見出し画像

『落下物』

     キャスト
清水葦江(39):町役場の観光課に勤める
加賀美(66):葦江の上司。章弘とは同期
矢野(25):葦江の後輩。
清水章弘(65):葦江の父。町長
倉持傑(36):釧路方面本部の捜査一課に勤める
佐藤(37):倉持の同期
赤井(52):倉持の直属の上司。捜査一課長
蓬田康煕(31):司法通訳
アン
ツィ
ロック
マヌ
飛行場のおじさん
西岡
女性アナウンサー
火柱八雲

○北海道・厚岸町・山(夜)
アナウンサー(声)「大型で非常に強い台風21号は今夜にかけて道東に上陸の模様です。気象庁は、各所全体に避難警報を出しており、」
加賀美が黒いコートを着て、懐中電灯を持っている
加賀美 木の上に懐中電灯を当て
木に首のない死体にフォーカス

○ニュース
ニュースキャスター「速報です。昨夜9時、北海道厚岸郡に位置する尾幌山で、首から上がない状態の遺体が発見されました。遺体は昨夜から未明にかけて通過した台風21号の影響で空から降ってきたものであると見られています」

○捜査会議・中
赤井「昨夜、死亡したガイ者について」
佐藤「はい、ガイ者は昨日、大きな物音が裏山から聞こえてきたと証言している地元住人の男性により発見され、貯水池の確認のために向かった時間と男性が発見するに至った30分の間。およそ、8時半から9時にかけて死亡しているものだと考えられます。おそらく死因は木の貫通による失血死によるものと」

○体育館・中
葦江「昨日地響きがなったと思ったら隣に寝てる親父のいびきコイでそれで目が覚めて朝まで眠れずオッチャンコでカッチャイテやろうかとンニャンニャ。シタッケこのジジイはオダッテルカらアカマルカッチャギカイカイになってゲッパにゲンゴしようってわけさ。シタッケタクランケゲッパにジョンバにハタク。アズマシイデナイ態度もチョスな訳よ。シタッケ・・・ンニャンニャハンカクサイハンカクサイ。カゼルこともねエベに。ん?何ね」

○捜査会議・中
佐藤「今日付けで司法解剖に回される予定ですが、科捜研での検査も念頭に置いていた方が良さそうですね。」
赤井「事件現場で何か変わったものは」
佐藤「木に引っかかっていたロープがありました」
赤井「何だ、ロープか、」
佐藤「お手元の方に」
赤井「ふん(あまり興味なさそうに)・・・」
赤井 ロープを見る
ロープが首を吊るときのような形状になっている
赤井「ロープねえ」(少し興味をもち)
佐藤「ガイ者に刺さっていた木の方ですが、」
赤井「うん」(気を取り直す)
佐藤「直径8cmの白樺で、ガイ者の下腹部から鼠蹊部にかけて貫通しています」
赤井「鼠蹊部?」
佐藤「つまり・・・人間の股関節です」
倉持「大きなアレが勃った死体」
複数の捜査員 笑う
赤井 “静かに”と
赤井「つまり、昨日の台風だったんですよな。落ちてきた原因。」
佐藤「はい」
赤井「じゃあ決まりだな」
佐藤「いえ、まだ死体の所在の方が・・・」
赤井「行方不明者から割り出せば早く片付くだろう」
清川葦江が現れる
赤井「じゃあ、手分けして、ガイ者身元割り出しのため、ここ何週間か捜索届が出されている者の、ガイ者と一致する身長・体重などを調べてくれ」
捜査員 一同ハイ
赤村「解散」

○取調室・中
アンが座っている
蓬田「では、取り調べを行います」

○事件現場周辺
規制テープをくぐる葦江・赤村・倉持
赤井「相変わらず、鼻が効くなーマスコミは」
葦江「あの、何で私なんですか?」
赤井「あっ、ここらはちょっと方言や訛りがきついでしょ」
葦江「あっ、それで・・・この方は?」
葦江 倉持を見る
赤井「あー彼は私と一緒に今回の事件の担当で、釧路方面本部から要請された優秀な捜査員ですよ」
葦江「へー」
赤井「ここら一帯の説明を伺ってもよろしいですか?」
葦江「あーはい。ここは自然が豊かなところでこの山を丁度抜けた先に見えるほら」
一同  前を向く
葦江「綺麗でしょ。ここはタンチョウが巣を作るにくるくらい壮観で端麗な湿原地帯ですよ」
赤井「あの、一面を覆っているものは?」
葦江「あーあれは“アシ”です」
赤井「アシ?」
葦江「自分の名前にもほら」
葦江 自身の名札を見せる
赤井「あ!“考える葦”の」
倉持「へーでっかいさとうきび畑かと思いましたよ」
葦江「ここで昔かくれんぼやっていて迷子になった時、村の人たち総出で探してもらったんですよ」
倉持「へー」

× × ×
規制テープをくぐる3人。
そこに葦江の父・清水昭彦がくる
昭彦「どうですか、自然が豊かなところでしょ。もし泊まれて行かれるのならこちらの方で宿とってありますんで」
葦江「お父さん」
赤井「こりゃどうもありがとうございます」
倉持「ガールズバーは?」
赤井「倉持くん」
昭彦「それでしたらまっすぐ行かれて海岸線沿いに一軒の初老のママがやってるスナックがありますので」
倉持「なんだババアか」
赤井「おい!」
昭彦「まあまあ。この厚岸を楽しんで行ってください」

○ニュース
ニュースキャスター「夕方8時のニュースです。今月の21日に起きた尾幌山で発見された身元不明の遺体について、今もなお身元解析の捜査活動が続いております」

○町役場・中
里田「なんか落ち着かないですね」
加賀美「何が?」
葦江「どうも、戻りました」
里田「あっ、葦江さん」
加賀美「何今戻ったのか」
葦江「ええ」
加賀美「どうせなら、これちょっと手伝ってくれないか」
里田「えー、葦江さんにもこれやらせるんですか」
加賀美「しょうがないだろ、人手が足りなくなってんだから」
葦江「いいですよ、私全然」
加賀美「悪いね(笑)」
里田「じゃあ、お先に」
里田 舞台袖にはける
葦江と加賀美 パンフレットを必死で折っている
葦江 黙ってテレビを見続ける
加賀美「あー、外とか結構いたんじゃない?」
里田 葦江を見て
葦江「まあ」
加賀美「最近。やけに忙しないよね」
葦江「もともと、一報のニュースより前から居ましたもんね」
加賀美「不思議だよね」

○捜査会議
佐藤「札幌の海鮮料理店の料理人、西川健27歳は深夜の1時過ぎに店を出た後、家に帰ってこないのを、同棲している女が心配し、捜索願が出されました。」
赤井「ガイ者とその者との共通点は?」
佐藤「はい、身長・体重が限りなく一致します。」
赤井「ホシは何か誰かに恨まれる様なことは」
佐藤「ホスト上がりで、金に汚く女にふしだらで、ススキノ界隈では何人も女を手篭めにしてたそうです」
赤井「食わせ者だったわけか」

○取調質
倉持「なあ、思い出せ」
倉持 アンを執拗に問い詰めている
倉持「お前にしかわからないんだ。あの日の出来事は」
アン「わからない。わからない」
倉持「日本語喋れるじゃないか。通訳を介さなくても君の口から聞きたい」
蓬田「いい加減にしてください。倉持さん」
倉持「お前しか、あの夜は見てないんだよ」

○捜査会議(戻って)
赤井「とりあえずこの男の公開捜索に踏み切ろう、各位ホシの詳細な情報をマスコミ各社に通達を」
捜査員 一同 ハイ

○同・外
規制線から出てくる倉持に
葦江「あの」
倉持「うん?」
葦江「今捜査ってどれぐらい進んでるんですか?」
倉持「教えられるわけないだろ」
葦江「はあ」
そこに火柱がやってきて
火柱「あの・・・」
葦江「はい?」
火柱「ちょっと取材がてら」
葦江「あっ、どっかで見たこと」

○捜査会議・中
赤井「誰か別のホシの情報は?」
佐藤「ホシは福岡で、生まれた時から母親は死亡していて、父親も行方知れずのまま。父方の祖母に育てられた様です。」
赤井「福岡ならそっちの方でもホストはできただろうに」
佐藤「どうやら、そこでは、中洲一番のキャバ嬢とヤって子供ができたのがバレてそこの界隈では生活できなくなったそうです」
赤井「フフッ(失笑)いわくつきだな。それで?」
佐藤「ホシの祖母なんですが、ホシが19の時に心筋梗塞で死亡しています。それから身寄りはいません。」
赤井「くそっ、ほんとに殺されたのか・・・」

○海鮮料理店・中
西岡「お前さ、これ何回も呼び出されてもなおらんね」
ロック「エ?」
西岡「え?じゃないったい。わかっとっとやお前。何が“え?”や、」
ロック「スミマセン」
西岡「いい加減せんとさ、お前。俺も我慢の限界やけん」
ロック「ハイ」
西岡「あ?」
ロック「ハイ」

○海鮮料理店
倉持「あのさ、ちょっといい?」
外国人「?」
倉持「今店長さんとかいる?」
外国人「店長さんいない」
倉持「後で来るってこと」
外国人「・・・」
倉持「まあ、いいや。20日のさ、夜にいなくなった人のことって覚えてる?」
外国人「・・・」
倉持「ちょうど、この日だったんだよね」
外国人「いなくなった。」
倉持「うん」
外国人「店長」
倉持「あっ、そういや店長さんだよね?西岡さん」
外国人「うん」
倉持「変わったことなかった?」
外国人「消えた」
倉持「西岡さん?」
外国人「・・・うん」
佐藤「ふーん」
外国人「・・・もう行く」
倉持・佐藤 顔を見合わせる

