石井光太が語る「路地裏に立つ女性たち」4

求められる「ライフストーリーに寄り添う支援」

山浦:支援のために声がけをするときに、「大変だったね」とか「つらかったね」っていうその一言が、女性たちにとっては「あっ、この人私のことわかってない」と否定に感じられることが多いと聞きます。

石井:そういうこともあるでしょうね。だって、もし小学校3年でいじめが原因で不登校になり、6年生の終わりにようやく登校した時、いじめを傍観していたクラスメイトから「大変だったね」「つらかったね」と言われたらどうです? 何をいまさら、と不信感を膨らませますよね。相手の立場に立った意見じゃないんですよ。
そういう子にしてみれば、信じられないクラスメイトといるより、同じようにいじめられていた子や、不登校になっている子と一緒にいた方が信用できるし、安心していられますよね。学校のレールからこぼれ落ちた子が同じような仲間と集まるのはそのためです。
売春だって同じです。彼女たちからすれば、同じ夜の街の人たちと付き合っていた方が安心ですし、体を売ることができなくなっても、何かしら夜の街とかかわる仕事をしていた方が合っている気になる。
この感覚を理解するのは大事です。
彼女たちが大切にしたいと思っているのは、夜の街で生き抜いてきたというアイデンティティーであり、誰かにそのことを認めてほしいという欲求です。だとすれば、社会の側が歩み寄ろうとするならば、それを押さえる必要があります。

(中略)

山浦:少年院出所者の問題も同様でした「明日からは心を入れ替えて頑張れ」ということが逆に呪縛になっていく。本来なら少しずつ環境に適応するための準備から必要なのに、リハビリ期間もないのに急に社会で一人前になれと言われること自体が大きなプレッシャ-となって、支援を拒むことにもなっている。

石井:20代の子であっても、10代の子であっても、みんな必死に生き抜いてきているんです。そんな彼らの人生を、たまたまうまくいった大人の尺度で失敗だの何だのと審判を下したって何にもなりません。大切なのは、まず彼女たちの歩いてきた道のりをきちんと理解することなんです。
(前略) 社会がしなければならないのは、彼女ら、彼らがこの先の生きていくための力をどうつけさせるのかを考えることです。彼らが歩んできた道のりや、持っている力はバラバラです。だから、個々のストーリーを見て、彼らが大切にしているものを共有した上で、スモールスタートで一歩ずつ進んでいくしかないと思うのです。

石井光太
作家。1977年生まれ。国内外の貧困、災害、事件の現場を取材。著書に『こどもホスピスの奇跡』『格差と分断の社会地図』など多数。

聞き手/山浦彬仁
NHK制作局ディレクター。1986年生まれ。クロ現+「外国人労働者の子どもたち」「虐待後を生きる」「コロナ禍の高校生」「ルポ少年院」「さらば!高校ドロップアウト」など制作。

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