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another story-ほんとのところ㉔

ー3月公開の映画があるの!
しかも、これ、ようちゃんにぴったりじゃない?一緒に見に行こうよー

メッセージと一緒に公式サイトのリンクを送った。

ーうん、これちょっと気になるー

ようちゃんが反応する。
公開までまだ一か月あるから
きっとどこかでスケジュールを調整して行こうと言ってくれるはず。

離れかけて行くようちゃんの心を取り戻そうと必死になっている。

「なぎには幸せな恋愛して欲しいな」
「ハラハラする恋愛していて楽しい?
それ、恋愛じゃなくて修行だよ。私なら絶対嫌だな」

弓子の言葉を思い出し苦笑する。
離れて行く縁は追いかけるなとインスタのリール動画でも観た。
そのときは、なるほどそうだよね、と納得したのに
なぜ自分の事となるとできないのだろう。

切りたくない縁があってもいい。
離れないでと追いかける縁があってもいい。
ようちゃんに拘るのが悪いと誰かに決めつけられたくない。
もし、ようちゃんとの縁が切れた後に新しい出会いがあるとしても
そんな出会いなんていらない。
私はようちゃんがいい・・・


はやる気持ちを押さえてドアをノックし教室に入った。
こんにちは、に続いて期待に胸を弾ませて言った。

「ようちゃん、LINEで送った映画を観に行きたいの。
いつなら大丈夫かな?」

いいよ、いつにしようっか?

そう言ってくれるのを期待した。
ほんの少し、たぶん、2.3秒くらいの間があった。

「その言い方はないでしょ?
人を誘うとき、いつもそうなの?誘い方ってあるでしょ?」

えっ・・絶句する。
誘い方?少し考えて教科書の模範解答みたいに言い直した。

「映画を一緒に観に行きませんか?ようちゃんの都合はどうですか?」

「そうでしょ?普通そう言うよね?」

「ごめんなさい。ようちゃんの3月の予定はどうですか?」

ようちゃんはバッグからスケジュール帳を取り出してサッと見た。

「まだ先のことは分からない。
それにね、僕、あんまりスケジュールに縛られるの好きじゃない。
〇月〇日ね、って決められると前日に行きたくなくなるとか、よくあるの」

約束の日が近づくと憂鬱になる症候群とでも言いたいのだろうか。

「それに僕は、今日の夜ご飯食べに行かない?って誘ったとしたら
いいね、私行けるよって人と気軽に会いたいの」

「そんな、、働いていたら、今日って言われて
分かったって直ぐに返事できる人ばかりじゃないでしょ。
友だちとランチ行くのにも、お互いのスケジュールを合わせるでしょう?
私、そんな人初めて」

ようちゃんは、今、会いたいと思った人に声をかける。
きっとノリが良い人と一緒にいたいんだ・・・

「じゃぁ、合わないんじゃない?」

今までだって、前もって日にちを決めて会っていたのに
どうして急にそんなことを言い出すのだろう。
もう、会いたくないってこと?

「私はようちゃんが好きだから会いたいって思うのに」

「それ自分の気持ちだけでしょ?僕の気持ち考えたことある?」

「・・・ようちゃん、他に好きな人ができたの?」

「それはない!そんな人欲しいくらいだよ!」

声を荒げたようちゃんの態度に驚いて肩を窄めた。

「ごめんなさい・・・」

ようちゃんが時計を見上げる。

「もう50分だよ?どうするの?やるの?」

このままじゃこの前と同じになる。

「やります」

息を飲んで答える。
案の定、見の入らない上の空のレッスン。
でも、レッスン中だけは、ようちゃんは普段の先生のようちゃんだ。

ありがとうございました、と逃げるように帰った。
モールの中を歩きながら思った。
これってフラれたってこと?
ようちゃんに会いたくない、でも、会いたい。
私はどうすればいいのだろう・・・






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