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歩く

歩く。
ひたすら歩く。
ひとりでひたすら歩く。

悲しいことや腹が立ったことや
嬉しいことがあったとき
晴れの日でも雨降りでも
心を無にしてひたすら歩いた。
気楽な散歩とは違う。

その日は、いつも見上げていた小高い丘の上で
月を眺めたくなって
一週間は安静にしていてください、と
産婦人科の先生に注意されたはずなのに
片道5㎞の距離をひとりで歩いて丘を登った。

歩いていると膣からサアっと血が流れ出たのが分かった。
生理のドロッとした溜まっていた血が流れ出るのとは違う。
手を切ったときみたいに脈拍に合わせるように噴き出す出血と同じ。

感染防止のためにタンポンは使用禁止だったから
普通サイズのナプキンしか付けていなくて焦った。
立ち止まって下半身に神経を集中させて
ナプキンがきちんと吸収してくれたのを確認した。
幸いに出血感はその一度きりだったから安心してまた歩き始めた。

急な勾配の坂に登りと下りの二車線が走る道路。
歩いている人はいないし民家も無い。
湫といわれる湿気が多くて水草などが生えている低湿地。
夜6時を過ぎると辺りが薄暗くて、正直気味が悪い。

こんなところでもし出血多量で倒れてしまったら
誰にも発見されずに死んでしまうかもしれない。
でも、それでもいいやと思った。
自暴自棄?そうでなきゃ、こんな無謀なことはしない。
魂だけになって好きな人に会いに行きたかった。
その人の首の後ろからすっと入り込んで憑りつきたい。
そうすれば、ずっとずっと一緒にいれるから。

1時間程歩き続けてようやく丘の上に辿り着いた。
夕焼けのオレンジ色が細く残っていて
群青色の闇がもうすぐそこまで迫っていた。
マジックアワーはもう終わっちゃった。。。
もう少し早く辿り着いていたら良かったのに。。。

細くて白い三日月を空に見つけて写真を撮った。
そして、その写真をLINEで彼に送る。
ベンチに座り月を眺めた。
しばらくして、送ったLINEが既読になっていることに気付いた。
返信はない。いつもと一緒だ。

この丘に登れば何かが変わると思っていた。
だけど、期待したこと、、、
彼から連絡が来るとか、、、は何も起きない。
疲れた体と思考があるだけ。
それでも、心を無にして歩き続けたいと思った。
その先に何があるのか、いや、期待しても何も無いのかもしれない。

それでも、歩く。
ひたすら歩く。
ひとりでひたすら歩く。

帰り道は坂道で思ったより早く帰ることが出来た。
疲れたからよく眠れると思う。
寝る前に彼を想って涙を流さずに。。。





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