屍1

私は男たちの屍の上に生きているというお話。
ホントに下衆なんだわ。
何が欲しいんだか何になりたいんだか
大好きで大好きでいつも会いたくて、
でもいつも不安で仕方なくて、
最後は全部壊しちゃう。

20年くらい前の話。

5歳くらい年下の男の子と付き合ってた。
でも、私には当時もう6年くらい付き合って同棲している彼がいて
まぁ二股だな。もちろんその年下の彼には全部話してたし、
別れてよって言われてたかな?よく覚えてないけど。

週末はいつもそっちの彼の家に行ってて、
2人で大阪行ったりしたなぁ。断片ながら思い出が色々。

でも、ある日の週末、普通に彼の家に行ってたら、
電話かかってきたんだよね。
元からの彼!
私のPHSから番号控えられてたらしい・・・

「今すぐ電話に出せよ」って言われて
彼が「いない。間違いだ。」とかなんとか適当胡麻化してくれたけど
「今からそっち行くからな!」って電話切られて
あれは人生ベスト5に入るくらいテンパった。
テンパり過ぎて何故か眠くて眠くて仕方なくて寝た(笑)

結局ハッタリで住所まではわかっていなかったらしく、
もちろん来なかった。

それで帰ってから当然別れ話になって、
結構揉めて、すったもんだしたけど
その時はすっかり新しい年下の彼が好きだったから、とりあえず別れましょうってことになったんだけど、
情かな?いざ別れるってなると寂しくて寂しくて
別れたのは別れたけど、何故かそのまま同棲した彼の家に居続けた。
当時私は夜に働いていたから、普通に昼に仕事をしている彼とは家にいる時間が違かったし、ただの同居ということでまぁいいかと。

それで、週末だけ年下の彼の家へ、ってことをしばらく続けた。
もちろん年下のほうの彼は別れたのに同居をし続ける関係性に不満たらたらだった。でもうまくダラダラとひっぱって、なんだか歪なところでバランスが取れた変な三角関係だった。

自分だけの彼女が欲しいって、いつも言ってたな。
一緒に暮らしてるだけなんだからいいじゃない?って諫めてたけど、今思えば酷いな。そんな都合の良い話。

そんなん続けてたら、他の女の影がチラつきだしたよね。
当たり前だー
私はなんにも文句なんて言えないんだけど、
だからって、それを容認するような器量もなく、
もちろん自ら身を引くような女でもない。

捨てられるのは嫌だった。
他の女と共有するのも嫌だった。
じゃあさ、もう別れるしかないじゃん?
でも、私と別れて幸せになんてなってほしくなかった。

なんとなく、嘘ついてみた。
「多分妊娠したと思うー」
すっごく困るだろうと決めつけてたから、
どんなふうに慌てるか?興味津々で。

そしたら、すっごい嬉しそうにしてた。
あんたまだ21歳だよ?給料だって安いじゃん?子供なんて養えないよ。
そう言ったら、
「一緒に田舎(京都の近く)に帰ろう」って言いだした。
田舎は家賃安いし、仕事見つけて働いて、実家の母親も子育て手伝ってくれるから!って。なんの躊躇もなく言った。

思わず想像したよ。
東京じゃない地方の町で、今目の前にいるこの子と子供を育てる。
それってなんか素敵だな。
そんな人生もありじゃん?って思った。
でもさ、真っ赤な嘘だから。私のお腹にはなんにもいないわけ。

やっぱりいい子だな。
私は身を引くべきなんだろうな。

「私は田舎で貧乏暮らしなんて無理。子育てだってできないし、子供は諦めて」
私はそう言って、それから何時間も話した。

「あなた、他に女の人いるでしょ?」

どさくさまぎれに聞いたら、彼はすぐに肯定。
もうずっと私とは別れようと悩んでたって。
そりゃそうよ。こんな理不尽な三角関係に巻き込まれて、あなたも大変。私ももううんざり。でも、あの子が言ったのよ。
「なぎさちゃんがいなくなることを考えると、胸のこのへんがぎゅーって苦しくなるんだ。」そしてみぞおちの少し上あたりを指さした。
私はなんだか全てがどうでもよくなった。
なんでって?私があの子のことを考えるとき、全く同じ場所が、同じようにぎゅーって痛くなるから。
嬉しくて、でもどうにもならないことが悔しくて、なにもかもどうでもよくなった。

結局、子供は始末するってことに納得させて、駅前のキャッシュディスペンサーで30万円キャッシングさせた。手術代諸々。

千歳船橋の駅の改札で彼はしょげきっていた。「ごめんね」って何度も言ってた。

私は「もういいから。」って慰めて、
電車がホームに入ってきたのを見定めて自動改札を通った。そして振り返って、改札越しに赤い目をして立ってる彼に言った。

「全部嘘だよー!子供なんていない!」
彼は呆然としていた。
「あなたが大好き。でもほんとにバカね。大バカヤロー」
盛大にアッカンベーして電車に飛び乗った。
走り出すと、離れていく、彼のマヌケ面。

その足で恵比寿のタトゥーショップへ行った。胸に掘ってもらったのは小さな赤い蝶々。

死んでしまった私の恋人の記念碑。
いや、私が殺したのね。

もうこれ以上続けられない。
でも、大好きだった。愛おしかった。
顔も見たくないくらい憎まれないと私は諦められない。

私は男たちの屍の上に生きている。

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