○捜査会議・外
倉持に近づいてくる葦江
葦江「あの」
倉持「何」
葦江「事件のことで聞きたいことがあるんですけど」
倉持「だから、答えられないって」
葦江「そうじゃなくて、今回の事件、台風じゃなくて飛行機かなんかに乗ってたっていう可能性はないですか?」
倉持「えっ?」
葦江「どうやら、今すごい話題になってる超常現象の原因には、大きく五つの可能性があるらしいんですよ。」
倉持「・・・」
葦江「ひとつは錯覚、誰かの勘違い。二つ目は悪戯、誰かが故意にそうしたか、」

○事件現場周辺
火柱「三つ目は、鳥による鳥原因説、四つ目が竜巻を主とした竜巻原因説、そして最後が飛行機原因説。結局のところはこれらに分類されますからね。」
葦江「へえ」
火柱「ところで、この地区に長くから住んでらっしゃいますか?」

○捜査会議・外
葦江「なんとなく気になって、一応刑事さんに言っておこうと思って」
倉持「・・・ねえ、あんたさ、携帯持ってる?」

○ニュース
キャスター「さあ今回ですね、今最も話題の尾幌山の死体遺棄事件。自殺なのか他殺なのか、
その真相はいまだ掴めていない警察ではありますが、巷では多くの憶測または波紋が広がっております。その中で注目されているのが、とある超常現象。その超常現象について、オカルト研究家でもり、文筆家でもあられる火柱八雲先生にきていただきました。火柱先生どうぞよろしくお願いします」
火柱「よろしくお願いします」
キャスター「先生。このファフロッキーズ?というのはどういう現象なのでしょうか」
火柱「はい。このファフロッキーズというのはファフロッキーズ現象とも呼ばれていて“その場にあるはずのないものが空から降ってくる”という現象です。」
キャスター「あるはずのないものとは」
火柱「雨や雪などの天候上良く知られたものではなく、物理的に考えて降ってくるはずのないものを指します」
キャスター「例えば」
火柱「主な例で言うと、8世紀に秋田県のお城に矢尻23枚が降って来ました。また江戸時代の市中には大量の獣毛が。またアメリカのとある州では赤身肉が降って来ました」
キャスター「コレらの話を聞くとこの現象は特に日本に限った話ではないと」
火柱「はい。世界中の地域と年代によって報告されています」
キャスター「それで言うと今回は死体が降って来たと言うことで話題にはなってるんですが、このようなことは火柱さん世界では」
火柱「非常に珍しいとも言えます。ですがロンドン郊外でも首から上のない男性の死体が降って来ました。このような事態が日本でも起きたと言うことを考えれば非常に興味深いことだと思います」
キャスター「わかりました。引き続き火柱先生にはお話を伺っていきたいと思います」

○捜査会議・中・日替わり
倉持「つまり、この時に飛行機は真上を通過していたんです」
赤井「馬鹿か、この日に飛行機なんて飛んでるわけないじゃないか・・・第一この日に飛ばそうなんて思う。おそらくどこの空港も北海道への直行便の飛行機は全便欠便していたはずだ」
佐藤 スマホを耳につけ、振り返り
佐藤「確かにあの日はどこも飛行機は飛ばしていなかったそうです。」
赤井「ほら、みろ」
倉持「北海道への通過便は?」
佐藤「ウラジオストックなどの通過便も一時見合わせとなってる」
倉持「・・・だけど物理的に考えられない(訴える様に)。調べたらあの日の台風の風速は29.5km/sでした。この台風は近年の日本では一般的です。これぐらいだと人は飛びません。」
赤井「ガイ者は身長も小さいし体重も軽いからそれぐらいで飛んだんだろう」
倉持「だけど普通に考えて、体重50前半の男をこれくらいの台風では吹き飛ばすことはできるんでしょうか?。普通に人が浮くとされているのは風速40km /sからです。」
赤井「・・・」
倉持「それに、事件当時の台風の風速では屋根裏の瓦が飛ぶくらいです」
佐藤「飛ぶくらいって言うなよ。家にいた時、ウチに飛んできたらどうしようって思ったくらいなんだから」
倉持「とにかくこの条件では人は愚か、すでに死んでいるものさえも飛ばすことはままならない」
赤井「分かった。だが、この男(ホワイトボードに貼られている西川健の写真を指差し)が見つかるまでは、この男の所在を徹底的に捜索する。いいな」

○海鮮料理店・中
西岡「おい!」
ロックがやってくる
西岡 小鍋をその外国人に見せて
ロック「ハイ」
西岡「お前さ、この鍋全然洗えとらんやろ。みてみお前」(嫌味)
ロック「スミマセン」
西岡「お前この調子やったら、何回も何回もお前を呼び出してさ、こんな風に言いよるけど言ってる俺も、お前も何の生産性もないけんな。わかっとっとお前」
ロック「ハイ」(小)「
西岡「あ?」
ロック「ハイ」(大)
西岡「ハイーやなくてさ、お前さっきからイラついとるやろ」
ロック「イエ」
西岡「俺に恨みでもあるっちゃろ、」
ロック「イエ」
西岡「あ?」
ロック「イエ」
西岡「あん。お前ずーっとその調子やったらなんもできんぞわかっとんのか」

○町役場
倉持「一応、言ってみたよ。昨日のこと」
葦江「そしたら?」
倉持「・・・微妙」
ラジオの音源がなり
キャスター「先月、活汲駐屯地の近くで全身から血を流し、怪我をおった外国籍とみられる男性が倒れているのを通りすがりの男性に発見されました。現在は市内の病院で療養しているようですが、この男性の回復次第、ことの詳細を聞き出していく模様です」

○海鮮料理店・前
雨が降っている
アンがロックをおぶっている
アン 携帯電話を手にとり
アン「早く来て・・・」

○美瑛滑空場
佐藤 お爺さんと話をしている
佐藤「ねえ、わからないかな?」
お爺さん「さあ。ようわからんな」
佐藤「ここにさ、飛行機が寄ったとか聞いてない?」
お爺さん「さあ、ここワシ一人ぐらいしかおらんから」
佐藤「ちょうど、あの台風の日だったの」
お爺さん「うーん・・・」
佐藤「やっぱここには飛行機が来てないのか」
お爺さん「そういや、一人持っていたな」
佐藤「え?」
お爺さん「この人。」
佐藤「誰これ」
お爺さん、佐藤・倉持に写真を見せる
お爺さん「この人くらいだよ。プライベートジェット持っているって言ったら」
佐藤「プライベートジェット」
お爺さん「ほら、昔はお金持ちみんな持ってただろ。だけどバブルがはじけて、でもこの人だけはやけに景気が良くて・・・」
佐藤「お爺さん。その人の飛行機って・・・」
お爺さん 立つ
お爺さん「あれ?」
佐藤に電話がかかってくる
佐藤「はい・・・え?」

○尾幌山・事件周辺現場
赤井「あたり・・」
倉持「出てきたんですか?」
赤井「機体の椅子が出てきた」
汚い椅子を見せる
佐藤「機体は出てこなかったんですかね」
赤井「今時、オホーツクの岩礁だよ」
倉持「海底調査とかしないんですかね」
赤井「バカ!あそこはロシアの海だよ」
倉持 パラシュートの萎んだものを手に取る
赤井「飛行機が不時着する前にパラシュートで脱出したってところが妥当だろ」
倉持「それが、あの死体ですか?」
赤井「わからん」

○パブ・中
マヌ「どう?最近体の調子は」
ツィ「・・・」
マヌ「ツィ?」
ツィ ゆっくりとお腹を触り見る
ツィ「来てない」
マヌ「え?」
ツィ「私に来てない。」
マヌ「・・・」

○捜査会議・中
倉持「つまり、西岡を飛行機から落としたと」
赤井「それか、西岡が乗っていて脱出をしたものの強風に煽られたのかだけど」
佐藤「いずれにしても不審ですね」
赤井「その田村は1ヶ月前に心筋梗塞して死去したと・・・田村どう言う奴なの」
佐藤「ススキノで風俗、セクキャバ、ラウンジなどの店を12軒持ってたらしいです。いずれにしても、業績は好調」
赤井「その、田村と西岡の共通点といえば・・・」
佐藤「まあ、ススキノに西岡が来た時に可愛がっていたことくらいなんじゃないですか」
赤井「中洲を追われた西岡に手を差し伸べた・・・田村の飛行機を使われて西岡が死んだと考える方が妥当だな」
佐藤「西岡が恨まれていたと」
赤井「そう考えるね・・・」
佐藤「・・・後、痴漢電車の店もやってますね、田村」
赤井「えっ?行こうかな」
倉持・佐藤 凝視する
赤井「なんもないよ」

