の老人。
鮮やかな登場にはっときらめきを感じる心。

それぞれの身体に宿っているのは一つのもので、一番下っ端に見える学生服の男子が終幕の折にみせたはしゃぎっぷりくらいが、個体差だった。

脳がすこし痛い。飽和。 劇の前に入った喫茶店の珈琲は少し苦くて、器の小さいのに並々2杯入れて溶け残った
砂糖。飽和。

繰り返された言葉さえ、焼け付くのでもなく溶け落ちてしまう。グッ・ドッ・バーイのあいだ、時折の台詞は文字の乗る本を思い浮かばせていく。

アトラクションパークの、豪胆に笑っては動きを止める、を繰り返すものを思い出した。

眼はひらいている、指はキーボードを打っている。でも脳は何かに中てられたみたいに、ぱんぱんのところから無理やり引き出してきているのがこの言葉たち。
それは、別にカフェで久々に飲んだアルコールの作用ってことでも全然ないだろう。

ぽちっとリモコンのボタンを押したのち、ゆっくりと黒に向かうライトみたいな暗転は眠りに落ちる時にそっくりだけど、あるいは死にそっくりなのかもしれない。

でもこの空気になにかある。この空間になにかある。この脳の感覚になにかある。ぐわんぐわんと押し寄せたそれらのなにかを受け入れきれない脳は一度シャットダウンすら試みる。 眠気。それすら多分この幕では必然だと思った。

#観劇 #日記 #地点

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