ジャズ、過ぎ去るべきもの

フリージャズの為に

こんなもの読んでもらう必要はないし、私のいる前でこの文章や、あるいはプレイリストや取り上げられている音楽たちについて追求されても別に納得の行く話をできるわけではないから、この投稿は書き手である私の存在とは切り離されたものであると思ってほしい。が、かねがねいつかは言語化せねばと思っていた主題について今回駄文を綴らせていただこうとおもう。

ジャズとは元来、自由の音楽ではあった。一方でジャズは絶え間ない理論の、つまり法の発展の歴史を孕んでいる。彼らは西洋音楽、あるいは黒人霊歌を換骨奪胎し、ブルースの感覚、情動を合法的に発露する場を常に更新し続けた。その場合の自由とは、既存の法に対する対抗的な措置であった。だからそこでは、自由な音楽的語りの可能性を突き詰めることと理論の更新は常に通時的に行われてきた。モダンジャズの歴史を、僕はそう解釈している。

 一方で、そうした歩みを進めてきたモダンジャズは言ってしまえば不可避的に壁にぶちあたってきた。アドリブのマンネリ化、スピードの限界、そして理論そのものへの懐疑。自分の歌が、不可避的に誰かの歌であることへの絶望感。かつて抵抗者だったもののの論理が権威を帯びる。音楽に限らずあらゆる革命において、この現象が常に見られてきたことを私たちは知っている。そんな時、「いかに自由になれるか」と問うだけでは不十分だ。「自由とは何か」今一度問わねばならなかった。

言い換えれば、「徹底的に抵抗者たるにはどうするべきか」という問いであろう。
フリージャズが主題化したのはこの問題であったと思う。その意味ではジャズにおける最後のモダニズムとも言える。ジャズの本質、つまり自由であることを徹底的に突き詰めた結果、それもまたジャズの形式的な本質であると誰もが信じて疑わなかった要素が解体されていった。コード進行、スウィング、スケール、テンション・ノート、編成、音色云々。本当にジャズであることは、もはやジャズとして語られていない何かを為すことである。というのがフリージャズの姿勢でありマニフェストであった。いや、マニフェストなど誰も掲げてはいなかった。マニフェストが掲げられた途端、演奏者たちの間にはそのマニフェストにどれだけ忠誠を誓っているかという尺度によってヒエラルキー構造が生まれてしまう。だからフリージャズと呼ばれる音楽のようなものを演奏する誰もが、自らが演奏するその何かを言語的にカテゴライズすることもなく、そしてカテゴライズされることを望むべくもなくただ実践に徹していたのだ。それは純化されたものであるが、一方でジャズの正統な歴史からは排除され、マーケティングとも相性が悪い為に(なぜならマーケティングにおいてあるものが商品たらしめられるにあたっては、それがカテゴライズされることが前提的条件であるからだ)音楽シーンには決して前景化されえない。

 もっとも先ほどフリージャズが純化されたものである云々と語ったが、私はそれが必ずしも「純粋な音楽」そのものであるとは思っていない。ジャズとは運動であって、演奏として残されたものはその痕跡にしかならない。そして痕跡とは、なにか土のような形質の上にしか残されないものである以上、根本的に不純物でしかあり得ないからだ。しかし、フリージャズの演奏家たちが残してきた音楽が、異形なものには違いないにしても私たちの親しむジャズというものから生まれてきたもの、ジャズの「奇形児」であるならば、それはジャズという運動のもつ、一つの原理的な側面を描き出しているものとして捉えることができるはずだ。誰もがフリージャズに親しむべきだというつもりはないし、これこそがジャズである、だなんて言うつもりはない。そもそも、それが「本来的なジャズ」だと言われるような音楽など破壊され尽くしてしまった方が良いのだ。ジャズを愛するが故に。しかし、少なくとも「かつてフリージャズと呼ばれる叫びがあった」とだけ知ってほしいのだ。フリージャズは負けてしまった。それでいいのだ。しかし、それが決して完遂されてしまうことを許さない、流動的なものである以上、その精神は様々な音楽の中に通奏低音としていまだに響き渡っている。

 プレイリストはあえて偏愛的なものとした。またここで取り上げる演奏者を選ぶにあたってはフリージャズに関して通常語られるような定義には依っていない。未熟なプレイリストだ。
そして、Apple Musicではほとんど配信されていないながら私の中でフリージャズの金字塔的存在である阿部薫の名演を少ないながら記しておく。


https://music.apple.com/jp/playlist/%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%82%BA%E3%81%A8%E5%91%BC%E3%81%B0%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%AE%E6%96%AD%E7%89%87/pl.u-kv9lb8juL0zGzM?l=en

阿部薫-暗い日曜日

https://youtu.be/APQooR8QHB4

阿部薫-アカシアの雨が止む時

https://youtu.be/XlWClhoTC-0

阿部薫-Lover come back to me

https://youtu.be/GQgRqw_52Sk

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