○クラブ・中(夜)
ホステスがいる中で、銚子と清水章弘がお酒を酌み交わしている
加賀美「ところで、どうでした?」
章弘「それがもう大成功ですよ。」
加賀美「どこまで行ったんですか?」
章弘「うーんとですね・・・」
加賀美「お墓はもう買いましたか?」
章弘「え。おかげさまで」
葦江「何のお話をしてるんですか?」
加賀美「え、お父さんから聞いてないの?」
葦江 章弘を眺め
章弘「・・・」
加賀美「“終活”ですよ。“終活”。終わる活動の方の」
葦江「あー。今はやってますもんね。中高年の終活」
加賀美「そう。葦江ちゃん。お父さんたちはもう長くは生きられない。だからと言って若い人たちに迷惑をかけるわけにはいかない。負担を負うのは若い人たちだから。私らは若い人たちにそんな苦労はさせたくない。だから私ら老人っていうのは、もう死ぬことを考えて生きることにしたんだよ」
葦江「そんな。まだまだ生きるでしょ」
加賀美「そんなことないよ。なあ弘ちゃん」
章弘「・・・あっ。えー。そうですね。ほんと安心して死ねますよ」
加賀美「あれだろ。首なし死体。あれは奇跡だったよね。あれが降ってこなかったら財政。まわんなくなってたよ」
章弘「そうですね」
加賀美「なんというか不運というか。あの死体には残念だけど。死んでもらって、弘ちゃんが、街の人たちが苦しまなくて済んだというか、ほら、また道の予算均衡の会で腹下さなくて済むじゃん。なんか天に助けられった感じだよね。ほんと感謝しなきゃだよ。このまま真相解明されないならいいんだけどね。」
葦江「何言ってるんですか」
加賀美「だってそうじゃん。せっかく客が押し寄せてきてるんだからさ」
章弘「・・・」
加賀美「どうすんの。P R。次は首なし饅頭でも作るか。なんちゃって。ハハハハハハ」
加賀美 両隣のホステスを抱き抱えて大喜びする
葦江 辟易する
章弘 神妙な面持ちで
章弘「おい。お前は(葦江の方を向いて)あっちで酒でも作ってろ」
加賀美「いいよ弘ちゃん。そんなことしなくて。向こうはホステスがやってくれてるから」
章弘「昔っからな。女は男に酒を注いで、楽しませてやるのが生業だろ」
加賀美「弘ちゃん。自分の娘だよ。もっと可愛く言ってあげてよ。葦江ちゃんはホステスじゃないでしょ。そんなことやらせなくていいよ。」
章弘「早くやってこーい。」(怒)
葦江「・・・」
加賀美「ねえ。なんか急に怒っちゃって。悪いけど、向こうのほうで休んでていいから。
お酒もさ、向こうのほうで飲んできた方が楽しいと思うから」
葦江「はい・・・」(罰が悪そうに)
加賀美「なんか、ごめんね」
葦江 酒を作っているホステスのもとへくる。
葦江 憤慨する。
お酒を混ぜて、隣のホステスをみて会釈。一気飲みする。

○ススキノ・外(夜)
聞き込みをしていた倉持。
清水葦江が近くに来る
葦江 酔っており、千鳥足
葦江 倉持を発見する
葦江 スリラーのように近づき、倉持に“ワッ”と驚かす
倉持 “ワッ”と驚く
葦江 ケラケラと笑う
倉持 (なんだコイツか)と
葦江「あれれれ?何してるんですか?こんなところで、」(酔)
倉持「あんたには関係ないことだよ」
葦江「独自調査ですか」
倉持「うーうん。」
葦江「フフフフッ」(不気味な笑み)
倉持「なんだよ。気持ち悪っ。・・・あれ、あんたは何してるの?」
葦江「え?わたし。わたしは、なんだったっけ?」
倉持「どうせ、さっきまで飲んでたんだろ?」
葦江「えー。どうだったっけ?」
倉持「もう忘れたのかよ」
葦江「うう・・・あれ、刑事さん。お邪魔だったですかわたし。」
倉持「いや別に・・・」
葦江「これからどちらにいかれるんです?」
倉持「すぐそこだよ。」
葦江「そこ。って?」
倉持「そこはそこだよ」
葦江「フフフフッ」(不気味な笑み)
倉持「なんだよ」
葦江「刑事さん。やっぱりあんたは男なんですね。日頃真面目に働いていても、そう言ったなんていうんだろうな。解放されたいみたいな、気分に味わいたい時もあるんですね」
倉持「何が言いたいんだよ」
葦江「いやー感慨深いな。人間ってやっぱり欲を満たしたい生き物なんですね」
倉持「あのさ、だったら来るか」(ぶっきらぼうに)
葦江「え!人様の行為をそんな・・・」
倉持「ハア」(疲)
倉持 歩いていく
葦江 倉持の跡をついていく

○外人パブ・前
倉持 迷わず入っていく
葦江 いったん足を止め
葦江「え、ここ?」

○外人パブ・中・夜
外人パブでいくつかの外国人の女性が大爆音のE D Mをかけて踊っている
そこに、倉持と葦江が入っている
倉持「ちょっと話聞きたいんだけど」
陽気な外国人「え?ちょっと。何」
倉持「は・な・し・が・き・き・た・い」
外国人「あー」
倉持「わかった?」
外国人 首を傾げる
倉持 ため息
外国人 倉持の方をたたき、カウンターを指差して
外国人「アノヒトイル」
倉持「あー。あそこの人?」
外国人「ウマイ」(喋りのジェスチャー)
倉持「うまい?・・・あー(納得)。聞きゃあいいのね。」
倉持 葦江 踊っている人をさけカウンターの椅子につく
倉持 愕然とする

○取調室
司法通訳の蓬田が入ってくる
アンと取調べの警官が座っている
警官(「一向に喋れる様子じゃないですよ」
蓬田「あっ。そうですか、」
アンと向かい合う蓬田
蓬田「では、取り調べを行います」

○パブ・カウンター・中
葦江「えー二人とも夫婦だったんですね」
マヌ「何、新しい女?」(倉持に)
倉持「んなわけないだろ」
葦江「久しぶりの再会なのにやけに重たいですね」
倉持「こんなところで会って喜べるわけないだろ。元々は、介護職やっていたし、だから親権も譲ったんだけど」
マヌ「悪かったね。でもこっちの方が稼ぎがいいから。ちょっと日本語がわかんない感じ出せば、お金持ってる日本人はすぐにお金くれるし」
葦江「おー日本語上手ですね」
倉持「在日二世だから」
葦江「ちなみにお国の方は」
マヌ「インドネシア」
葦江「へー」
倉持「子供は?」
マヌ「家でおとなしくしてる」
倉持 “フー”(ため息)と
マヌ「なんか用?」
倉持「別に・・・」
マヌ「仮にもし女じゃないとしてもさ、ここには連れてこないでよ」
倉持「あっ、そうだ。用があるんだ、ちょっと探してる人がいてさ」

○美瑛飛行場
お爺さん「そう言えば田村さん、新しい奥さんがおったな」
佐藤「ほんと?その人って?」
お爺さん「うーんとなんかな、肌がちょっと黒くて元気なお嬢ちゃんだったよ」
佐藤「へー」
お爺さん「田村さんも元気やなーって思って“大丈夫?田村さん”て聞いたのよ。そしたら」
佐藤「そしたら?」
お爺さん「俺が買った娘や」(一緒に)
田村「俺が買うた娘や」
お爺さん「だってさ」

○パブ・中・戻って
倉持「っていうわけで今その女の人を探してるのよ」
マヌ「ツィ・・・」
倉持「うん?」

○海鮮料理店・中
西岡「おー。田村さん」
田村「健ちゃん。元気?」
西岡「いや、全然っすよ。ご無沙汰です」
田村「しばらく会ってなかったもんね」
西岡「田村さんがきてくれたらいつでもサービスするのに」
田村「悪いね」
西岡「全然っす」
田村「あっコレ。紹介しとかなきゃ、俺の新しい女」
とツィを紹介する
西岡「田村さん・・・」
田村「なんだよ」
西岡「相変わらずムスコ元気ですね」
田村「まだまだ現役だよ」

○パブ・中・戻って
マヌ「その子の名前はツィ。19歳。」
倉持「19!?ヨボヨボの爺さんが・・・」
マヌ「おそらく彼女はロヒンギャ」
葦江「ロヒンギャってあの」
倉持「なんでそんなことわかる。」
マヌ「私がここで働かせてた」
倉持・葦江「?」
マヌ「前同じ老人ホームで働いていた時に、知り合って。国籍がないから、いつこの職を追われるかが不安だって」
倉持・葦江「・・・」
マヌ「だから、ここで働かないか?って。ここには似たような人たちも多いし、時給もいいからオススメだよって」
倉持「どのくらい働いてた」
マヌ「来て半年くらい」
倉持「いつから、田村とそういう関係に」
マヌ「ツィが働いてからしばらくして田村が来た時から」
葦江「口説いたんですか?田村って人が」
マヌ「そんな生優しいもんじゃないよ。ある特殊なルアーを使ったの」
葦江「ルアー?」
マヌ「“国籍、ないんだろ”って。」
葦江「クソみたいな奴ですね」
マヌ「普通、娘の前で口説くかって」
葦江「へえ・・・娘?」
マヌ「ここにいる人たちはそういう人たちばかりで。大概の女は田村と体をかわしてる。私は、国籍も持ってたし家庭もあったから。だけど、私のお母さんは田村と寝てる。多分」
葦江「強情な奴ですね」
マヌ「でも生きていくために身を粉にして犠牲にしている子もいた。それがツィ。」

○パブ・中
ツィ「来ない・・・私に来ない」
ツィ「私に来てない」
田村「おーいツィはおるか」

○パブ・中・戻って
倉持「じゃあ、俺の義理の親父って」
マヌ「元ね。離婚してるからもう」
倉持「あ・・・」
マヌ「もういい?・・・さあ帰った帰った。イラッシャイマセ」

○パブ・外
倉持・葦江が出てくる
葦江「それにしても田村ってすごいんですね。大勢の女を手籠めにできるって、飛んだ性病野郎ですね」
倉持「どっからその性欲が出てくるのか」
葦江「少女は老人に体を売り国籍を買った・・・みたいなものですよね」
倉持「俺からしてみれば、結婚してる当時からここで働いてるって知らなかった」
葦江「あ・・・奥さん。家庭裁判所に言ったらいいんじゃないですか」
倉持「親の影響で環境がコロコロ変わる子供の気持ちを考えたら」
葦江「ふーん」
倉持 電話がかかってくる
倉持「はい・・・え?わかりました。すぐ行きます」

○警察署・中・朝
西岡が警察官に保護されながら歩いている
西岡 “どうもすいません”と
佐藤「青森の愛人のところに行ってたみたいですよ」
赤井「相変わらず、ゴロツキだな」

○海鮮料理店
ロックとアン休憩しに来ている
アン「Xin chao」
ロック「?」
アン「Anh sao roi?」
ロック「・・・」
アン「ベトナム語喋れない?」
ロック「・・・うん」
アン「うそ?それっぽい感じ出てるよー」
ロック「生まれも育ちも日本」
アン「日本?ふーん」

