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魅惑のクルクルになれ②

まるでお蝶夫人の髪型のような、細く長くクルクルしている葉が特徴のフリズルシズル。

しかし、私が店で出会ったフリズルシズルは、あまりクルクルしていなかった。確かに葉先はクルクルしているが、葉元は真っすぐなストレートヘアだったのだ。そんな微妙な巻き具合だったせいか、値段も880円と手頃だった。私はそいつの前で買おうかどうか大いに悩んだ。なぜならアルブカ属は高値だと思っていたからだ。しかし、この値段だったら私も余裕で買うことができる。失敗しても打撃は少ない。これはチャンスではないか?

そしてその場で、どうしたらより一層、葉がクルクルになるかをスマホで調べた。今は不十分なクルクルを、自分の手で良くになるようにすればいい、と考えたのだ。ネットには、「葉を日光に当れば当てるほど、よりクルクルになる」と書かれていた。

日光に当てるだけで良いのか!? だとしたら、とても簡単ではないか!

即座に私の脳内で、目の前のフリズルシズルの葉が、お蝶夫人の縦巻きロールを軽く超え、トゥモローを歌っていたアニーのような見事なカーリーヘアに変化していた。
この頃、ようやく秋の気配を感じさせる季節になっていた。秋の日光は、真夏の日光に比べたら葉焼けの心配がまず無い。今ならベランダの最前線に出せば、いとも簡単にクルクルになってしまうのだ。これは楽勝ではないか?そんなことを考えながら、意気揚々と植え替えしたのが残暑が少し残る10月のことだった。

ところが、その後フリズルシズルの葉は、全く変化がなかった。日光がよく当たるベランダの最前線に出しているというのに…なぜだろう。

ふと空を見上げると、暑い雲に覆われていた。そうか!日照不足のせいか。
振り返れば、購入した頃からずっと曇り空の日が続いていたのだ。これは予想外だった。
すぐにクルクルになると信じていた私は、「今日はこれだけクルクルになりました♪」と毎日の葉の変化にニヤニヤするつもりだったのだ。それがこの分厚い雲のせいで、すっかり予定が狂ってしまった。薄暗い空を見上げ、「雲のヤツめ…」と睨んだところで、天候は変わるわけがない。その後も曇天の日が続き、一向に変化しない葉に見飽きた私は、フリズルシズルの葉を観察することをすっかり忘れてしまったのだ。

そんなある日、「ちょっとクルクルしてきたのでは?」と当時の相方さんが言ってきた。私は驚いて、フリズルシズルを見てみた。確かに前よりも巻気が強くなっていた。毎週末に水をあげていたのだから、私は毎週フリズルシズルを見ていたはずなのに、私は全く気づかなかった。
フリズルシズルの変化にいち早く気が付いたのは、相方さんだったのだ。

ああっ!先越された!

悔しかった。自分で発見したかった。私が、変化に気づきたかったのだ。
悔しさは残るが、やはり巻きが強くなったのは嬉しかった。

一部巻かれなかった葉があったが、これは想定内だった。というのも以前ネットで調べた時、「葉先が痛んでいるとキレイに巻かれない」と書かれていたからだ。
購入時には既に数枚葉先が痛んでいたので、これはネットの情報が正しければ巻かないだろうと思っていたのだ。私のフリズルシズルも例外ではなかったのだ。自分が得た知識通りになったのが逆に嬉しかった。ネットの情報が正しかったことが証明されたのだ。今後、フリズルシズルを育てるのに心強い道しるべができた。

春が来て花が咲き、夏には地上部は枯れてしまうフリズルシズル。そして夏が過ぎて秋には葉が出始める。陽の光を受けて、毎年クルクルと巻いていく。1年を通じて、この激しい変化に戸惑わないためにも、正しいマニュアル本が必要なのだったのだ。

今年もフリズルシズルは、元気に葉を巻いている。そろそろ花を見てみたいと思っているが、今年もまだ蕾がでてこない。こればかりは運を天に任せるしかないのだ。花が咲くまでは、どんな形のどんな色の花が咲くのか、あれこれ想像して楽しもう。


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