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檸檬を浮かべた瞬間にどんな飲み物も洒落て見える不思議

梶井基次郎の小説「檸檬」を読んだ。

初見では意味がよく分からなかった。

ストーリー性に富んだ物語をよく読んできた自分にはとてつもなく新鮮で物珍しい物語に思えた。

久しぶりだ。
久しぶりにワクワクした。

私は好きな言葉を見つけたら所構わず線を引く。

でも今回は
あまりにも夢中になりすぎて
目の前で展開していく場面が美し過ぎて

その手が止まった。

小説とは一種の疑似体験。
自分がまるでその物語の中に紛れ込んでいるかのような、そんな体験をもたらす魔法。

素敵な本は人にそんな魔法をかける。

硝子の香水瓶
びいどろ
おはじき
驟雨
絢爛
八百屋
青物
そして、檸檬

誰にとらわれることもなく、鮮彩な世界を欲しいがまま。
自分だけのものにしている。

こういう本を読んだ時大抵

「ずるい」

と思う。

長らくその感情の正体が分からなかったが、最近になってようやく気づいたことがある。

私はこの時間がとても好きだ。

本を読んだ後のこの時間が、好きだ。

まずは胸いっぱいに広がる幸福感。
一時を占拠するこの幸福感。
その後に潮の満ち干きのようにやってくる虚無感。
やるせなさ。

耳が異常に冴えてきて、秒針の音、服の摺れる音。
何なら空気が流れる音。

そんなものが一気に私をこちらの世界に引き戻す。

口の中には甘い味。
咀嚼しても飲み込めない程の甘くて喉を詰まる味。
幸せの味。

ほんの少し掌の汗。

深く息を吐き、天井を仰ぐ。

ずるい。
こんな話を書いてしまうなんて。

次に押し寄せてくるのがこの感情。

心のどこかで負けてしまったような気がして。

変でしょう?

でもずるいと表現するほか方法がないのです。

私にはこんな話は書けない。

私は負けなのでしょうか。
そう思わずにはいられないほどにこの本は素晴らしかった。

体がじんわり痛くなっているのにも気が付かないほど、夢中になっていた。

きっとこの本を好きになってしまったから。

感情を作者の掌の中で弄ばれた気がしたから。

私の憧れる物書きは、この本のように人の感情を動かせるものを書ける人だから。

負けたわけじゃない。
私もこうなりたいという強い憧れ。

幸せな時間とともに流れる静寂。
もくもくと私の中に立ち込める情景。

とっても素敵。

星の見えない都会の街をホケッとしながら見ている私。
一人ベランダ。
生ぬるい風に頬を撫でられて。
街の匂い。
喧騒が居残る夜十二時。

煌々と私を照らす街の光は私には少し綺麗すぎて。
贅沢すぎて。
そして、幸せすぎた。

そんな余韻を残す本。

すべては作者の思いのままなのでしょう。
ありがとう、こんな素敵な幻想を。


待って、今回すっごい真面目じゃない?

うちの母親はお酒を飲むんです。
琥珀色の背の高いグラス、しゅわしゅわと気取った泡。
ずっと炭酸水を飲んでるんだと思ってました。
昨日、その見慣れたグラスに檸檬が浮いた。
その時初めて気づいた。

それジントニックやったんか!


今日も独り言に付き合って頂きありがとうございます。
素敵な一日をお過ごしください。

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