○捜査会議・中
赤井「結局1からやり直しか」
佐藤「西岡じゃないとなると誰なんでしょうね」
赤井「わからん・・・D N Aはとってあるんだろ」
真樹「照合する人がいません」
佐藤「誰ですか?この人」
赤井「あー検死官の真樹さん」
佐藤「どうも」
赤井「行方不明者から探せないのか」
佐藤「大概、爺さんや婆さんでしょ。そんな中から、西岡をピックアップすることができた。だけど、見つかった以上どうすることもできない」
真樹「死後硬直は解けた後でしたからね」
赤井「え?」
真樹 調書指差す
佐藤「じゃあ、もともと死んでたと?」
真樹「えー」

○スナック・中
倉持 焼け酒をしている
そこに葦江・里田がくる
葦江「あれ?刑事さん。なぜここに」
倉持「初めっからやり直し」
葦江「へー事件ですか?あー残念でしたね」
里田「誰ですかこの人(葦江)」
葦江「ん?刑事さん・・・あの死体の調査」
里田「あー」
倉持「あー(ため息)」

○捜査会議・中
赤井「日航機の事故みたいに、歯牙鑑定できないのかね」
真樹「あれは、搭乗客を絞り込んだ上でカルテを調達できたんで、うまく行ったんですよ」
赤井「そっか・・・」
真樹「なんも知らないんですね」

○スナック・中
里田「それにしても、すごい人ですよね」
葦江「なんか報道解除される前にこんなに人が集まってたみたいで、どっかから漏れたんじゃないですか」
倉持「警察は何もしてない」
里田「あっそれ俺がツイートしたからですよ。異常なまでの“いいね”付きましたね」
葦江「あーそれで人がいたのか、なんでだろうなって不思議だったの」
里田「俺です俺です」(笑いながら)
倉持「馬鹿野郎」
そこでテレビが
キャスター「さあ、今話題の死体の街厚岸にオカルト研究家でもあり、文筆家でもあられる火柱先生が言っております。火柱先生。」
火柱「はい。どーも」
里田「あれ、この人最近出てますよね」
キャスター「どうですか、厚岸の町は」
火柱「そうですね・・・やはり何かあるような気がしています」
キャスター「それはやはり、感じますか」
火柱「はい。この街には何か魔物のようなものが住みついてるのではないでしょうか」
キャスター「やはりそうですか、今大勢の観光客が押し寄せている厚岸ですが、そのことを地元の住民の方はどう思ってるんでしょうかね」
火柱「そうですね、先ほど私インタビューしまして、街の観光課のかたにお話を聞くことができました」
葦江モザイクがかけられた状態で
葦江「そうですね、ここは本当にいいところなんですけど、死体が降って来たことで有名になるのもなんだか複雑です」
里田「あっ葦江さん」
葦江「やった。全国ネットのテレビに出てる私」
はしゃぐ二人
倉持「くだらねー」

○捜査会議・中
赤井「健康的な成人男性、行方不明でもあり、断定が難しい人物と言ったら誰だ」
佐藤「・・・不法滞在者とか。」
赤井「外人か・・・入管にデータを添付してもらうか」
真樹「もしくは国籍がない人」
赤井「無国籍者。」
佐藤「日本には1万人いるみたいですからね」
赤井「難しくなるな断定。でも、このタイミングで西岡がいなくなった理由も皆目見当がつかない」
佐藤・真樹「・・・」
赤井「そういや西岡の店って西岡以外全員外国人だっただろ」
佐藤「あー。そうですね」
赤井「普通置いていくか?」
佐藤「それは外国人だけを残してと言う・・・」
赤井「そう・・・ちょっと倉持をよべ」

○スナック・中
葦江「いやもうちょっとメイク濃かったかな」
倉持「どうせ、モザイクだから見えてねえよ」
佐藤がくる
佐藤「おい倉持」
倉持「あ?」

○海鮮料理店・前
店の鍵を開けようとする外国人を捕まえて
倉持「ちょっといいかな」
外国人「何?」
佐藤「あの日って、本当に何もなかった?」
外国人「ないって言った」
佐藤「うん・・・西岡さんって明日から?」
外国人「うん・・・」
佐藤「そう、この近くで行方不明になった外国人とかって聞いたことない?」
外国人「・・・」(下を向く)
倉持「何か知ってる?」
外国人「・・・」
倉持「教えてほしい。もし知ってることがあるのなら。」
外国人「・・・」
倉持 警察手帳を出して
倉持「秘密は守る」

○海鮮料理店・中
西岡「お前この調子やったら、何回も何回もお前を呼び出してさ、こんな風に言いよるけど言ってる俺も、お前も何の生産性もないけんな。わかっとっとお前」
ロック「ハイ」(小)
西岡「あ?」
ロック「ハイ」(大)
西岡「ハイーやなくてさ、お前さっきからイラついとるやろ」
ロック「イエ」
西岡「俺に恨みでもあるっちゃろ、」
ロック「イエ」
西岡「あ?」
ロック「イエ」
西岡「あん。お前ずーっとその調子やったらなんもできんぞわかっとんのか」
西岡 小鍋でロックを叩く
ロック首の付け根を押さえながら
ロック「スミマセン」
西岡「もう戻れ」
ロック 首を押さえながら洗い場へ来る
そこにアンがきて
アン「Thang khon」
ロック 笑う

○喫茶店・中
倉持「教えてほしい。あの日のこと」
外国人「あの日は、三人いなくなった。」
佐藤「西岡さん以外にってこと」
外国人「店長いれて」
倉持「すると二人」
佐藤「その二人ってどんな人」
外国人「外国人」
佐藤「名前とかってわかる?」
外国人 首を傾げる
佐藤「そこまではわからないんだ」
外国人 頷く
佐藤「コレさ、一回西岡さんに聞いてみるから」
外国人「言わないで。他の人にバレたくない」
佐藤「大丈夫、君のことは秘密にしておくから」

○町役場
里田「あっ宿泊所の供給って追いついてるんですか」
加賀美「いやあそりゃあもう急ピッチらしいよ。なんせ、空き家を民泊にするって話だけどね」
里田「ここら辺孤独死が多いじゃないですか」
加賀美「そうだね」
里田「なんか、出ないんですか」
加賀美「それも醍醐味での宿泊なんじゃない」
里田「そっか、なんせ死体を目的にしてるくらいですからね」
加賀美「死体なんてもう回収されてるのに、大衆心理なんだろうね」
葦江「昔のようには戻らないんですかね」
加賀美「無理でしょ。なんせ死体様様だから」
里田「死体でもブームが過ぎたらそれまでですよね」
加賀美「だからそれに付随して色々と宣伝しているわけよ。温泉とかね」
里田「温泉が・・・何ですか?」
加賀美「“生き返りの湯”だって」
里田 ブッ 笑
昭彦「おい。みんな見てくレ」
里田「何すか?」
昭彦「これきて街を案内してほしい」
里田「“冥土案内人”」
加賀美「いくら何でもここまでとはね」
昭彦「このチャンスを逃すわけにはいかない」
里田「明日からですか・・・まあ頑張りましょう」
加賀美「そうだな」
里田 加賀美 袖にはける
葦江「お父さん。これで本当にいいの?」
昭彦「何が」
葦江「死体・・・これはビジネスじゃないんだよ」
昭彦「何寝ぼけたことを言ってる。これは千載一遇のチャンスなんだ。第一、アウシュビッツには大勢の観光客が集まってる。歴史がそう証明してる。人が死ぬとそこからはお金が湧くんだよ」
葦江「本気」
昭彦「本気だ。もうちょっとで借金も返せる。そしたらまた元のように豊かで穏やかな厚岸が戻ってくる」
葦江「・・・」
昭彦「できれば、死体の所在はわからないままであってほしい」
葦江「何で?」
昭彦「ほら・・・少しオカルトチックだろ」

○取調室
赤井と西岡が対面している
西岡「あのさ、だから知らないの・・・」
赤井「お前がいなくなった日ちょうど2人がいなくなってんだ」
西岡「誰が言ったんだ」
赤井「守秘義務があるから」
西岡「あのね、俺は被害者なの。いなくなって勝手に捜索届出されて、しばらくしてみたら、警察だの、マスコミだのでうんざりなんだよ」
赤井「お前のところの従業員が事件に巻き込まれたかもしれないんだぞ」
西岡「知らねえよ。よく逃亡する奴が多いんだよ」
赤井「それは、不法滞在者だからか。悪いけど、不法滞在者を働かせていたお前は斡旋の罪で逮捕することもできるんだぞ」
西岡「脅してんのか?」
赤井「人ぎきの悪いな」
西岡「こっちはマスコミに警察に虚偽の供述を強制されましたってチクることもできるんだぞ」
赤井「本当に知らないんだな」
西岡「知らねえよ」

○公民館・中
真樹と倉持がいる
倉持 調書を見て
倉持「あれ、田村を検死したのって真樹さんなんですね」
真樹「あーそうだね」
倉持「どんな感じだったんですか?死んでた時」
真樹「酪酸発酵してたね」
倉持「酪酸発酵?」
真樹「肉片から水素や酢酸などを生成するの、死後20日から2ヶ月前後に発生するね。田村さんの場合は30日だったけど」
倉持「もうそれは異臭で?」
真樹「そう、ウジが沸いてた」
倉持「うえっ」
真樹「なんかね、広い家には住んでたけど、結局何も人望がなかった人なんだろうなって」
倉持「真樹さんもそう思います?」
真樹「うん。普通誰か見に来るじゃん心配になって」
倉持「はい」
真樹「でもそう言えば、女の人から電話があったんだよね」
倉持「え?」
真樹「なんか、介護士らしい」
倉持「介護士・・・」

