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秋の夜長にこんな小話を


こんにちは、こんばんは。
たけだです。

夏休みは暇を持て余す予定でしたが、結局何だかんだで忙しい日々を過ごしています。

本日もバイトをしながら、窓から差してくる陽の光を浴びていました。柔らか〜〜な陽光。
ちゃんとお仕事もしましたわよ。

起きた時は空一面を雲が覆っていたはずなのに、見ないうちに徐々に雲がほどけていました。

床へ落ちる影の輪郭が濃くなっていく様子を見て、秋めいた午前中をぼーっと過ごしておりました。

春は嗅覚
夏は触覚
秋は味覚
冬は聴覚

私はこんな感じで通年、五感を刺激されながら生きています。 

今日はもうこんな時間だけど、秋の夜長に少しだけ季節に関する小話を。

春は嗅覚

春は独特な匂いがしますね。
甘ったるい匂い、明け始めた空、白い残月。
歯痒い別れと淡い期待。
これから始まるんだ、という高揚感。
どことなく浮ついて、祭囃子に向かって足を進めるみたい。

お腹一杯に空気を吸い込むと、流れてくる桜の匂い、土の匂い。ずん、と重い。生命の匂い。

新しい香水の匂い、新しいお洋服の匂い。
ふわっと、ときめく出会いの匂い。

春はときめく匂いに満ちていて、それでいて、ほんの一瞬で過ぎ去ってしまう。儚くて脆い。
春眠不覺曉
微睡んで溶けていく春の昼下がり。寝坊上等。
思い出せない夢の記憶、全ての原点。

春は嗅覚で思い出す。春は素敵な匂いがします。

夏は触覚

春から夏になりました。アスファルトが灼ける匂い、雨の匂い、線香の匂い。そんな匂いもあるけれど、私は夏を触覚で楽しみます。

夏の光は強い。肌を灼くような、刺すような光。夏は暑い。背中を汗が伝う感覚、目の奥の蜃気楼、荒い息遣い、長い夕方。湿度の高い心。浮ついた爪先。少し遅い帰り。祭囃子はもう耳元。

夏の盛り、世界が青く染まって見えた。

影に入ると、どこからともなく風が吹いてくる。汗もすっと引いていく。心がすっと溶けていく。
風になびかれる髪、紫陽花が魅せる涼やかな頷き。軽やかな風鈴、壊れかけの扇風機。
夏の記憶、青くて若くて恥ずかしい私たち。
愛おしい、後戻りのできない季節。

季節は脈を打って、足止まる私を追い越していく。気付いた頃には、秋がぽっかりと口を開けて待っている。
私は今その玄関口にいる。

刺すような光が、ほんの少し柔らかくなった。
家を出て、照りつける地面に目が眩むこともなくなった。あんなに少なかった荷物の中に、羽織を一枚忍ばせるようになった。
夜は、相変わらず星の海だ。

全てを肌で感じる。暑さも光の柔らかさも、恋しい人肌も、暑苦しい夏休みも。祭囃子を背中に、私は帰路に着く。
過ぎていった今年の夏も、私はきっと肌で思い出す。


秋は味覚

秋は何だかカラフルだ。聞こえてくる音も、見える景色も、匂いも。そして今日の夕飯も。
栗ごはん、美味しい。柿と梨、今年も沢山。

お母さんが握ってくれた炊き込みごはんのおむすび。甘いお米。一人で、もぐもぐ。
今日、悲しいことがあってね。悔しいことがあってね。どうしようもないことがあってね。

もう大人になってしまったから、誰にも弱音は吐かないけれど、甘いお米にだけは、なぜか心の底から安心してしまう。

泣きながら食べたごはんの味、何であんなに覚えているのだろう。

張り詰めた、今日一日を頑張った私。その緊張の糸を、ぷつんと切られる。噛んだ瞬間、口の中がほわっと温かい瞬間。
あのね、ほんとは私、頑張ったの。
ほんとは少しだけ寂しくて、悲しかったの。

素直になれる。

泣きながらごはんを食べたことのある人は生きていける。大好きなドラマの台詞。再放送はいつかしら。秋の夜長に夜更かししよう。

温かい記憶、私は味覚で秋を乗り超える。


冬は聴覚

祭囃子も、もう聴こえなくなりました。
マフラーに顔をうずくめて歩く。一人の帰り道。イヤフォンから流れる私の好きな歌。
私を、とっておきの私にしてくれる歌。 
この瞬間だけ、ヒロインになれる歌。
だけど、今日だけはその音楽をそっとオフにして、少しだけ遠回りして帰る。
冬の音は、どんな音だろう。

耳の近くを切るように去っていく夜風。
冷え切ったカイロ、猫背気味のコート、無人駅に響く私の足音。揺れる街灯の光、砂利を踏む私のスニーカー。耳元で聴こえる鼓動。振るえる携帯。期待はずれの着信。
鼻の先、冷たい。突っ込んだポケットは少しだけ温かい。

冬は静かだと思う。特に夜なんて、私に何も言ってくれない。
お疲れ様、よく頑張ったね、今日はどんな一日だった?
それくらい聞いてくれてもいいのに。

凍りそうなまつ毛、かじかんだ指先。急ぎ足。
誰かにじっと見つめられている気がして、見上げた夜空。星、星、星。神様が飾り付けた星。
赤、白、オレンジ、青っぽいのもある。あの頃、指先で繋いだ星座。一晩じゃ数え切れなかった。

星が瞬くってどんな感じ?こんな感じ。
よく見たらチカチカ、パチパチしていて、なるほどほんとに人の目みたい。これが、瞬く。

ぼーっと見ていたら何だかどんどん近付いてきそう。宇宙から地球を侵略するためにやって来る。逃げなきゃ。

静かな夜に、私の空想は騒がしい。
また携帯が振るえる。耳に当てると、あら、耳がすごく冷たい。お母さん、うん、もう帰るよ。
帰ったらすぐにごはん食べるよ。

冬は静かだと思う。夜は長いし、駅からの帰り道がとんでもなく遠くなった気分。

街灯が赤褐色の灯りを地面に落としている。
その光の雨に降られながら思うよ。
辺り一面、静まり返ってこの世界に私一人だけみたい。静かな夜だ、静かな冬だ、静かな世界だ。

でも、静かだから初めて世界の音が聴こえた気がする。
春を待ち遠しく思う生命の声が、地面の下から聴こえる気がする。耳を裂くような風の音、細い雨の音、霧がすっと晴れていく音。こんな小さな音が遠くまで聞こえる。
脈打つような地球の音。世界の鼓動。

冬は確かに静かだと思うよ。
耳を澄ませることがなければ。
私は聴覚で冬を知る。


季節が移ろう気配がして、慌ててアンテナを張りました。もう、夏も終わってしまうのですね。
季節と共に生きている私の独り言。
長くなってしまったけど。
そうして次は、私の大好きな秋がやってくる。
わくわくしております。
8月もお疲れ様でした。
皆さま、9月もよろしくお願い致します。

今日も独り言にお付き合いいただき、ありがとうございました。
素敵な一日をお過ごしください。

では、またね(^-^)

たけだ


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