○喫茶店・中
佐藤「他にさ、西岡とその外国人のことって知ってる?」
外国人「あの・・・その人ベトナム語喋れない」
佐藤「誰が・・・」
外国人 悩む
佐藤「外国語喋れないけど外国人・・・国籍とかはわかる?」
外国人「わからない。多分ベトナム」
佐藤「その人に知り合いはいた?」
外国人「アンと」
佐藤「アン?もう一人の?」
外国人「うん・・・あと女」
佐藤「女?」
外国人「女と仲良かった。」
佐藤「その人は・・・」
外国人「店長の仲良かった人の娘」
佐藤「その仲良かった人ってこの人」
田村の写真を見せる
外国人「頷く」
佐藤「そうか・・・西岡ってどんな人だったの?」
外国人「言いたくない」
佐藤「何で。」
外国人「暴力振るってた」
佐藤「どんなふうに」
外国人「ここ(首の付け根)をものでこうやって」
外国人 叩く仕草
佐藤「へえ、田村さんって知ってる?」

○捜査会議・中
倉持「もし外国人の場合でも断定は難しそうですか」
真樹「難しいことではないし、入管から届いたデータで不法滞在者の詳細がわかるけどさ
倉持「それで合致すれば・・・」
真樹「指紋とかとか取ってないし、背格好で判断するしかない」
倉持「なるほど・・・」
真樹「でも首から上はない」
倉持「そうですよね」
真樹「だけどさ、コレ・・・」
倉持「ん?」
真樹 調書の写真を見せて
真樹「椎骨の椎間関節がずれてんのよね」
倉持「あ・・・」
真樹「首の粘膜・・・ここにさ、木片刺さってんじゃん」
倉持「・・・はい」
真樹「何が検出できたと思う」
倉持「え?あの死体が降ってきた時に木の木片かなんかがめり込んだんじゃないですか」
真樹「馬鹿。木は死体のどこに刺さっていた?」
倉持「股関節です」
真樹「となると、降ってくる前に木片が刺さった可能性が高い」
倉持「はい」
真樹「この椎間関節がちょうどずれた時に木製の何かがあったとしたら」
倉持「なんですか?」
真樹「コレからね・・・カンジダ酵母が取れた」
倉持「カンジダ?」
真樹「糠床の成分」
倉持「糠床・・・何でそんなものが・・・」
真樹「コレを酒樽に入れてるとしたら・・・」
倉持「あ・・・」
真樹「女だからとか、検視官だからって言うのは置いておいて、私は西岡が怪しいと思う」
倉持「え?」
真樹「警察官じゃないけど、そんな予感がしてる。西岡が経営者なら、労働者の時間帯の把握はできるだろうし、調整もできる。近年、技能実習生に過重労働させて死亡させてしまうケースがよくある」
倉持「西岡が罪を犯したと」
真樹「私の場合はそうなんじゃないかなって。でもこの検体をよく見ると、そもそもなぜ首の粘膜の方に木がめりこんでいるのかが疑問でしょうがないんだけど、コレはおそらくクモ膜下出血なんじゃないかって」
倉持「クモ膜下ですか・・・」
真樹「クモ膜下出血により意識が・・・クモ膜下腔が出血をして倒れた可能性が高い。あくまで私の推測だけど、これは外傷性椎骨動脈乖離なんじゃないかって思うの。」
倉持「外傷性・・・」
真樹「つまり、ここ(倉持の首の付け根を押さえて)の動脈が乖離したってこと」
倉持「それがどうかしたんですか」
真樹「それがクモ膜下出血を起こさせた」
倉持「はあ・・・いまいちピンと来ないんですけど」
真樹「つまり、急にクモ膜下にはならずに、きちんとした下地をした上で起きた。」
倉持「それがその・・・」
真樹「外傷性椎骨動脈乖離、つまり首の皮一枚で繋がっていた状態」
倉持「首の皮一枚・・・外傷ってことは外からの圧力で・・・」
真樹「そう。一般的なくも膜下の発症する年齢層は40代から50代の女性に多い。この脳動脈瘤が破裂しておきるんだけど、健康的な成人男性の場合もなくはないけど、それが労働時間外で働かせいたことなどによる過労が原因だとすると話は別。業務上過失致死。」
倉持「西岡が犯罪者」
真樹「そして、これが常日頃から暴力を振るっていたとしたら」
倉持「え?」
真樹「この死体にはたくさんの打撲痕があった。古い痕から新しい痕まで。この動脈乖離に至るまでには外側からの圧力がじわりじわりと負荷をかけていた。」
倉持「・・・」
真樹「もし西岡が日常的に暴力を振るっていたとしたら」
倉持「・・・あ」

○喫茶店・中
佐藤「西岡ってどんな人だったの?」
外国人「言いたくない」
佐藤「何で。」
外国人「暴力振るってた」
佐藤「どんなふうに」
外国人「ここ(首の付け根)をものでこうやって」
外国人 叩く仕草

○捜査会議・中・公民館
真樹「それ本当?倉持くん」
倉持「・・・はい」
真樹「そっか、」
倉持「どうします」
真樹「首から上の頭って探せる?」
倉持「頭・・・」
真樹「頭があればくも膜下出血ないし動脈乖離を証明できる」
倉持「本当ですか、」
真樹「ホルマリン固定したものをスライスしてプレパラートに観察すれば・・・」
倉持「大丈夫なんですね」
真樹「頭があれば西岡の傷害致死を証明できるかもしれない」

○海鮮料理店・中
アン「ベトナムに行ってみたい」
ロック「・・・うん」
アン「僕、ベトナム帰りたい」
ロック「帰りたい?」
アン「うん・・・もう疲れた(笑)」
ロック 笑う
アン「どういうところか知ってる」
ロック「うちの母親の母国ってことくらいしか」
アン「お母さんは?」
ロック 首を傾げる
アン「いつか行こう。ここでお金をてめて」
ロック「た・め・て。ね」
アン・ロック 笑う
アン「あっ俺ベトナム語教えるよ」
ロック「え?」
アン「ベトナム行った時困らないように」

○捜査会議・中
佐藤「つまりもう一人探さなくちゃ話にならないってことですよね」
赤井「手立てはあるか」
佐藤「各方面に要請するしかなさそうですね」
赤井「そうなるな・・・」
倉持「もう一人の方もベトナム人なんだっけ?」
佐藤「そういうことだろ」
赤井「つまり操縦していたのが・・・操縦免許も無しに操縦できたのか?」
佐藤「田村の所持しているプライベートジェットにはF M Sと呼ばれる飛行管理装置が導入されており、目的地だけを指定してオートパイロットが可能になっているモデルだそうです。実際に高齢の田村も自身で操縦できていたそうですよ」
赤井「そうか・・・だったらそのベトナム人が操縦していた時に落下した。後ろにはその死体を乗せて・・・」
佐藤「そう考えるのが自然じゃないですか」
赤井「どこにいるそのもう一人・・・死体は見つかっていない」
佐藤「死んでなきゃいいですけど」
赤井「・・・」
倉持「・・・」
ラジオの音
キャスター「先月、活汲駐屯地の近くで全身から血を流し、怪我をおった外国籍とみられる男性が倒れているのを通りすがりの人に発見されました。現在は市内の病院で療養しているようですが・・・」
倉持「あ・・・」

○取調室
蓬田・倉持 歩いている
蓬田「あの、お名前は」
倉持「釧路本部の倉持です」
蓬田「司法通訳の蓬田です。今回の被告人は多少の意識障害があるようなので、過度に刺激するような態度は気をつけてください」
倉持「はい」
蓬田 ドアを開ける
アンが椅子に座っている
蓬田 倉持も座る
蓬田「では取り調べを始めます」
倉持「あの台風の日にさ、君は死体が落ちるのをみてたんだろう」
アン 膝を抱え向こうを見る
蓬田 倉持を手で諭す
蓬田「Anh co thay cai xac ngay cua con bao roi xuong khong?」
アン「Toi khong biet. Toi thuc su khong biet」
倉持「?」
蓬田「わからない。本当にわからないって言ってます」
倉持「わからないはずがない。君にもう一人いたその人のことが知りたいんだ」
アン 頭を掻き毟る
倉持「同胞なんだろ?知らないはずがない」
蓬田「ちょっと」
アン 頭を掻き毟る
倉持「なあ、思い出せ」
倉持 アンを執拗に問い詰めている
倉持「お前にしかわからないんだ。あの日の出来事は」
アン「わからない。わからない」
倉持「日本語喋れるじゃないか。通訳を介さなくても君の口から聞きたい」
蓬田「いい加減にしてください。倉持さん」
倉持「お前しか、あの夜は見てないんだよ」

○海鮮料理店・中
西岡「お前さ、これ何回も呼び出されてもなおらんね」
ロック「エ?」
西岡「え?じゃないったい。わかっとっとやお前。何が“え?”や、」
ロック「スミマセン」
西岡「いい加減せんとさ、お前。俺も我慢の限界やけん」
ロック「ハイ」
西岡「あ?」
ロック「ハイ」
西岡「ちゃんとしろよ」
西岡 外国人の頭を小鍋で突く
ロック 頭を抑える

○捜査会議・中
赤井「ダメだったか。」
倉持「はい」
佐藤「答えなかったか」
倉持「うまく聞き出せなかった」
佐藤「そんなこともある」
倉持「一人がベトナム語を喋ってるってことは、もう一人は何なんだ」
佐藤「何が?」
倉持「ほら、あれだよ。2人のうち一人がベトナム語・・・もう一人は」
佐藤「日本語を喋る外国人・・・渡ってきたってことか。不法入国の無国籍。」
倉持「ペラペラなわけだよな・・・日本語」
佐藤「難しくなるぞ・・・」
赤井「実を言うとさ、」
佐藤・倉持「?」
赤井「上から、捜査の打ち切りが示唆されている」
佐藤「じゃあ、あの死体はどうなるんですか」
赤井「日本人じゃない限り、捜査は難しくなってくる」
佐藤「まさか外国人だからってことはないですよね」
赤井「外国人の場合立証が難しくなる。それくらいお前もわかるだろ」
佐藤・倉持「・・・」
赤井「それにオリンピックも近い。官民一体となって成功させなければいけない。上からの指令だ」
倉持「赤井さんは悪くないですよ」
赤井「・・・」

○取調室・中
蓬田「De toi noi cho anh biet」
アン「・・・」
倉持「・・・」
アン「Su sinh ra tai Qui Nhon」
蓬田「私はクイニョンで生まれました」
倉持「君のことじゃない」
蓬田 倉持に(落ち着いて)と
アン「Sao cau khong den Nhat khi cao 19 tuoi? Toi da duoc」
蓬田「19歳の時に日本に行ってみないかと知り合いに言われました」
アン「Toi da rat xau ho, bai vi toi khong biet nola gi」
蓬田「私は戸惑いましたどんなところかわからなかったからです」
ここから同時に
アン「Nhung ong ay noi. Nhat Ban co nhieu lan so voi thu nhao o day Neu ban song doi da ova tro lal day, ban se giau co.」
蓬田「ですが彼は言いました。日本はここの所得の何倍もある。豊かに暮らしてここに戻ってくれば君はお金持ちだと」
倉持「本当にそれを信じたのか」
アン「Ong da lam quen voi nha moi giai Nha moi gioi cung noi.”Toi co the tr alai mon no cua minh ngay lap tuc” Toi den day voi 2 trieu khoan no tu nguoi quen」
蓬田「彼はブローカーと知り合いでした。そのブローカーは言いました。“お金なんてすぐに返せる”と。私は知り合いから200万の借金をしてここに来ました」
倉持 頭を抱える
蓬田「Va sau do?」
アン「Du la dia nguc」
蓬田「地獄でした・・・」
アン「Toi bi nguar quan ly cua hang danh dap moi ngay va het len, va tinh than duong nhu ky la」
蓬田「毎日店長に叩かれて怒鳴られて精神がおかしくなりそうでした」
倉持「・・・」
アン「Va roi toi lam quen voi Rock」
蓬田「その時に知り合いました。ロック」
倉持「ロック。そいつはロックっていうのか?」
アン「・・・」
倉持「教えてくれこれは大事なことなんだ。あの死体の所在が分かればあれを本国へ移送できる」
倉持 蓬田に(早く訳せと)
蓬田「Noi cho toi biet. Dieu do rat quan trong. Neu chung ta biet cai xac o dau, chung ta co the chuyen no ve que huong cua chung ta.」
倉持「あの死体は帰ることができるかもしれないんだ」
アン「帰る・・・」

○海鮮料理店・中
アン「ベトナムに行ってみたい」
ロック「・・・うん」
アン「僕、ベトナム帰りたい」
ロック「帰りたい?」
アン「うん・・・もう疲れた(笑)」
ロック 笑う

○取調室・中
アン 息が荒くなる
蓬田「落ち着いて。落ち着いて」

○ニュース
キャスター「警察の捜査は今日中に終了すると見られ、規制線が解かれるのを今か今かと待ち望んでいる観光客が大勢押し寄せている模様です・・・さあ今解かれました、多くの警察官と観光客がすれ違いに交差しております」
観光客A「いや、マジ嬉しいすよ。早く現場に行きたいっす」
観光客B「オカルトファンからしてみるとここは聖地ですよ」
キャスター「いやあ、本当に待ち遠しい瞬間で画面の向こう側からもはっきりとその気持ちが伝わってきます」

○厚岸町・中
死体案内人の手隙をかける
葦江「はい、ここからは立ち入り禁止になっているので進めません。写真は自由に撮っても大丈夫です」
里田「人いますね」
加賀美「トータル10年分だよこれ」
里田「どんだけ人いなかったんだよって感じですよね」

○捜査会議・中
真樹「ホシはロックっていうの?」
倉持「おそらく・・・」
真樹「そっか」
倉持「西岡の海鮮料理屋に令状を出して、ロックの所在が確認できないか調べられないですかね」
真樹「難しいかもね」
倉持「そうですかね」

○海鮮料理店・中
西岡「じゃあよろしく。今回面接をします。西岡って言います」
ロック「どうもロックです」
西岡「はいどーも。まずは就労ビザ見せてもらっていい?」
ロック「持ってません」
西岡「何で、日本で働くにはそれが必要やっとよ」
ロック「あの、僕日本で生まれ日本育ちなんで必要ないんですよ」
西岡「本当や、出身埼玉?めっちゃ日本語うまいと思った」

○捜査会議・中 戻って
倉持「でも仮に、そうなったとしても普通に身分を証明できるものがないとダメですよね」
真樹「西岡も一応そんなんで雇ったりしないだろうから、何か証明できるものは?と聞く」

○海鮮料理店・中
西岡「なんか住民票の写しとかないと?」
ロック「あ、はい」
ロック 住民票の写しを見せる

○捜査会議・中
真樹「今はネットで大量に住民票の写しが出回ってる。この場合、明らかに外人くんに落ち度がある」
倉持「あー」
真樹「私文書偽造。これがもし出てきた場合に店側は知らなかったと言えばそれで通ってしまう」
倉持「そうですよね。」
真樹「本当にそれが死体の重宝人だとも限らないし」
倉持「かなりの賭けですよね」
真樹「頭さえあれば」
倉持「・・・」
真樹「見つからなかったんでしょ?」
倉持「えー。かなり捜索したみたいですけど」
真樹「誰かが持ってたりして・・・」
倉持「まさか・・・」
真樹「ほら、香港のナイトクラブで働いていた女性が監禁・拉致されて死亡したの。犯人は遺体をバラバラにして頭をどこに隠したと思う?」
倉持「どこですか?」
真樹「テディベアの人形の中に隠した・・・」
倉持「そんなことあります。」
真樹「その事件テディベア事件っていうのよ」
倉持「へえ。」
真樹「例えばだけどね」
倉持「それにしても詳しいですね。真樹さん。検死官なのに」
真樹「今年で5体目」
倉持「え?」
真樹「最近の外国人はよく変死する」
倉持「へー」

○テレビ
キャスター「今ですね。話題になっているのがこちら。フォーク曲げ。これができるという、外国人が日本に緊急来日しています」
外国人登場
キャスター「ちょっとやってもらっても大丈夫ですか?」
外国人「3・2・1」
キャスター「おー」

○厚岸町・道
葦江「もう嫌だな。やめたいですよ」
加賀美「そんなこと言わないの。美人が崩れちゃう」
葦江「はぁ」
里田「加賀美さんこっちきてください」
加賀美「はい。はい」
加賀美 どっかへいく
そこに倉持が出てくる
葦江「あっ。どうも」
倉持「あっ」
葦江「もう。捜査終わったみたいですね。テレビでやってましたよ」
倉持「そうだよね。何やってんだろうこんなところで」
葦江「もう。釧路の方には戻らないんですか?」
倉持「そうなんだけど。あと・・・」
葦江「あと・・・」
倉持「頭とか持ってないよね」
葦江「頭?・・・何の?」
倉持「あの死体の」
葦江「持ってないですけど、」
倉持「そうだよね、持ってるわけないか・・・馬鹿だな俺は」
葦江「言っていいんですか?守秘義務とかは・・・」
倉持「もう、捜査終わってるから・・・」
葦江「そうですけど」
倉持「あっそうだ・・・ぬいぐるみには気をつけてね」
葦江「何でですか?」
倉持「前ね、その中に頭入ってたことあるから」
葦江「キャー」
倉持「ハハハ冗談だよ」

○捜査会議
佐藤「ホシは無国籍者だったのか」
倉持「そんなことは誰にもわからないからな」
佐藤「そしたら・・・ホシはおそらくタイ系ベトナム人だと思う」
倉持「何でそんなことがわかる?」
佐藤「以前ドキュメントかなんかで見たことがある。ホシが日本に来たときが1980年後半だとする。当時の日本は高度経済成長で人の需要があった。そこで外国人の多くが渡航してきた。その中の一部がベトナム人。当時タイではスーチンダーが首相になって反発した市民と軍隊が衝突。死者が大勢出て、ベトナムに逃げ込んだ。その先に日本という開拓路を見つけた。でも行って数年でバブルが崩壊。それにより帰国する人が大勢出たんだけど、タイとベトナムで国籍の所在を押し付けあって帰れなくなったタイ系ベトナム人がいたらしい」
倉持「じゃあ、そうなったら日本で生きていくしかないな・・・どうやって生きてきたんだろう今まで・・・」

○町役場・中
里田 後ろから加賀美にテディベアで脅かす
加賀美「おー何?」
里田「今度、厚岸、テディベア社とコラボすることになったらしいですよ」
加賀美「へーご当地の特産品みたいなやつだろ。うちはまさか・・・」
里田「まさかだと思うじゃないですか、それがですね。牡蠣なんですよ」
加賀美「えー牡蠣?」
里田「道の駅で売られるらしいですよ」
加賀美「へー」
里田「それで・・・その在庫なんですけど」
加賀美「え?もう出来てんの」
里田「そうなんですよ」
加賀美「どこ」
里田「玄関のほうに」
加賀美「あれ?段ボールの?みたい」
里田「こっちです」
加賀美「わかってるよ」
テディベアを置いていく
葦江がくる
葦江「はっ。へ?怖い怖い怖い。何何何何。何で?え?」
葦江 テディベアに驚く
昭彦がくる
昭彦「次さ、こういうの考えてんだけど・・・」
葦江「え?何何何何。ちょっと電話しよう」
昭彦「あれ、みんなは。」
葦江「ちょっと、倉持さん倉持さん。」
昭彦「葦江。葦江。」
昭彦 葦江の腕を掴む
昭彦「どうした?」
葦江「いやちょっと」
昭彦「落ち着け、一旦落ち着いて」
葦江「頭の所在がわかった。わかったかも・・・」(喜び)
昭彦「え?」
葦江「いや、それがね」
昭彦「ちょっと貸しなさい」
葦江から携帯を取る
昭彦「電話はさせない」
葦江「え?何で・・・」

○捜査会議・中
佐藤「その真樹さん?が西岡が暴力を振るって引き起こされたっていうのならあの死体が何で木に刺さっていたと思う?」

○海鮮料理店・中
西岡「お前さ、これ何回も呼び出されてもなおらんね」
ロック「エ?」
西岡「え?じゃないったい。わかっとっとやお前。何が“え?”や、」
ロック「スミマセン」
西岡「いい加減せんとさ、お前。俺も我慢の限界やけん」
ロック「ハイ」
西岡「あ?」
ロック「ハイ」
西岡「お前俺のこと舐めとらんよな」
ロック「イイエ」
西岡「あ?」
ロック「イイエ」
西岡 気を付けろよ
西岡 小鍋でど突く
ロック 首の方を抑える

○捜査会議・中
倉持「西岡は日常的に暴力を振るっていた。真樹さんによると首のところにかなりの負荷がかかっていたって」

○海鮮料理店・中
西岡「お前この調子やったら、何回も何回もお前を呼び出してさ、こんな風に言いよるけど言ってる俺も、お前も何の生産性もないけんな。わかっとっとお前」
ロック「ハイ」(小)
西岡「あ?」
ロック「ハイ」(大)
西岡「ハイーやなくてさ、お前さっきからイラついとるやろ」
ロック「イエ」
西岡「俺に恨みでもあるっちゃろ、」
ロック「イエ」
西岡「あ?」
ロック「イエ」
西岡「あん。お前ずーっとその調子やったらなんもできんぞわかっとんのか」
西岡 小鍋でロックを叩く
ロック首の付け根を押さえながら
ロック「スミマセン」
西岡「もう戻れ」
ロック 首を押さえながら洗い場へ来る
そこにアンがきて
アン「Thang khon」
ロック 笑う

○捜査会議・中
佐藤「それがいつか悲鳴をあげた」

○海鮮料理店・中
アンとロック笑っている
ロック 倒れる

○捜査会議・中
倉持「どんな場面でかわからない。だけど後ろには木製の酒樽があったんじゃないかって」

○海鮮料理店・中
倒れているロック
アン「大丈夫?大丈夫?」
西岡「おい!お前何かしたっか?」
アン「何もしてない」
西岡「なんかしたっちゃろ」
アン「何もしてない。何もしてない」

○町役場・中
葦江「お父さん大丈夫?なんかあった?」
昭彦 震えが止まらない
葦江「ねえ、お父さん言わなきゃわからない」

○捜査会議・中
倉持「そして、ロックを連れ出した」

○海鮮料理店
西岡「おい。こいつを裏で休ませとけ」
アン ロックを後ろ向きに抱える

○捜査会議・中
倉持「何で病院に連れて行かなかった。」
佐藤「おそらく、不法滞在であることがバレるのが怖かったのかもしれない」
倉持「死ぬかもしれないんだぞ」
佐藤「わからない」

○海鮮料理店・前
アン出てくる
ロックのズボンのポケットから携帯を取り出す
ロックの指で指紋認証を解き
ツィへ電話
アン「早くきて・・・」

○町役場・中
葦江「ねえ。ねえ」

○捜査会議・中
倉持「そう言えば、田村の女もきてたんだよな。西岡の店に」
佐藤「ああ・・・何らかの形で示し合わせたか」
倉持「無国籍同士惹かれあったとか?」

○海鮮料理店・中
ツィと田村 西岡が話している
ツィとロックがすれ違う

○町役場・中
葦江「お父さん。お父さん」

○捜査会議・中
佐藤「それを知ったアンが電話した。そのまま田村邸へ・・・」
倉持「田村はもう死んでた・・・」
佐藤「田村の死体をどうするかという時に、ロックが倒れた。三人とも所在がバレてはいけない。」
倉持「ロックは死んでるから2人だけど」

○田村邸・中
ロックを運んでくる
アン「どうすればいい?」
ツィ「分からない・・・あれ」
ツィ 指差す
アン 田村が死んでいる部屋を開け
アン“うえっ”
アン「どうする、どうする?」
ツィ「何とかなるよ」
アン「ならない。ならない。どうすればいい?」

○捜査会議・中
倉持「そしたらアンは?」
佐藤「ベトナムへ連れて帰ろうとした」

○田村邸・中
アン「ロック、ベトナム、帰る」
ツィ「は?」
アン「何とかして帰りたい」
アン あたりを見渡す
アン「あれとかダメ?」

○捜査会議・中
倉持「飛行機に乗せて帰ろうとでも」
佐藤「でも現実問題それしか辻褄は合わない。どう証明する、機内の椅子とパラシュート。アンが現場近くの駐屯地で発見されたのと、死体を加味すればそれしか考えられない」
倉持「じゃあ、ツィが飛行機の操縦の仕方を教えた」

○田村邸・中
ツィ「ここをこうして、目的地はどこ?」
アン「クイニョン」
飛行機のエンジンがつく
アナウンサー(声)「大型で非常に強い台風21号は今夜にかけて道東に上陸の模様です。」

○捜査会議・中
倉持「分からない。分からない。そこまでして連れて帰ろうとしたのか?なぜ入管に言わなかった?」
佐藤「入管に入れられたらそれこそしまいだ」
倉持「そんなこと外国人がわかるか」
佐藤「わかる。お前はな潜在的に日本にいる外国人を見下している。外国人にはな、理性も秩序もあるんだよ」
倉持「いや、馬鹿だ。馬鹿以外の何者でもない。誰が飛行機で帰ろうと思う?」
佐藤「・・・」
倉持「一体この事件はどこに辿り着くんだ?」

○飛行機・中
アンが操縦している
ロックが後ろの方で横たわっている
嵐が来ている
期待に損傷が起きる
作動が効かなくなり、格納庫が開く
アン「ロックー。アー。アー」
飛行機が墜落

○捜査会議・中
倉持「分からない。本当にわからない。こんな事件は見たことも聞いたこともない。・・・俺は人間が分からなくなる」

○町役場・中
昭彦「俺はな、あの時山林にいた。死のうとしたんだ。もうどうすればいいか分からなくなった。」

○尾幌山・夜
台風で雨が降っている
昭彦 レインコート着て首にロープを縛り死のうとする
昭彦「誰も見にこないと思った。そうした時に何かが当たったんだよ」
昭彦 ロックの頭が飛んでくる
昭彦「はじめは何かわからなかった。でも見たら」
昭彦 血だらけになっている手を見て“アッ”と
後ろを向くと加賀美が懐中電灯で来ているので逃げる
昭彦「無性で家についたそしたら加賀美さんから電話があって」
加賀美「もしもし清水さん。貯水池の点検で山に来てみたら死体があってさ、もうびっくりして、俺どうしていいかわからなかくて」
昭彦「そしたら俺も疑われると思った。あそこにいたのは俺と加賀美さんだけになる。俺が絶対疑われる。そしたらまた向かってたんだ」
昭彦 骨壺を持っていく
葦江「その頭はどこにあるの?」
昭彦「お墓の骨壺のところに」
葦江「そのまま?」
昭彦「・・・」
葦江「行こう。警察に行こう」
昭彦「行けない。ここを離れるわけには行かない」
葦江「お父さん」
昭彦「葦江。あともうちょっとなんだ。もう少しで借金が返せる。もともと上のやつが築いた借金だ。何も言われる覚えはない。」
葦江「・・・」
昭彦「なぜ、この厚岸が多くの借金を抱えるようになったと思う?」
葦江「それは・・・」
昭彦「バブル特需でホテルやレジャー、リゾートなどの建設を急いだ。だけど崩壊して杜撰な財政処理と赤字隠しが見え隠れするようになった。それでも何とか持ち直そうとかしたわけではない。自分たちがまさか破綻するとは夢にも思わなかったために、給与水準や人件費、観光投資事業をやめなかった。その付けを誰が払ってると思う?俺みたいなバブル特需の恩恵を受けなかったやつだよ。若いやつが全てを背負わなければいけない。今、その予算を蔑ろにしてた連中はジジイになってボケて全てを忘れたみたいな顔をして生きている。だからこの悲劇を若い人たちに受け継いてはいけない。だから俺の代で止める。俺がもし捕まってみろ、事件の真相をあやふやにしてたって世間から総攻撃だ。これは絶対守り通してほしい。お前はお父さんが犯罪者になってもいいのか」
葦江「・・・」

○警察署・中
倉持が戻ってきてまた出て行こうとする
赤井「おい、倉持」
倉持「・・・」
赤井「どこへ行く」
倉持「課長には関係ないですよ」
赤井「関係ないわけないだろ。あの死体について嗅ぎ回ってるのか」
倉持「・・・」
赤井「やめておけ。お前が関わってどうにかなる話じゃない」
倉持「あと、もう少しで掴めそうなんですよ」
赤井「首か・・・」
倉持「なんで、それを知ってるんですか」
倉持 佐藤を見る
佐藤 顔を逸らす
赤井「もし、首が海に沈んでいたらどうする」
倉持「泳いで探します」
赤井「倉持!」
倉持「・・・」
赤井「いい加減に目を覚ませ、お前はいつから、あの死体に入れ込むようになった」
倉持「・・・」
赤井「そんなにあの死体が好きか」
倉持「死体じゃない」
赤井「え?」
倉持「あれは死体じゃない。“ロック”っていうんだ。あの死体にはちゃんと名前がある」
赤井「何寝ぼけたこと言ってんだ」
倉持「最後があんなのじゃかわいそすぎるだろ。あの死体は生きていたんだ。」
赤井「いい加減目を覚ませ。お前はあの死体に踊らされてるんだ」
倉持「・・・」
赤井「聞くところによると、あの死体とともに働いていたという外人、意識障害だそうだな。
事件当時のことを思い出すと、脳に混乱が生じるそうじゃないか。それは法的になんの効力もない。田村の女とやらの姿が見えない。ってなったら誰が証明できる」
倉持「一人証明できます」
赤井「誰だ」

○喫茶店
外国人「言わないで。他の人にバレたくない」

○警察署・中
倉持「それは・・・言えません」
赤井「なぜだ」
倉持「言えない人だからです」
赤井「警察だ。俺もお前と共に働いてきた。その俺にも言えないっていうのか、」
倉持「・・・」
赤井「今日はもう帰れ。少し頭を冷やしてこい。お前は優秀な部下だ。こんな揉め事でクビになんかしない。」
倉持「・・・」
赤井「明日の合同対策会議には出られるか、釧路はベトナムのホストタウンだからな」
倉持「え?」
赤井「ほら、オリンピック」

○事件現場・夜・雨
葦江 木の真下にいる
そこに倉持が来る
葦江「あっ、どうも」
倉持 会釈する
葦江「どうですか、事件の方は」
倉持「フン・・・ちょっとね」
葦江「・・・」
倉持「あと、もうちょっとなんですよ。首さえ見つかったら・・・」
葦江 下を向く
葦江「・・・あの」
倉持「?」
葦江「誰かがもし持ってるとしたら」
倉持「首を?」
葦江「はい・・・それは罪になりますか?」
倉持「あー。うーんとね、証拠隠滅、業務妨害。あと、変死者密葬っていう罪になるね」
葦江「そんなに・・・」
倉持「執行猶予もつかない。情状酌量もない」
葦江「・・・私はね、」
倉持「!」
葦江「ただ、この街がそういう死体の街になったことに驚きを隠せなくて・・・。いい街なんですよ、本当に。何もないかもしれないけれど。空気は美味しいし、人々は優しくて、ほろ苦い経験と甘酸っぱい思い出の宝庫です。・・・それなのに、死体が落ちてきて、もちろん死体は落ちてくる場所なんて選べなかっただろうけど、もうちょっと外れてたらなーって。贅沢なんですかね。それで食わせてもらってるのに。潤ってるのに。みんなあの死体に夢中になった。我を忘れて利益を求め出した。それにつられた人々が次から次へと押し寄せてくるのは耐えられなくて」
倉持「・・・」
葦江「これは天命なんですかね」
倉持「あれは、あれは落下物だ」
葦江「え?」
倉持「ただの落下物なんだ。ちょっとだけ異臭がして、人の心の深くに住みついて離れないようなそんな落下物なんだ」
葦江「・・・」
倉持「時期皆忘れる」
葦江「そうですよね・・・そうですかね」
倉持 葦江のところへいき抱く

○道・朝方・マジックアワー
倉持・葦江が歩いている
葦江「今夜はどうも」
倉持「今朝ですよ。もう朝なので」
葦江「久しぶりだから」
倉持「自分も奥さんと別れてだいぶ経つんで」
葦江「どんなに長い雨が降り続けてもまたこうやって朝が来るんですね」
倉持「そうですね」
葦江「あっ。私はもうここで」
倉持「あ。はい」
葦江 別の道へと歩み出す
倉持 時計を見る
倉持「まだ間に合いそうかな」

○海鮮料理店
西岡がビア樽を持って出てくる
西岡「早くそれしとけよ」
倉持が西岡の胸ぐらを掴み壁に押し出す
倉持「どこにやった?どこにやった」
西岡「え?」
倉持「首だ。」
西岡「なんのこと。」
倉持「首をどこに隠したかって聞いてるんだよ」
西岡「お前馬鹿なの?そんなもん知るわけがないだろ」
倉持「真面目に答えろ。お前以外の誰が持ってるっていうんだ」
西岡「あのさ、誰おっさん」
倉持「警察だ。お前がな“ロック”の首を持ってんのかって聞いてんだよ」
西岡「あのさ、なんのこと言ってんのさっきから」
倉持「いい加減にしねえと殺すぞ」
西岡「俺は知らねえよ。誰だその“ロック”って」
倉持「お前が日頃から暴力をふるい、労働時間外にまで働かせていたロックだよ」
西岡「いちいち名前なんて知らねえよ」
倉持「あ?」
西岡「とっとと帰れ」
倉持「お前、ふざけん」
西岡「ふざけてんのはお前なんだよ」
西岡 倉持を蹴っ飛ばす
西岡「あんた、何やってるんのかわかってんの?」
倉持「・・・」
西岡「あのさ、俺はそんな奴は知らない。いいからとっとと帰れ」
倉持「お前は知ってる。覚えているはずだ。お前はあの日ロックに対して暴力を振るった。」
西岡「いい加減にしろよ」
倉持「その後にあいつは倒れた。首の付け根から倒れたロックは意識を失った。」
西岡「いい加減にしろよ」
西岡 倉持の顔を蹴る
西岡 荒い息の状態で
西岡「そんなに俺の証言が取りたいか?あ?・・・じゃあ、教えてやるよ。俺はあの時にあいつが倒れるのを見ていた。それを別の奴が抱えてどこかへ連れて行った。そのあとは知らない。よくよく考えてみれば俺は日頃からあいつらに暴力は奮っていた」
倉持「時間外労働もさせてたんだろ」
西岡「そうだよ。だけどな、どこでもやっているこんなこと。」
倉持「・・・」
西岡「いちいち暴いて回りたいか。あ?それでじゃないと日本は回らない。」
倉持「酷使してまでもか」
西岡「しょうがねえだろ。日本人がやるかこんなこと。俺の周りの人間はな、こんなことやらない。本当の“生きる”辛さを知らない。這いつくばって、泥をなめて、見えない明日に苦労したことがない。」
倉持「じゃあ、なぜ自分と同じような外国人を陥れた?」
西岡「俺はこいつらを同じだとは見たことはない。こいつらによく言われるのはな、“日本が好きだから”とか“遠いところからわざわざ”とかだけど、そんなんじゃない。現実には、何故来たのかと聞いてみれば、“遊ぶ金が欲しかったから”とか“ここにくれば裕福な暮らしが待ってる”とか、自分の欲のことしか考えていない。ある程度経済発展した日本の財力に寄生しているだけだ。それならばそれで、こっちにも考えがある。こいつらの欲望を少しだけ超えて手伝ってもらってるだけだよ」
倉持「・・・」
西岡「お前は楽天家だ。そんなんだから事件の真相に近づけない」
倉持「殺したことは認めるんだな」
西岡「あー。そうかも。俺が殺した・・・のかもしれないね」
倉持「・・・」
西岡 倉持のところに近づいてくる
倉持の襟のポケットから録音レコーダーを取り出し
西岡「って、言わされました」
西岡 倉持のスマホの録音レコーダーをおす
西岡「いつまでこんなことやってんだよ(殴る)。おい(殴る)」
倉持「・・・」
西岡「今時自供が流行ってんのか?あ?」
倉持「・・・わかってんのか?お前警察に暴力振るってんだぞ」
西岡「元はお前から突っかかってきたんだろ、まあそっちがなかったことにするんなら話は別だけど」
倉持 呆然とする
西岡「俺は、そんな外国人なんて知らない」
西岡 立って戻ろうとする
倉持「じゃあ、なんで逃げた」
西岡 止まる
倉持「お前が逃げなければ、もともとは疑われずにすんだんだ。」
西岡「・・・」
倉持「青森の愛人が心配になって逃げたんじゃない。お前は自分が殺したんじゃないかっていう疑念に駆られてにげたんだ。お前は自分がしたことを自覚している」
西岡「・・・」
倉持「俺たちはお前を裁けない。捕まえることもできない。だがなお前は一生その疑念に囚われて生きていく。死ぬまで誰もお前を助けてはくれない」
西岡 ドアを開けて入る

○屋上
佐藤「大変だったな。」
倉持「・・・」
佐藤「あっ、そうだ。」
倉持「?」
佐藤「これ見ろ。」
佐藤 携帯のスマホを見せる
佐藤「今、トレンドらしい。オカルトサイトのヌーってやつなんだけど、ほら、これ、空中浮遊っていうんだって。どうやら静岡県の宗教団体の教祖がこれ出来たって。すごいよな。トリックだとしても見ものだよな」
倉持「・・・」
佐藤「あの事件からだっけ?このオカルトブームが来たの。いつからこうなっちゃったんだろうな。あれもあれで一種の影響となって波紋のように広がっていく。過去の怨嗟は未来を築くって」
佐藤 倉持を見る
倉持 黙って佐藤を見続ける
佐藤 焦って
佐藤「なんか、ごめん・・・」

○遺骨遺留品保管所
女「こちらになります」
女 どこかに捌ける
清水「どうも、」
清水 合掌する
お腹の膨れたツィが横から現れる
清水 顔を上げる

○どこかの空室
真樹「結局西岡は捕まらないんだよね、怪しいと思ったんだけどな、」
倉持「一応、西岡のこと入管の窓口に連絡しましたよ。匿名で、」
真樹「へー。で?どうだったの?」
倉持「なんか、不法就労斡旋の罪で刑務所いきです。」
真樹「そうなんだ。・・・でも、またすぐに出てこられるんでしょ。」
倉持「ええ。」(顔を下げる)
真樹「変わったよね、世の中。」
倉持「え?」
真樹「あの事件が与えた影響で本来もつ隠れた人相が浮き彫りになった。誰も彼も変わった。深い遺恨と消えない残像を人に植えつけて、世の中を変えた。私も、私を取り巻く環境も、・・・あなたも。」

○町
カウントダウンが刻一刻と迫ってくる。
アンが血だらけになって山から降りてくる雷がバーンとなる
5・4・3・2・1と差し迫っていき
全員(倉持以外)「ハッピーニューイヤー」

終わり